第56話 仲間を信じるんだ!
俺たちは今、ラヴェルサの領域に向けて突っ走っている。
東西の勢力が繰り返しラヴェルサを引き付けてくれたおかげで、ここまでの道のりで敵影はまだ見ていない。彼らはだいぶ遠くまで引きつけているみたいだ。地下プラントからの距離が離れるほど、敵が弱くなるんだから、当然だよな。戦後を考えれば、戦力を温存しておきたいだろうし。
俺たちの前には教会のラグナリィシールド部隊がいる。
彼らは一度はアルフィナを見捨てる選択肢をとった。仕方のないことだろうけど、後悔があるのかもしれない。危険な一番槍に立候補してくれた。双星機の左右はドゥディクスの部隊と傭兵組合の精鋭が守っている。復帰した団長たちもここにいる。
今の双星機は完全な状態じゃない。
力を失った俺からアルフィナにバトンタッチしたから出力は問題ないけど、前の戦いの時に俺が左腕を引っこ抜いたせいだ。盾を溶かして左腕を造ったから盾がないし、急ごしらえだから強度も少し落ちているらしい。だから、俺たち全員が盾になって、双星機を目的地まで無事に連れて行くんだ。
「もう、だいぶ奥まで来たと思うけど……」
前回、通った道と同じだから、記憶に新しい地形だ。
何度も頭の中でレトに呼びかけてるけど、返事はない。
そんなに遠くまでは繋がらないし、まだ距離があるってことか。
ラヴェルサの群れはだいぶ外に広がっていってる。
レトなら作戦が始まってることに気づいているはずだ。
この状況で、のんびりお昼寝するような奴じゃない。
「一部の敵がこちらに気づいて向かってきています!」
前方の部隊から報告が入る。
確かに遠くから近づいてくるラヴェルサの姿が見える。
それを追う機人もいる。
体格からして、リグド・テランの機人だろう。
だけど数では圧倒的にラヴェルサが上だ。
「奴らの勢いを止める。ドゥディクス隊、ついてこい!」
ドゥディクスの部隊が離れていく。
連携を考えれば、それしかない。
俺たちは、リグド・テラン部隊がラヴェルサを押さえているすぐ横を通って、さらに奥を目指す。
「(――ンセー! ――るんでしょ!)」
「(レトか!! どこにいる?)」
レトの気配は感じるけど、いまいち場所が分からない。
「(いいから、早く助けに来なさーい!! 変な奴に追われてて、大変なんだから!)」
レトの姿は確認できないけど、確実に近づいてるのが分かる。
レトとの合流は最優先事項だ。
まずは無線で情報を共有する。
「レトの反応を確認。これより合流を――」
言いかけた瞬間、目の前の光景に思わず言葉が詰まってしまった。
先行していたラグナリィシールド部隊が吹っ飛んでいたんだ。
その犯人であろう機人の姿が見えてくる。
奥から現れたのは巨大な剣を構えた機人だった。
見間違えるはずがない。
俺たちの象徴だった機人だ。
「マジかよ、
「散開! 奴の狙いは双星機のはずだ。剣星、双星機が逃げてる間にレトと合流しろ」
「くっ、了解!」
ここで時間をかけたら、敵は再び終結してくる。
そうなったら作戦は失敗だ。
頼んだぜ、イオリ。
「……って、コイツ! 狙いは俺なのかよ!!」
聖王機はレディア・ソローに向かって一直線に迫ってくる。
双星機はほったらかしだ。
状況的に考えて、聖王機がレトのことを追っていたんだろう。
アルフィナに目標を変えるなら理解できる。
それが何で俺を?
「(ケンセー! ぼさっとするなー!」
レトの声に反応して、聖王機の攻撃を躱す。
たぶん、ラグナリィシールド部隊も聖王機に驚いてしまったんだろう。
そうじゃなきゃ、精鋭の彼らが簡単にやられるはずがない。
最高の性能を誇る装甲機人相手に、反応の遅れは命取り。
彼らは自らの命で、それを証明することになってしまった。
そのおかげで、俺たちの警戒は強まったんだ。
彼らの犠牲は絶対に無駄にはしない。
まだ小さいけど、レトの姿が見えてきた。
聖王機の陰に隠れてたんだ。
こっちに近づいてきてる。
でも、この状況でコックピットを開いて、レトを迎え入れるのは危険すぎる。
「(レト、こっちは無理だ。双星機に乗れ!)」
「(いーやーだー!)」
こんな時に駄々をこねるてくれるなよ!
そうこうしてるうちに、双星機は不審に思ったんだろう。
俺に対して、迎えにいくようにハンドシグナルを送ってくる。
双星機と聖王機、性能はほとんど変わらないはずだけど、アルフィナの力はラヴェルサを抑えるのに取っておかなくちゃいけない。でも、二人が一度決めたことを覆すとは思えない。こうなったら、さっさと迎えにいった方がいい。
「(これからコックピットを開ける! みんなが時間を作ってくれるはずだ。信じて飛び込んで来い!)」
「(うん!!)」
イオリが聖王機の進路を上手く塞いでくれている。
今だ!
俺は全速力でレトに向かって、急停止。
すぐさまコックピットを開いた。
「レトッ!!」
「ケンセーッ!!」
レトが飛び込んでくる。
こんな時なのに、なんか感動しちゃって、体が震えてる。
「ケンセーのバカ! なんて速さで突っ込んでくるのよ! 死ぬかと思ったじゃない!!」
レトが思いっきり蹴ってくるけど、この感じも懐かしい。
でも、今は感傷に浸ってる場合じゃない。
「聖王機を引きつけながら、俺たちはプラントの破壊に向かうぞ。一緒に浄化してしまえばいい。それでおしまいだ!」
「ケンセー、違う! あいつはラヴェルサじゃない。だから、ラヴェルサを抑え込んでも、あいつは大人しくならないよ!」
「なんだって?!」
ラヴェルサを抑え込むためには、恐らく、レトとアルフィナ二人の力を限界まで使う必要があるはずだ。そうなると、聖王機に対抗する力は無くなってしまうかもしれない。コイツが暴れまわったら、どれだけの被害になるか分からない。しかもその時に止める手段はない。つまり、聖王機は今、ここで倒さなくちゃならないってことだ。
「あいつの感じ、覚えてない?」
そう言われると、そんな気がしてきた。
再び近づきながら、聖王機の動きを観察する。
巨大な機人をまるで、高機動機のように操って、一撃離脱を繰り返す。
そして、俺とレトを狙う存在。
まるで、恨みを晴らすかのように暴れ続けている。
そうか、そういうことかよ。
……結局、俺の前に立ちはだかるのは、この姉弟なんだな。
それは向こうもか。
あいつらにしてみれば、俺こそ死神みたいなもんだよな。
「マグレイア!」
マグレイアは間違いなく俺が殺したはずだ。
だから、彼女が聖王機に乗っているわけじゃない。
地下に巨大な空洞が見える。
そこには大量の赤光晶が存在している。
マグレイアは死ぬ寸前に、俺に対して激しい恨みを持っていたはずだ。
その思いが赤光晶に吸収され、聖王機の中に入っていった。
それぐらいしか考えられない。
ここは戦場で、既に多くの操者が死んでいる。
だったら、他の人の想いが残っていてもおかしくないはずだ。
それなのに、なぜマグレイアだけが赤光晶に想いを移せてる?
それだけ俺への復讐に燃えてるんだろうな。
「キルレイドさん! こいつはラヴェルサじゃない。マグレイアの執念だ。俺と双星機で倒します」
マグレイアが俺を狙うなら、それを利用するまでだ。
俺が囮になって、双星機が攻撃する。
聖王機にダメージを与えられるのは、アルフィナの乗る双星機くらいだ。
聖王機の攻撃は重く、レディア・ソローで受けるのは難しい
一瞬の反応の遅れが、言葉通り、命取りになる。
キルレイドさんたちは、俺たちから離れてラヴェルサが近づかないようにしてくれてる。最悪、アルフィナがレストライナ因子を全て失った場合、そのままプラントを破壊するしかない。
そうなったら、今後ラヴェルサは製造されないだろうけど、多くのラヴェルサの因子が残って、世界中で混乱が続くだろう。
だったら、今ここで二人のレストライナ因子を開放して倒したほうがいい。
倒すついでに、周囲のラヴェルサも大人しくさせるってことだ
けど、力を失う恐れがあるのだから、巨大な赤光晶があるというプラントに、できるだけ近づいてからじゃないとダメだ。
いずれにしても、アルフィナの力は、できるだけ取っておかなくちゃならない。
でも引きつけようとしても、今の聖王機の早さは半端じゃない。
逃げようとして背中を見せたら、間違いなくやられるだろう。
味方の動きでイオリも状況を理解したはずだ。
外部マイクで伝えるまでもなかったようだ。
俺とイオリは双星機を挟み込むように位置した。
……なんだか、前とは反対になったな。
俺が聖王機に突撃して軽くあてる。
攻撃は全然効いてる感じじゃないけど、問題ない。
聖王機が俺に攻撃を繰り出した瞬間を狙って、イオリが一太刀浴びせた。
傷は浅い。まだまだ動く。
一度、距離をとって仕切り直す。
一緒に双星機に乗ったおかげだろうか。
前よりもずっとイオリの動きがイメージできる。
逆に、イオリにも俺の動きが分かってるんじゃないかってくらい、息が合う。
再び、俺の攻撃に合わせて、イオリの刃が聖王機を切り刻む。
「いい調子!! このままいっけぇ!!」
「ああ、この調子で聖王機を傷つけていけば……」
傷つけていったら……
あの時と逆になる!!
「いや、それじゃ駄目なんだ!」
「ケンセー、どういうことよ!」
「副長と戦った時を思い出せ。あの時、Kカスタムは傷口から入り込んだ赤光晶の力で強化されたんだ。仮に、マグレイアの執念がラヴェルサ破壊衝動を上回ったとしたら、制御を奪われることなく、強化されてしまうってことだろ」
その可能性は高いと思う。
ラヴェルサの破壊衝動は大量の赤光晶に広まったけど、それだけ薄く伝えられたはずだ。それでもこの惨状を作り出したのは凄いけど、今の聖王機は純粋なマグレイアの執念そのもの、ラヴェルサの支配を跳ね返すはずだ。
しかも聖王機のポテンシャルは計り知れない。
どれだけ強化されてしまうか分からない。
対して俺たちは、強化しようとしたら、レストライナ因子を使ってしまう。
俺は外部スピーカーをオンにして、イオリに伝えることにした。
「イオリ! このままだとアイツは強化されてしまう。なんとか隙を作って、その間にプラントに近づくぞ!」
イオリが双星機の剣を構えて、返事をする。
俺の言葉を信じてくれたんだ。
後は、俺がどれだけ大きな隙を作れるかどうか。
俺たちに合図なんて必要ない。
イオリは、絶対に最高のタイミングで飛び込んでくれる。
聖王機の攻撃を躱しながら、周囲の様子を窺う。
倒れている機人の数が増えてきている。
それなのに、一機たりともラヴェルサは俺たちの所に来ていない。
皆が必死になって、俺たちをラヴェルサから遠ざけてくれてるんだ。
その想いに応えるためにも、絶対にコイツの誘導は成功させなくちゃ駄目だ。
なのに、聖王機の攻撃はどんどん鋭くなってきている。
時間は俺たちに有利に働かないってのにさ。
どうする、どうする、どうする?
……って、そうだよな。
俺はまだ自分に都合のいいことを考えてるのかよ。
最強の機人相手に、無傷で勝とうなんて甘すぎだ。
「何やってるのよ、ケンセー!」
「俺が剣を持ってても、コイツには通用しない。だったら、いっそのこと、無い方がいい」
今は剣は必要ない。
レディア・ソローに盾はないから、俺は聖王機と素手で対峙することになる。
マグレイアが再び、突進してきた。
俺はそれを紙一重で回避。
「怖っ!」
剣を持ってないせいで、距離感が掴みづらい。
今、避けれたのは偶然だ。
どうする?
もうちょい、安全マージンを取るか?
「ケンセー、一度決めたなら、逃げちゃダメ! ケンセーならできる!」
おいおい、俺は声に出してないぞ。
俺の不安を感じ取ったってのかよ。
「……根拠は?」
「そんなものはな~い!!」
「ただの勘かよ! でも乗った!!」
集中しろ。
今までよりも近い間合いで攻撃を躱していく。
でも、まだだ。
まだ距離が遠いから、懐に入り込む前に、次の攻撃が来てしまう。
もっと、もっと集中するんだ。
集中ってのは、中に集めるって書く。
何を集めるか。
それは当然意識だ。
外の意識を捨てれば、自然と意識は中に向かうはずだ。
いるのか知らねえけど、山奥で生活してる芸術家になるんだ。世間の喧騒から離れ、生活すべてを捧げて作品を作り上げる姿は究極の集中だと思う。
他のことは、一切考えるな。
もしかしたら、すぐ後ろにラヴェルサが迫ってきてるかもしれない。
この状況で周囲を確認しないのは怖すぎる。
それでも今は、目の前の敵だけに、極限まで集中するんだ。
聖王機の一挙手一投足を見逃すな。
ラヴェルサも、仲間も、愛する人のことも、今は考える必要はない。
ただ、信じればいい。
皆なら、やってくれるって。
「行くぞぉ、レト!!」
「行っちゃえー!!」
レディア・ソローを一気に近づけていく。
聖王機は剣を振り上げようとしている。
ここだぁ!
機人をさらに加速させて、懐にもぐりこんだ。
振り下ろしてくる剣の軌道を変えるべく、聖王機の右腕に掌底を当てる。
「全然効いてないよ!」
「まだまだぁ!!」
俺は剣の軌道から離れつつ、右腕で聖王機の腰を掴んだ。
「体落としぃ!!」
聖王機の巨体が宙に浮き、激しく地面と衝突した。
「イオリ! いく……ぞ?」
双星機が動いていない?
どういうことだ?
双星機が最後に見た瞬間から、まったく動いていない。
それどころか赤光晶の輝きすら弱くなっている。
これじゃ、あの時と俺と同じじゃねーか。
アルフィナは力を失ってしまったのか?
俺たちは遅すぎたのか?
レディア・ソローを双星機に向かわせる。
聖王機が足を掴んできたけど、なんとか脱出できた。
「イオリ! どうなってる?!」
双星機の元にたどり着くと同時に、コックピットを開いて、イオリが姿を現した。
この状況で開けるなんて、イオリの奴、錯乱してやがる。
だけど、それは仕方のないことだったんだ。
「剣星! アルフィナ様が、アルフィナ様の心臓が止まって、動かないんだ!」
「嘘……だろ……」
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