第8話 配信者《ライバー》
(お兄ちゃん、大好き)
小さい頃から、とにかく可愛かった妹の
両親を早くに亡くしたこともあり、ずっとお兄ちゃん子で僕から離れなかった。
僕も月渚が大好きだ。
妹のためなら自分の人生を投げ出せる。
そう思って、ずっと頑張っていた。
筈なのに――。
「ご、ごめん月渚……兄ちゃん無理だわ」
僕はネムを抱きかかえたまま、恐る恐る横に移動する。
そのまま巨漢の脇を掻い潜り猛ダッシュで駆け出した。
『おニィちゃ~~~ん、まッてよォォォ! タァべたァァァァいィィィッ!!!』
声質も既に月渚じゃない。
野太くて唸るような籠った不快な響き。
もう別の存在としか思えない、だから逃げ出した。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――)
後ろ髪が引かれる思いで、ひたすら心の中で念じてしまう。
腹をすかせた妹のためならとば、兄としてそう思う贖罪の気持ちはなくもない。
けど、こればかりは絶対に無理だ。
第一、僕は死にたくない!
生きたい! とにかく生きたいんだ!
◇◇◇
――現在。
逃走した僕は洞穴に身を隠すも、月渚に見つかり逆に窮地へと追い詰められてしまった。
土壇場で固有スキル、《配信》を発動してみたものの。
:なんか凄いことになってね?
:おもろい、もっとやれw
:どういう状況よ?
:説明プリーズ
出現させたウィンドウから、尚もコメントが流れている。
他人事のような内容もあれば、煽るような内容まで様々だ。
もうワケがわからない。
けど僕は藁にもすがる思いでウィンドウに向けて呼びかけてみる。
「た、助けてください! 怪物になってしまった妹に食われそうになっているんです!」
:おま。やばくね、それ?
:妹デカすぎんだろ
:そんな漫画見たことあるわw
:兄キだろ、食わせてやんな(ウェーイ
:頑張って逃げて応援しています
:兄不味そうwww
なんなんだこれは!? しょーもない内容ばかりじゃないか!?
ハズレスキルどころかポンコツにも程がある!
だんだんムカついてきたぞ!
「ふざけるな! こっちは命がかかってんだ! 他人事だと思ってなんなんだ、お前らは!!!?」
:なんだ、こいつ?
:ムキになって草
:煽り系だわw
:イラつくンゴ
:とっとと食われちまえ
:兄、頑張れ
:応援するから、これで頑張ってね
【スパチャ】
・《神速》スキルを獲得しました
:なんかコメ荒れてんな?
:うp主、まず落ち着け
ん? スパチャ? ライブ配信の「投げ銭」機能的な?
しかもスキル獲得だと!?
僕は煽りコメントの中に表記された内容に注目する。
ステータスを表示させた。
固有スキル欄に《配信》だけじゃなく、いつの間にか《神速》スキルを習得している。
こ、これって……まさか。
僕は謎だった《配信》スキルの能力について、ある答えを導き出した。
『おニィちゃ~~~ん、ツカまえたァァァァァ!!!』
「――《神速》ッ!」
月渚の爪が届く前に、僕はスキルを発動する。
瞬間、周囲は超スローモーション状態となり、僕はネムを抱きかかえたまま洞穴から脱出した。
そのまま屈んでいる、月渚の背後へと回り込む。
:おお脱出成功!
:やればできるやん
:ウェーイ!
:妹カワイソ
:終了でなくてよかった
:チャンネル登録しておきます
:期待のチャンネル登録
etc……。
表示されたウィンドウのフォロワー数が2000人に達する。
すると僕のレベル2に上がった。
「そういうことか! このチャットみたいなウィンドウは僕のステータスとリンクする形で反映しているんだ!」
じゃあ、このコメントしてくる人達はなんなの?
僕のレベルに影響して、おまけにスキルまで与えてくれるなんて……。
少なくても現実世界とリンクしているわけじゃない。
あと他に考えられるとしたら。
「――まさか貴方達は神様ですか?」
:言うわけねーじゃん
:イラつくンゴ
:それは悪手やわ
:誰が教えるかボケ
:身元特定になる問いは控えてください
なんだかもろ拒否られ、おまけに怒られてしまった。
仮に神様だとしても、やたら口の悪い連中ばかりだ。
まぁ敵ではないことは確かだな。
一部は味方でもないけど。
でもアレとハサミは使いようだと言うし、ここは彼らのノリに合わせてみたほうが良さそうだ。
「怪物になった妹を助けたいんですけどねぇ。何か方法があれば教えてくませんか?」
:ぐぐれカス
:知らんがな
:他力本願やめれ
:兄キ、詳しく
:説明求む
おっ、煽るコメントの中に興味を示してくる内容もあるぞ。
未だに洞穴内をほじくっている月渚の背後を見つめながら、これまでの経緯を簡潔に説明してみた。
:兄、実はいい奴系
:食われてこその兄妹愛
:アナハールって奴、マジきめぇ
:かわゆい妹の素顔見てみたい
:カワイソ
:空腹でそうなったんなら満たせてやりゃ戻るんじゃね?
:頑張れお兄ちゃん、これあげる!
【スパチャ】
・《誘導》スキルを獲得しました
:急に兄キの擁護派増えて草
:みんな涙腺、超弱すぎw
思った通りだ。
無責任で変なコメントばかりだけど、中にはまともに助言してくれてスキルまで与えてくれる人達もいる。
以前、クラスメイトの誰かが僕の《配信》スキルを「動画配信者みたいな」と言った台詞を思い出した。
そして、アナハールが言った「神々の代弁者」という言葉。
つまりこのチャット・ウィンドウは神々のお告げ板。
「
僕はあえて
しかも某人気動画配信者を真似て演じてみた。
:どうした兄? 急にキャラ変わった
:いいね、嫌いじゃない
:やれやれ!
:いい感じになってきたw
:頑張れ!
:応援するよ
やっぱり彼らはこういうノリが大好きなんだ。
気づけば登録者数が3000人に増え、レベル3に上がっている。
なるほど、1000人のフォロワーでレベル1ずつ上昇していく仕組みか。
異世界にどれだけの神様がいるのか書物を読んだ程度じゃわからなかったけど、現実世界では日本だけでも八百万の神々がいると言われている。
この配信をもっとハズらせたら、僕のレベルはとんでないことになるぞ。
「月渚! 兄ちゃんはここにいるぞ!」
『おニィちゃ~~~ん! だァべたァァァいィよォお!』
月渚は僕の存在に気づき振り向いた。
言動からして、すっかり知能が低下している。
ああ、成績優秀で頭の良かった子だったのに……。
今、元に戻してやるからな!
「兄ちゃんを食べたかったら、こっちに捕まえてごらん。今ならネムもおまけだ!」
「ミャア!?」
ネムは思わぬ言動に慌てて降りようとする。
僕は「大丈夫だ」と子猫の頭を撫でた。
『うん、そうするゥゥゥ!』
月渚は巨体を揺らして捕食しようと襲ってくる。
僕は《神速》スキルで逃げながら、記憶を辿ってある場所へ向かった。
そこはミノタウロス達と遭遇した場所。
思ったとおり、奴らは僕達を見失ったまま動かず屯している。
「《誘導》スキル発動ッ! 月渚、あそこに僕より美味そうな連中が沢山いるぞ!」
『おニィちゃ~~~ん、ありがとうゥゥゥ! いただきまぁぁぁウガァァァァァ――』
僕の《誘導》により、月渚はお預けくらい許しを得た猛獣の如く指定場所へと駆け出した。
五体のミノタウロスは抵抗や悲鳴を上げる間もなく、妹に捕食されて頭からバリバリと噛み砕かれていく。
凄惨でグロい食事光景が終わった直後だ。
巨大化していた、月渚の体が萎み元の姿に戻った。
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