第50話 どうして今なんだよ!
マグレイアと共に来た部隊は、双星機に気づいていない。
強襲するつもりのところに、逆に不意打ちを食らわせられれば、敵部隊は相当大きなダメージを負うことになるだろう。
「イオリ」
「分かってる。ここで奴を倒す意味は大きい」
標的であるマグレイアを倒せば、味方の士気は間違いなく上がる。
経験不足な彼らは、それこそ、死に物狂いで戦っているはず。
指導してきたイオリなら、もちろん理解してることだ。
順調に接近できたが、あとわずかの距離で、双星機は気づかれてしまった。
「流石はアスラレイドの直属部隊ってところか」
部隊の反応が早い。
散開して、こっちを包囲するつもりだ。
でも、双星機の力を甘く見過ぎだ。
「右側から順番に潰していくぞ」
「了解!」
双星機の中で、俺とイオリは頻繁に会話を交わしている。
距離をとっていた分を取り戻そうか、ってくらいだ。
イオリの動きについていけるといっても、考えを全て理解できるわけじゃない。
お互いに確認することは重要だ。
双星機を操って、敵を蹴散らしていく。
すると、敵機は距離を取り始めた。
こっちが近づいたら、その分、離れていく。
速度さがあるから、追いつけるけど、かなり厄介。
俺たちが目標を追っていると、別の機人が横から向かってくるんだ。
回避を前提にした突撃だと分かってても、警戒を怠るわけにはいかない。
それに複数相手の戦いとなると、思考がイオリに追いつけてない。
双星機の動きが、わずかに鈍くなってる気がする。
当初の勢いが落ちた双星機を見たからか、マグレイア機が接近してきた。
周囲を見渡せば、完全に混戦になっている。
俺たち、リグド・テラン、ラヴェルサの三つ巴。
どうやら、ラヴェルサはリグド・テランよりも、俺たちを優先的に狙ってるようだ。
「この状況はまずいぞ、剣星」
戦力的には俺たちが一番小さい。
それなのに、両勢力から狙われてしまっている。
主力である双星機は牽制するだけで、孤立させようってか。
「オマエがグルディアスを殺した奴か! 会いたかった! セイレーンの言った通りだった!」
マグレイアが外部スピーカーで叫んでいる。
双星機には無線がないからな。
それにしても、セイレーンだって?
彼女が俺たちがここにいるって話したのかよ。
「アンタは、今ここで、私が殺してやるよ!」
マグレイア機がゆっくりと迫ってくる。
なのに、動きが鈍いぞ。
どうした、双星機!
「剣星、前じゃない! 後ろだ!」
イオリの声に反応して、剣を後ろに薙ぐ。
そこには、もう一機のアスラレイド機の姿があった。
その機人は攻撃を回避して、距離をとった。
最後のアスラレイド。
名前は確か、ウィーベルトだったか。
「今はセイレーンのことは考えるな。目の前のことに集中しろ!」
「ああ、すまない」
イオリの言う通りだ。
今、考えるべきことじゃない。
双星機の動きが鈍かったのは、マグレイアに集中しすぎてたせいだ。
後ろに気づいていたイオリとは、別の動きをイメージしてしまったんだ。
それにしても、マグレイアめ。
威勢のいい言葉とは裏腹に、自分が囮になるなんて、やってくれる。
「行くぞ、剣星!」
双星機はウィーベルト機を睨みつける。
巨大な双星機は、剣も大きい。
ウィーベルトは防御することなく、受け流しを狙ってるようだ。
俺たちは剣の横っ面にあてて、ウィーベルト機を吹き飛ばした。
返す刀で、迫ってきたマグレイアを迎えうつ。
ところが、マグレイアは攻撃を中断して、離れてしまった。
追撃を試みるも、再び逃げられる。
「これって……」
「ああ、奴らは作戦を変えたのかもしれないな」
二機のアスラレイドは、双星機の周りを回りながら、機をうかがい始めた。
量産型のイステル・アルファは、ほかの部隊の応援に向かったようだ。
つまり、彼らは二機で十分だと判断したんだ。
その判断は正しいのかもしれない。
どうせ双星機の動きについてこれないんだから、邪魔なだけだろう。
「くっ、早い」
アスラレイドは二機とも高機動型だ。
反応速度なんか、双星機と同等かってくらい鋭い。
その分、限界まで装甲を削ってる感じなんだけど、一向に当たる気配がない。
さっきは相手が攻撃してきたから、当てられたんだ。
守勢に回られると、手が付けられない。
二機のコンビネーションは、敵ながら惚れ惚れする。
奴らにしてみれば、双星機を塩漬けにしておけば、全体の状況が有利になるんだ。
無理をする必要はないのだろう。
だからといって、強引に攻撃してなんとかなるほど、アスラレイドは甘くない。
単純な攻撃を繰り返すラヴェルサとは、ヴァリエーションが段違い。
迷っている間も、敵はつかず離れずで挑発を繰り返す。
双星機は、アスラレイドたちに完全に翻弄されてしまってる。
最強の装甲機人といっても、所詮は乗り物。
最後は操者の腕次第ってこと。
イオリの腕は問題ない。
視界の端に映りこむアスラレイドに、俺の意識を持っていかれてる。
フェイントを的確に見極めているイオリと、イメージが僅かにずれてるんだ。
だから、双星機の挙動がおかしくなってる。
問題は俺だ。
もっと敵の動きに集中するんだ。
迫りくるマグレイア機。
でも、本命はウィーベルトのほうだろ!
視覚外からの、ウィーベルトの攻撃がヒット。
それは想定済み!
カウンターが決まってウィーベルトは吹っ飛んだ。
たぶん、自分から後ろに飛んで、直撃はできていない。
でも、今のはいい感じだった。
「これは、どういうことだ?!」
「どうした、イオリ?」
「左腕を見ろ。先ほどの攻撃で傷ついている。最高の装甲を誇る双星機がだぞ」
「なんだって!」
確かに、イオリの言う通り、傷がついている。
操縦に影響はなさそうだけど、かなり深い。
「くそっ、こんな時に。双星機がおかしくなるなんて!」
「違うよ! おかしいのは双星機じゃない。ケンセーの方だよ!」
俺がおかしい?
レトは何を言ってるんだ?
「ケンセーの光、どんどん小さくなってる。イオリよりは大きいけど、これじゃ、双星機は……」
「マジかよ」
レトの言わんとすることは分かる。
理由は分からないけど、俺の意志の力が弱くなってるんだ。
だから装甲は弱くなるし、もしかしたら双星機の挙動も、このせいだったのかもしれない。
「剣星、迷っている時間はないぞ」
「ああ、操縦は俺に任せてくれ」
もはや、複座型の利点はない。
息を合わせても、それに応える能力がなければ意味がないから。
むしろ、イメージがずれるかもしれない、リスクでしかないんだ。
だったら、俺が一人で動かしたほうがいい。
今までだって、イオリの操縦に合わせてたわけじゃない。
実際には反対で、意志の力が強い俺が、イオリの戦い方を先読みしてただけなんだ。
「レト!」
「うん、わかってるよ!」
送られてくるレトレーダーの範囲が広くなる。
いつも通りの視点で勝負したほうがいいだろう。
俺の考えが分かってる。
流石だよ、レト。
「来る!」
アスラレイドの二機が、前後から挟撃してくる。
俺は背中の盾を装備した。
どことなく、さっきより攻撃的に感じる。
双星機の傷を見れば、そうなるよな。
自分たちの攻撃が通じると分かったはずだ。
とりあえず、回避を選択。
横に逃げて、両機を視界に捉える。
万全ならまだしも、今の状態で二機を相手にするのは厳しいからな。
「やっぱ、かなり鈍いな」
俺の思考が、機人全体に薄く広がっている感じだ。
イオリが一人で聖王機に乗っていた時も、こんな感じだったんだろうか。
バックステップを踏み、なんとか盾でガードして、攻撃を耐える。
余裕がないのは分かってるけど、今は少しだけ慣れる時間が必要だ。
「レト。俺の状態はどうだ? まだ光は小さくなってるか?」
「ううん。もう、止まったみたい。あの二機と同じくらいだよ」
ってことは、装甲強度は同じくらい。
ただし、こっちは動きが鈍いってハンデ付きだ。
「って、やばい!」
アスラレイドの機人たちが俺に迫っている。
「こいつら、さらにギアを上げやがった!」
ダメだ。
逃げきれない。
先行してくるマグレイアの攻撃を盾でガード。
直後のウィーベルトの攻撃に対応できない!
ところが、いつまでたっても攻撃はこない。
援護にやってきた、味方のおかげだ。
「キルレイドさん!」
双星機はキルレイドさんによって救われた。
キルレイドさんは、ウィーベルト機をふっとばして離れていく。
俺たちの状況に気づいて、助けにきてくれたんだ。
「これで一対一か」
「剣星、お前ならできる。自分を信じろ!」
「おうっ、俺に任せろ!」
惚れた女の目の前で、情けない姿を見せられるかよ。
「ケンセー、
「オッケー、気合が入った」
アルフィナが乗れば、双星機は再び力を取り戻すだろう。
でも、流石にそれを許してくれるほど、マグレイアは甘くないよな。
ここが一世一代の勝負所だ。
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