初配信の思い出語る part1

「ちょっと水飲みまーす……んぐ……」


「……ぷはぁー! よし! 初配信の思い出語るか!」


「ん……唐突すぎるって? 良いじゃん決めてたんだもん。この配信で絶対話してやるーって!……ま、どうせコメントオフの君には発言権は無いので勝手に話しちゃいまーす、ごめんね♡」





「……ゴホン。私とあの子の出会い……いや、君でいっか。君を初めて認識したのは、絶対あの時だろうね。……あの、思い出したくもない出来事……」


「ぐぬぬ……こればっかりはぜぇーったいにオタク君達には話せないね……私のリアルの友達なら尚更なんだけどさぁ……」


「……ま、今日は君だけだし……えぇい! 話しちゃうぞ! 私は!!」


「んーもう! そうですよ!! 自分でいったぁ〜い音声を録音してちまちまボイメに纏めてたのはこの私! わたし様!!」


「はぁ……きっつ……」


「……で、でもさ、それだけなら皆やるよね?! そうだと言ってよ! お願いだから!!」


「で……問題はその後! なぁーんで私がそんな秘密を知りもしない人なんかに見られなきゃいけない訳?!……って、めちゃくちゃ思ったよね」


「今でこそ……あれがなきゃ君とは出会えなかった訳だし? ギリ……ギリッギリ許せるとは思うけど……あの後数日は眠れぬ夜を過ごしたよね」


「っ……だって仕方なくない?! クラスのカースト上位のキラキラ女子がさ、まさか教室の隅でウジウジしてる様な男子に、間違えてボイメ送っちゃうなんてさ……思わないじゃん……あぁ〜っ、今思い出してもキツいぃ……」


「あ……ウジウジってのは言い過ぎたかも、ごめんね。……でもぶっちゃけ、あの頃はそれくらいの認識しか無かったの」


「まぁ、それは置いといて……そもそも、そもそもね?! 思わないじゃん、君のアカウントの名前が『あ』だなんてさ……」


「メモ用に使ってたトークの名前、『あ』にしてた私も悪いと思うんだけどさぁー……? 『あ』は無いでしょ、『あ』は。そんなに興味無かったの? クラスのグループには入ってたクセに」


「でもまぁ……君らしいっちゃ君らしいんだけどさ。『あ』くん?……ふふっ、何か今思うと可愛いなぁ、ちきしょー!」


「……っと、また脱線しちゃった。……でも驚いたなぁ、そんなにトークに興味の無い君が、まさかあんな熱量で返信くれるなんてさ」


「読み上げてあげよっか?……ふふん、実は保存してあるんだー♡」


「おほほほほ、画面の向こうから悲鳴が聞こえますなぁー!……だが残念! わたし様続行ーぅ!」


「……ゴホン……んん……『聞きました! すっごく凄いですね! もしかして配信者目指してるんですか?! 応援します!!』……だってさ。……ふっ、すっごく凄いって何だよ〜この〜! 毎回ここニヤけちゃうんだから辞めろよ〜!!」


「はぁー……ま、今でこそこんなふうに言えるけど、さっきも言った様に数日は眠れない夜を過ごしたし、『あ』って誰なのか本当に分かんなかったからクラス中の人が敵に見えたよね」


「その間は何でこんなの録音しちゃったんだろうとか、何でトークメモにしちゃったんだろうとか、そもそも話もしないのに片っ端から友達追加しなけりゃ良かったとか、まぁめちゃくちゃ考えたよね」


「……んで、考えた末にふと思い出すの。何かって、君のメッセなんだけどさ」


「勿論人に聞かせたのなんて初めてだし、あんな配信者の真似事、ただの趣味にすらならないって思ってたのに……」


「……ほんと、気づいたら……だよね。気づいたら、私めちゃくちゃ興奮して『ほんと?!』って返信してた。既読付けてから何日も経ってたんだよ? 笑っちゃうよね」


「だけど……ね。ほんとに嬉しかったんだ。配信者のフリして喋ってた自分の声、褒めてもらうの」


「だから私、きっとその頃初めて、本気で配信者目指したいって思ったんだって……今になると、そう感じるんだ」





「……あはは、自分で話すって決めたクセに、何だか気恥ずかしくて暑くなって来ちゃった……私……」


「……あっ、そういえば私、『私』って言っちゃってる。いけないいけない、配信の時は『わたし様』なのに……君相手って思うと、どうも……ね」


「……この事、絶対に内緒だからね?」

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