第2話慌ただしい日々

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう」

今日も朝からいつものように交わされる

挨拶と世間話。

女性が多い職場だから賑やかさは満点だ。

「おっはようございまぁす。あ~セーフ!」

「由美!もう少し余裕を持って行動しなさいよ!」

「はい。すみません!」

朝から主任に注意されてるのは後輩の

松中由美。後輩と言っても私と年齢は一つしか違わない、37歳。年齢が近いのもあって

気が合う仲間だ。

「まったく、勤務時間前なんだからいいじゃんね?遅刻してるわけじゃないし、だいたい子供送り出して来るんだから朝は忙しいんだって!いちいちうるさいんだから!」

なんて、いつもこんな感じのスタート。

そう彼女は家庭もあるし、小学5年生と中学2年生の子供もいる。ご主人はサラリーン。

上の子供が中学生になってからパートとして働いている。だからまだ職歴は2年目。

私はというと、もうこの会社に入って

15年が経とうとしてる。

「まぁまぁ、ああ言うのも主任の仕事だから。朝から不貞腐れんなって。」

「だってさぁ自分は独り身だから時間にいくらでも余裕あるだろうけど、主婦はそうじゃないもん。そういうのは理解してほしいんだよね。あっ!京ちゃんは別よ。」由実はコソッと愚痴る。いつもの朝の会話。

「お気遣いありがとう(笑)」

私も独り身だから彼女はいつも愚癡の最後にそう付け加える。

「さぁてやるか」

そうやって一日が始まる。


「いらっしゃいませ~」

私が勤務するのは、地元のとあるスーパー。

毎日いろんな方が買い物に来る。ご年配のご夫婦、若いご夫婦、子ども連れのお母さん、友達とおやつを買いに来る小学生、部活帰りの中学生、高校生。と老若男女さまざま。

「ちょっと〜、おはよう!昨日これ作ったのよ~、お昼にでも食べて!」

「あら、佐々木さんおはようございます。

あ~美味しそう!いただきます!」

長年勤めていると常連のお客さんとの距離も近く、たまにこんなに感じで差し入れを頂いたりもする。それがまた美味しいんだよね。


差し入れに、ほっこりしていると

「石口さん!こんにちは~」

その声に振り向くと、赤ちゃんを抱いた若い女性がにこやかに近づいてくる。

『あれ?誰だっけ』なんて思ってハテナ顔していると彼女が

「りなですよ〜(笑)」

…?あっ!

「りなちゃん!?」

「はい〜」

「久しぶりだね!りなちゃんの子供さん?」

「そうですよ〜!去年結婚したの〜今5ヶ月なんです」

あ~、そう言えば彼女のお母さんが、言ってたな、今度結婚するって。孫も産まれるって。彼女は小学生の頃からよく買い物に来ていた常連さん。最初はお母さんと一緒に、そのうち一人でおつかいに来れるようになって、中学生の頃は友達と一緒に毎日のように来ていた。私もその頃はまだ『お姉さん』と呼ばれる頃だったから、制服のネームを見て小学生だった彼女は『石口のお姉ちゃん』って呼んでくれて、いつも楽しそうに学校での出来事を報告してくれた。そんな彼女が

お母さんかぁ~。不思議な感じだけど、

私もそれなりに年齢を重ねてるわけで、

な〜んにも不思議な事はない。。。

「石口さん、抱っこしてください~」

「えっ?!いいの〜?」

「ぜひぜひ〜!」

「泣かれないかなぁ」

「大丈夫ですよ~!」

「そう?じゃあ!、あっ、ちょっと待ってネームとペン危ないから外すね」

赤ちゃんを抱っこするのは何年ぶりだろう。

友達の子供以来か?とにかく久しぶりだからドキドキ。

「わぁ!かわいいねぇ。女の子?」

「はい〜、ななみって言います!」

「目元、りなちゃんにそっくりだぁ!人見知りしないね!」

あやしていると、ニコッと笑ってくれた。

子供の笑顔は破壊的な癒やしがある。

一応、ガサツな私も女性なもので、母性本能っていうか、やっぱりキュンとなるなぁ。

「今度、旦那の仕事関係でこっちに転勤することになって、この子もまだ小さいし、実家の側に引っ越すんです~。今日は、その契約で来てて、母が、さっき買い物行ったら石口さんいたわよ〜っていうから来てみたの」

「そうなんだぁ、わざわざありがとう!いつ引っ越しなの?」

「住むのは来月からだけど、荷物を先に送って準備しながらって感じかな。」

「そうなんだぁ。忙しいねぇ。」

「本当に!いろいろ大変!でも実家の側にって安心する。ここにも買い物来れるし」

「そうだね。お待ちしてます!」

「うん」

「抱かせてくれてありがとう。」

「来月からお世話になります!」

「ななみちゃん、またおいでね」

本当にニコニコ顔で可愛いなぁ。


子供かぁ。可愛いなぁ。

「石口さんちょっといいですか?」

呼ばれる声に振り向きながら、

「りなちゃんまたね。」

軽く手を振る。

「うん。買い物して帰るね!」


懐かしい顔見て朝から何か久々にほんわかしたなぁ。しかし、私も随分長い事この仕事してるな。そんな事考えながら事務所に向う。


「どうしたの?」




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私はまた貴方に恋をする 桔梗-s @kikyo-s

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