23話 巡り、巡る

 異質ではあったがレンが微かに感じたものは余剰導力だと判断した。

 最初は1振りから、そして立て続けに同じ魔導力に大量の魔導剣が連鎖したと思われる。そしてその魔導力はレンの持つ魔唄剣でさえ反応させた。

 

 ――まるで雨の降り始め。水辺に波紋が幾つも広がっていく様な感覚――


 特性の違う魔導剣をほぼ同時に反応させる。そんな事を1個体の人間、生物が果たして成し得ることができるのだろうか。

 百歩譲って可能だったとしても、所有者の魔導力にしか反応しない筈の魔唄剣が反応した・・・


 どう考えても只者ではない。


 ――町を巡回する帝国騎士達は何故、あれ程の魔導力に対して何事も無かったかのようにしている……? 

 ……まさか、魔唄剣を有した事がある俺や、ドルファ教官長だけが感じ取れる何か特別な魔導力とでも言うのか……?


 発生した場所の見当は付いていた。リドヤで多くの武器を扱っている場所。



 《カラン! カラン!》


 

 ドゥーズ装具店の呼び鈴が勢いよく鳴る。


 「店主は居るか!?」


 店を見渡すと、髭を蓄えた大柄の男が先程まで接客していたのか、並べていた試着用の防具を片付けていた。

 「いらっしゃ……これはこれは!レン様!どうかなさいましたか?」


 レンの紅い瞳が何かを探るように光り、動く。


――あの時、微かに感じた魔導力と同じ感覚……やはり、ここだったか……

 「仕事中すまない、魔導剣に触れた客が居たようだが?」


「えぇ!さっきまで女中を連れたレン様と同い年程の子が来てましたよ。無礼な奴でしてね!俺の作った魔導剣を持って可哀相とか言いやがって――」


 女中を連れた俺と同い年程の? どこかの騎士の……いや、こんなことをできる奴が帝国にいるという話を聞いたことは無い。

「そいつを探している。名は名乗っていたか?」


「あぁ~っと……あんまり聞いた事の無い名前だったもので……申し訳ない。」


 帝国外の人間、それとも偽名か……どちらにせよ、このままでは見失う……


「何を買っていった?」


六方晶ロンズディエト鉱石を使った魔導剣を買っていきましたが」

 

「その魔導剣は何か特別な製法で作った物か?」


「――いいえ、他の物と変わらんです。ただ、六方晶ロンズディエト鉱石は魔導鉱石の中でもかなり硬度が高いんで、魔導力を引き出せるように加工するには、かなり手間取りますな」

 

 硬度の高い物を探していたのであれば金剛ルドモンド鉱石の魔導剣を選ぶと思うが・・・

 

 資金が足らなかった。それとも目立つ様な物を避けたか。

 どちらにせよ魔導剣を帯剣している子供は滅多に居るものではない。


「わかった。ありがとう」


 早々に店を後にしレンは再び町を駆けた。

 

 ・

 ・

 ・


 ジオラス達は無事に買い物を済ませることができたのだが、最後の一言で店の人の機嫌を損ねてしまい、なるべく事を荒げない様に退店した。


 先程起こったことを確かめるべく、一人になりたかったジオラスは常に警戒し護ってくれようとするエセンから少し強引に逃げるように別れると、こっそりと町から離れ、魔獣が出るという森の近くまで来ていた。


 周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、ジオラスは買ったばかりの魔導剣を引き抜いた。


 何種類か試してみて、この六方晶ロンズディエト鉱石を使った魔導剣が最も馴染んだ感じがするとアルメニアが言うので、これにしたが、中々に重い。

 

 ――装具店の時と同じようにやってみよう。


『わかりました』


 魔導力が全身を巡り魔導剣を通って循環すると徐々に2人の身体の感覚は1つになり、ある程度の魔導力量を超えるとアルメニアに身体の主導権が移る。


『「――本当に、できた……!」』


 理屈は分からないが魔導剣を所持した状態でアルメニアが魔導力を練り上げると、今まで上手く動かせなかったジオラスの身体を自在に動かすことができた。

 最初の時も巨大な墓標を手に持っていた。あの墓標の素材は恐らく何かしらの魔導鉱石だったのだろう。


 アルメニアは歓喜した。

 目覚めた時はジオラスの怪我の痛みや、ガルドとのやり取りに気を取られ喜んでいる暇など無かった。


 霊体の時は何一つ感じ取れなかった感覚を研ぎ澄ませる。

 

 肌を撫でる風、早朝の少し湿った草木の香り、身体で感じる陽の光と暖かさ、手に収めた武器の感触。

 

 再び感じた。生きているという当たり前の感覚。

 

 そして、背後から近づいてくる懐かしき剣の声が今ではハッキリと聴こえる。


 アルメニアは独り言のように喜びの言葉を述べる。

『「どんなに時代がうつろいでも、変わらないものもあるのですね――」』

 

 ジオラスはアルメニアが最初は自分に声をかけていると思ったが、そうではないらしい。


『「――そう、思いませんか?」』

 アルメニアはゆっくりと振り向くと、そこには1人の少年が居た。


 レンは町の外れから再び感じた特徴的な魔導力を追った。そして1人の子供の後ろ姿が視界に入り、一瞬で背後まで距離を詰めていた。

 

 ――魔導剣を所持した子供……魔導力から漏れ出すこの浮き上がる異質な余剰導力……間違いない。

 


 いつの間にか背後に居た少年にジオラスは驚いた。

 アルメニアは背後の少年にいつから気付いていたんだ!?


 肉体的にはその場に存在しているはずのジオラス・ソイルだけがこの場を把握できず取り残されていた。

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