12話 アルメニア・ロード・ロザレス

「私……は……っ?」


 頭と右腕が痛む……左手には見たこともない物を握っている。

 大きい剣に見える只の金属の塊……?

 

 そして正面にいる剣士の様な男……言葉はアンチニル王国の言葉……


「この光は一体何なんだ……!?それに声が聞こえた……!?」


「う……キュイル二等……何が……?」

「サ、サバト四等!? 生きていたのか!?」


 もう一人同じような格好の男がこの空洞に入ってくる。


「キュイル二等! こんな所におられたのですか!? 上では大樹が光り輝き、何やら言葉が・・・」


「グリブ三等か? ガルド様はどうなされている!?」


「ガルド上級二等は戦闘をしている模様です!」

「なんだと!?」


「おい!貴様は!そこを動くんじゃない!」


 アンチニル王国の言語がこんなにスラスラと理解できるとは――これは一体……


「この根の光はなんだ!? 貴様がやったのか!? 何者か答えろ!!」


 アルメニアは聞き取れはするが、慣れていない言葉を話そうとすると少し辿々しくなってしまう。


「この光は。十二守護樹木の一種。クスィレスの守護樹木の光。生命なる母。従順。本能。を司っている。私は何もしていない……私の名は、アルメニア・ロード・ロザレス」


 守護樹木?何を言っているんだ?名前も……

「ロザレス、だと……?聞いたこともない!帝国外から来た者か!?」


「帝国……?待ってください、次は私の質問に答えてもらいたい、ドラセナ・レフレクシアは何処にいるかご存じですか?」


「帝国騎士に向かって気安く質問とは……」

 キュイルは無礼な少年に抜剣し脅す。


「こので貴様の四肢を切り落とし、アルゾワールの大市場シグンスに晒してやる!」


「剣? 噓を言ってはいけません……この近くには二振りしか在りません……少し遠いですが声が聞こえました……」


「先程から訳の分からないことをベラベラと!!!」


 脅しの積りだったが、完全に堪忍袋の緒が切れたキュイルはジオラスに攻撃を仕掛ける。


 アルメニアは丁度よく掴んでいた剣の形を模した墓標を左腕一つで引き抜く。


「遅い」


「……へっ?」

 キュイルは攻撃を仕掛けていた。

 しかし気付くとこの広い空洞の壁に減り込んでいた。


「それを剣と言うのであれば、相応の覚悟を持って振いなさい」


 アルメニアは自分の身体に違和感を感じる

「――この身体……私ではない……」

 墓標を一振りしてようやく、自分が自分ではないことに気が付く。墓標には

 [アルメニア・ロード・ロザレスここに眠る]

 とドラセナが彫ったと思われる文字が刻まれていた。


 私は……あの後……では、この身体は一体誰の……?


 アルメニアはこの身体の状態を探る。


 思えば身体中の魔力線があまり開いていない……手には新しくできたマメ……

 視点の高さが低い……まだ少年のようです。


 頭と右腕は彼らにやられたのでしょうか……?

 

「何が起きたんだ!?キュイル二等が一瞬で……」


 ジオラスの身体より大きい墓標を左腕一つで軽々と持ち上げ、真っ直ぐ帝国騎士に向ける。


「ドラセナのこと、そしてここで何が起きていたか、何か知っていたら教えて下さい」


「なんだこいつ……さっきまでと人が違うみてぇだ……」

「キュイル二等を連れてガルド様のところまで一度戻るぞ!気味が悪ぃ……」


 彼らは。何も知らない……? 私は一体どれほど……確かめなければ……

 

 アルメニアは帝国騎士だという彼らの後をつける。



 メルテムとルズガルは抱き合い、涙をこぼしていた。

 外から聞こえてきた轟音の数々、自分たちを救った後に落ちていったジオラス。

 その後なぜか暖かい光に包まれ、自分達の知る声が聴こえ変に安心している。

 心と身体が混乱し、へたり込んでしまっていた。


 するとの崩れた絵画の中から帝国騎士2人が1人を抱えて出てきた。


 二人は怯え、強く抱き合う。だが帝国騎士達は女中2人には目もくれず屋敷から出ていった。


 よくわからないが二人は助かったと安堵し、ジオラスを思い、絵画の方を見詰める。

 

 

 するとそこには何も無かったかのような表情で生還したジオラスがいた。

 

「……ジオラス様!?」

「ご無事だったのですか!?よかった……」


 無事に戻ってきたジオラスを見た二人は再び泣き崩れる。


「えっ……あっ……ご、ごめんなさい……何かあったのですか?」

 アルメニアはとりあえず持ってきた自信の墓標を立て掛け、怯えている様子の女中2人の側へ寄る。


「あんなに殴られて、壁に穴が開いて、落っこちて、死んじゃったかと思ったんですよ?!」


「ジオラス様、頭を怪我してたはず。今すぐ手当を……」

 メルテムは気持ちを切り替え、治療箱を探しに行く。


「私も、お手伝いします!」

 ルズガルはメルテムを手伝う為に、涙を拭おうと手を動かすとジャラリと手錠が音を鳴らす。


「あぁ……申し訳ありません……私」


 それを見たアルメニアは「大丈夫ですよ」と、簡単に手錠を砕き、壊してみせた。


「えっと……あ、ありがとう、ございます……ジオラス様……」


 ジオラス……なるほど、この者の名か

 

「治療箱持ってきました。そこへお座り下さい。ルズガル手錠、外れたんだ。意外と怪力」


「あ、えっと……と、とにかくジオラス様!まずは頭の止血から!」


「ありがとうございます」

 アルメニアは親切にしてくれるこの女中の言葉に甘え手当を受けるのであった。

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