第3話 謎の職業

 どうやら魔王軍を殲滅させるしか、僕達が帰還する術はないようだ。


「ふざけてんのか、テメェら! 黙って聞いてたら身勝手なことばかり言いやがって! 売られた喧嘩は買うのが礼儀! 魔王軍とやらの前に、まずテメェら全員ぶん殴ってやるぜ!」


 久賀くんは完全にブチギレてしまい拳を鳴らし、リヒド国王に近づこうと歩き出す。

 彼の後ろを同じ不良仲間である、強面の顔にバリアートのヘアスタイルをしたバリアート鬼頭きとう 拓真たくま。大柄で恰幅の良い力持ちタイプの門田かどた 謙太けんたがついて行く。


「ちょっと、レン! やめなって!」


 久賀くんの彼女ポジの影山かげやま まいが制止を呼び掛けている。

 赤髪のショートヘアで目つきは鋭いが、綺麗な顔立ちをしたヤンキー女子だ。


 その様子を三井達は「へっ、カッコつけやがって」と小声で愚痴り、他の生徒達は「いいぞ、久賀君!」と煽っている。

 僕も彼に守られる側だけど、流石に最強と謳われる喧嘩屋チームを止められるほどの度胸はない。


「――やめろよ、久賀君。今はそれどころじゃないだろ?」


 声を発したのはカースト一位の速水だ。

 久賀くんは足を止め、キッと速水を睨む。


「はぁ? お前、誰に向かって言ってんの?」


「キミだよ。その軽率な行動で、俺達を危険に晒す気か? 見ろよ、武装した兵士が身構えているぞ。クラスにはか弱い女子だっているんだ。後先を考えた方がいい」


「私も速水君が正しいと思います。どうか拳を収めてください」


 速水だけじゃなく、生徒会長の芝宮さんも同じ意見だ。

 久賀くんは「チッ」と舌打ちし、仲間達と元の位置に戻った。


「すまない、速水……教師として真っ先に私が止めるべきだったな」


「いえ、先生。こんな現状、誰でも動揺しますよ。ただ今はみんなの安全確保が優先だと思っただけです」


 速水の言葉に、彼に憧れを抱くギャルの新井が「キャーッ、速水くんカッコイイ!」と黄色い声を上げている。

 うん、僕が見ても彼はカッコイイと思う。

 けど以前から速水のことが苦手なんだ。

 理由は一ノ瀬さんが僕に優しく声を掛けてくれる度に、その後ろで速水が無言で圧をかけてくる。

 まるで「ぼっちが、俺の花音と何話してんだ?」と言わんばかりに。

 だから余計、僕は一ノ瀬さんに憧れながらも距離を置いているわけで……。


「其方らが憤る気持ちは十分に理解できる。だからこそ悪いようにはせぬ、ここにいる限り客人として手厚くもてなそう。どうか魔王軍から助けてほしい、この通りだ」


 リヒド国王は誠意を込めて深々と頭を下げて見せる。

 続いて娘のシンシア王女も同じように頭を下げた。

 二人の誠実な姿に、僕達は何も言えなくなる。


「……国王に王女さん、どうか頭を上げてください。助けてくれと言いますけど、俺達にそんな力が本当にあるんですか?」


 速水が訊いてきた。

 急に喋り出したなと思ったけど、的は得ているので誰も別の意見を言わない。


 その問いに、リヒド国王は頷いた。


「うむ。先程も申したとおり、其方らは女神ミサエラに導かれる際、あらゆる神々から何かしらの恩寵ギフトを与えられ、それに相応しい職業ジョブを得られている筈だ。アナハール、例の術式を」


「ハッ、陛下。これより、お主達のステータスを確認させてもらうぞ」


「ステータス?」


「己の能力値アビリティを見定めるスキルじゃ。そこに、どのような職業ジョブなのか記載されておる。まずは一人ずつ、『覚醒の術式』を施すから、一列に並ぶのじゃ」


 アナハールに促され、僕達は一列に並ばされた。

 なんだか身体検査のノリだ。


 アナハールは生徒の額に手を添え呪文語を唱え始める。

 すると目の前に半透明のプレートが浮かび上がった。

 そこに各自の能力値や職業が記されているようだ。

 

「おおっ! やはりお主は勇者だったのか!」


 速水のステータスを見て、アナハールは歓喜の声を上げる。

 国王は立ち上がり、王女は手を叩いて喜んでいた。

 ミザリーや周囲の騎士達も「おお~っ!」と溜息を漏らしている。


 僕も並びながら、身を乗り出してチラ見する。

 レベル1だけど、間違いなく「勇者ブレイヴ」だ。

 各能力の平均値が「100」と数値化されており、他の生徒の平均数値が10~20だけに群を抜いて高い。


 流石、神に愛される男。

 嫌味を通り越して凄いとしか言えない。


 久賀くんは攻撃力特化の蛮族戦士バーバリアンで、一ノ瀬さんは回復魔法が使える神聖官クレリックだった。

 二人とも一部の能力数値だけなら、速水を上回っている。

 ちなみに白石先生は理科の教論らしく錬金術師アルケミストだ。


 召喚された27名+1匹のうち、25名は稀な上位職だと判明する。

 その度に歓声のどよめきが広間中に響いた。


 ようやく僕の番となる。

 アナハールは額に手を添え、ステータスを表示させた直後だ。


「ん?」


 何故か首を傾げている。


「あのぅ、どうしました?」


「え? いや……なんじゃ、こりゃ? おいミザリー、ちょい見てくれい」


「なんでしょう、アナハール様……まあ、これはいったい?」


 二人は僕のステータスを見て、ひたすら首を傾げている。


 え? 何? なんか問題があったの?

 顔を上げ、映し出された自分のスタータスを確認した。


「――配信者ライバー? 何これ?」


 職業欄にそう記されている。

 それが僕に与えられた職業だ。


「……う~む。こんな職業ジョブ、見たことないぞ。文献にも載ってない筈じゃ」


 宮廷魔法師の賢者アナハールでさえ知らないと言う。


「言葉からして意味不明ですね……そもそも配信って何をするのでしょうか? 陛下はご存知でしょうか?」


「余とてさっぱりわからん。謎のワードだ」


 どうやらこの異世界では存在しない職業のようだ。


「ひょっとして動画配信する的なアレじゃね?」


 男子生徒の誰かがそう呟く。

 確かに僕もそれが過った。

 けど、ここは異世界だよね? 

 スマホも繋がらないのに誰に配信するんだ?

 仮にできたとして、それが戦闘でなんの役に立つんだろう?


 しかもよく見たら魔力値:0じゃないか。

 反面、体力値:300と速水は疎か他の生徒達を圧倒する高数値だ。


 いやそれよりも。


「あのぅ……僕のこれってハズレ職ですかね?」


「ふぅむ……そもそも配信者ライバーがなんなのかわからんからなぁ。そう決めつけるのも些か早計というか、どうなんじゃろう?」


「そうですね。これも佑月様の個性として捉えれば良いのではないでしょうか? 陛下、それでいいですね?」


「うむ、ミザリー枢機卿の言うとおりだ。佑月殿、其方は余の客人に変わりない。『災厄周期シーズン』が終わるまでここに居ても良いぞ」


 リヒド国王は漢気のある言葉を投げかけてくる。

 よ、良かった、みんな温厚でいい人達のようだ。

 僕が読むWeb小説じゃ、役に立たない職業って追放されてしまうのがテンプレだからな。


 けど一方で、


「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!?」


 妹である月渚の職業欄は「???」と表示されている。

 しかもレベル1にもかかわらず魔力値:10000と桁外れだった。

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