第6話ピチピチえっちなスーツ
「P.M.A.Sはボチボチと言う所だなぁ。既存の重機の組み合わせにエンジン部を少し強化したぐらいだったから耐久性に難あり……だな」
ビルの屋上で荒廃しつつある地上を眺めながらゆったりと朝の珈琲を楽しむ。目が冴えるような香りが心を豊かにしてくれる。テーブルの上の空間には数十も空間投影型のモニターが表示されている。
「ん? 網膜に投影されているUIで事足りるだろうって? エクシアさんはロマンを分かってないなぁ……イデッ、イデデデッ!! 腕の操作権を掌握してそんなにまげないでよぉっ! 痛いってば! ホントなま言ってすんませんでしたっ!」
モニターの中には日本や世界各国の避難状況やゾンビ:パンデミックの拡散状況が表示されていた。いくら人類が団結しようとも種族根絶を目論んで開発されたウイルス兵器には太刀打ちできていないようだ。
日本の都市である東京に俺が多少テコ入れしたとしても大局は変わらない。大海に一滴の雫を落としても揺るがしようがない。
「本当に難易度高すぎでごぜーますよ機巧の神様よぉ……。人類を存続させる……だけならテキトーに宇宙にコロニー作って放り込めばいいけれど【発展】まで含められるとある程度の数を保ちつつ技術の発展を促さなければいけないんだよなぁ……」
急に超技術の基礎をブッコんだりすることも出来なくはないけれど中間の技術が育たないし戦争や食料の奪い合いが起きそうだ。渋ったりしても人類が滅んでしまう。そんないい塩梅は俺には無理だ。だったら……。
「使命……ミッションをクリアできるか分からないけれど少しは趣味に走ったってかまわないだろう? 機巧の神様もそんな狭量じゃないだろうさ」
海外では兵器開発拠点を中心に生存圏を構築する動きが活発になっている。ゾンビウイルスの脅威に気付いたようだな。俺より頭のいい奴らは沢山いるから上層部の固い頭でも引っぱたいたのだろう。できれば核兵器は使って欲しくないんだけど……どこかの阿呆が使ったようだな……。権力者ともあろう人間が感染した事に絶望して人類を巻き添えに盛大な自殺……か。
それを防ぐことは……できないな。次元保管庫内との時差を利用して九割ほど処理能力を裂いて研究開発してはいるんだが重量理論の技術然り、光学系の兵器だってまだまだ初期の初期の基礎段階を齧っただけだ。俺の心臓部の縮退炉は膨大な……それこそ地球を破壊しかねないエネルギーを内包しているのだが。
「そう……そう、世の中はうまくいかないってね。力や技術知識があっても空すら自由に飛べないんだから」
モニター内には人類の生命反応がドンドン擦り減っていく。平気な顔をしていても心が減っていくような感覚。どうやら俺はまだ人間を辞めていなかったようだ。空を“浮いて移動”なら可能だがゾンビの殲滅力が対して上がるわけでもないし高速の移動はできない。
巨大ロボットだって作れないわけではない。けれどもエンジンやジェネレーターの出力不足……。でかい置物みたいなもんだ。足りない。何もかも“俺”が足りなさすぎるんだ。
「こんなエロ小説をシコシコ書いてるだけの童貞を選ぶなよ……もっと効率よく頭を働かせる人間はいくらでもいるだろうに……神さんの尺度じゃどっちも変わんないんだろうけど……ね」
ちょっとションボリしているとここ数日間エクシアさんがちょっと優しかった。調子に乗るといけないとここ最近学んだので黙っておこう。
◇
「へいっ! そこな少女。おじさんが良い物を上げよう」
倫理観が狂ったのか知らないが立て籠もっていたグループの男達から物陰に引きずり込まれようとしている所を助けた次第だ。もちろん男共はあっさりと脳味噌を吹き飛ばされ死んでいる。
「………………そう。犯したければ好きにすれば?」
何を勘違いしているのか知らないが人生に絶望した少女は所謂レイプ目。虚無の瞳をしていた。着ている衣服は剥ぎ取られ見えちゃいけないところが丸見えだ。ショートカットのちんまい慎重なのだがなかなかの巨……ゲフンゲフン。お目目はちょっと死んだ魚のようだが器量は悪くない。
「まぁまぁまぁ。俺の話を聞いてからでも遅くないよ? ゾンビ共やさっきの……クソみたいなやつらを殴り殺したり脊髄をブッコ抜ける特殊なスーツがあるんだが……テスターをしてくれるならプレゼントしようっ!」
気狂いを見るような目をしてくる少女。虚無の瞳で感情を表現するなんて君も器用だねぇ……。ごそごそと何もない空間から取り出したるは……。
「じゃじゃ~ん! 謎肉を圧縮加工して人体の不思議なパワァ~を何十倍にも引き上げ補助するハイパワーマッスルスゥゥゥゥッツ!! こ・の・グゥゥウレイトな科学者ッ! ドクター・ジンベエが開発したスペェ~シャルッ!! な兵器さッ!!」
「……………………そう」
反応が薄いようだ。せっかく元気づけようと気狂い博士の物まねをしたのに……。実際、ゾン肉を数百体分使用して人工筋肉繊維:超重力化圧縮加工した結晶化させた筋肉繊維はAIサポートにより人間の生体電流に反応して快適サポート。パンチ力は岩をも砕きジャンプをすれば三階建てくらいなら飛び越えることが出来る。走り続けても消耗は少ないし専用のヘルメットを被れば索敵や補助UIがサポートしてくれるスーパースーツ……なんだけど。
特に重要なのが生体電流を増幅して背部にある圧縮バッテリーで自己充電ができるという異星の生体化学を紐解いて研究した新兵器。残念ながら自己修復の類の研究が追いついていないので消耗したらそれまでなのだけどね。
そのことを懇切丁寧に空間投影モニターで説明していたんだけど……意外と食いつきが良かったようだ。なんでも図書館でラノベを読み続けていたのでそう言うのに憧れていたそうな。裸のままでは可愛そうなので適当に見繕った猫耳パーカーと短パンを渡して着せて置いた(もちろん趣味です)
お腹が空いてもいたのかテーブルに用意して置いた紅茶とクッキーをバクバクむしゃむしゃとリスのように頬を膨らませながら食べていた。
「それとこれはスーツのオマケなんだけど……高周波ブレード(切れ味ソコソコ)と
H.P.M.S(ハイパワーマッスルスーツ)とブレードを予備も含めて四本渡すとキラキラした目で色々と弄り始める少女。よほど興奮したのか俺の目の前で服を全部脱ぎだす始末だ。
「あ、下着は着たままでも大丈夫なんだけど……君が動きやすいならそれでもいいか……」
追従性を突き詰めていったので下着を脱ぐと……そう。ポッチが二つに下半身の……そのぅ……とてもエッチですね。はい。
「………………結婚してやってもいい」
「………………ひょ?」
俺の演出の為に来ていた白衣をひっしと掴むと上目ずかいでこちらを覗き込んでくる。小顔で目が死んではいるがとても庇護欲を誘うリスのような少女だ。結婚……童貞には破壊力が高いです。
ふーむ。う~む。うむ。ヘルメットに通信機能を組み込みAIの補助機能を最大にする生存性を高め自動戦闘プログラムも組み込んでおこう。そして、身長の小さな彼女の頭をゆっくりと撫でてあげる。
「…………まぁ、であったばかりだ。君がのこの世の中を生き抜き色んなことを知りお互いを理解して尚その気持ちならばそれに答えようじゃあないかッ!!」
「…………そこまで本気にされても…………困らないけど。…………ふふっ」
オゥ……。本気じゃなかったのね……。童貞にはショックがでかいよ。でも、笑顔はとってもプリティだねッ! ちくしょう。
その後はUIのサポートで四本のブレイドを背部の簡易ウェポンラックに装備したり。スーツの上から猫耳パーカをいそいそと来ていた。短パンから伸びる黒いぴっちりスーツ。とってもイイネッ!! どうやら表情に出ないだけでポッチが見えているのは「……とても恥ずかしい……」とのこと。網膜カメラで数百枚ほど写真撮影したけれどスーツ代として貰って置くよ!
「ではでは。偉大なスーパードクター・ジンベエはこれにて退散ッ!!」
「…………まだそれやっているの? ………………また、ね?」
その溢れんばかりの笑顔を惜しみつつ華麗に去っていく、俺。でも、心配だからスーツの試験運用を観察する。やはり人口密集地帯なのか隠れていたビルを出た瞬間にゾンビが群がってくる。
ブレイドを両手に構え二刀流……え、大丈夫? 扱いにくいと思うんだけど。
強く地を踏み締め加速。勢いあまってゾンビの集団を飛び越えてしまい慌てているようだ。空中で一回転すると振り向きざまに薙ぎ払い。勢いあまってゾンビの背後にある標識のポールまで両断してしまっている。スーツの補助による膂力とヒートブレードの相性は良さそうだな。
それに気を良くしたのか交互に構えたブレードを振るいゾンビを切り裂いて行く。ああ、可愛い猫耳パーカーがどす黒い血色に染まっていく……。
数分程の戦闘行動でゾンビの群れが瞬く間に殲滅された。俺が最適化していった近接戦闘プログラムは少女の戦闘補助には効き目が良すぎたようだな。AIには生存の為の教育も行ってもらうとしよう。
少女の目の前にゆっくりと姿を現すと新しい猫耳パーカーを渡してあげる。そのままの姿では人間と合流した時に困りそうだからね。防汚防水機能を持たせておいた。
「…………やっぱりいた…………未来のお嫁さんの心配するとは…………感心」
「はぁ……まぁ、心配はしているよ。ほら、替えの着替え。汚れても水洗いすれば綺麗になるから予備も渡して置くよ」
リュックに着替えと日持ちする食料品。ライトコイルガンもの丁程使用方法を説明して渡して置いた。一個人にここまでするつもりはなかったけれど……まぁ、ちょっと気にいってしまったしね。
「それと調子に乗ってゾンビの群れに突っ込み過ぎないようにね? そのスーツはプロトタイプで消耗に弱い。いづれは自己再生機能も組み込むつもりだけど……」
「そ……。ありがと……旦那様は心配性……ふふふっ」
少女はゆっくりと近づいてくるとゆっくり抱き締めて来る。背がちんまいから俺のお腹辺りに頭が来ている。数回ほどスリスリしてクンクンした後満足したのか離れて行った。
わきに抱えていたヘルメットを被るとコンコンコンと指でつつく。
「…………連絡……するから、ね? 心配しないで」
UIに表示された俺への連絡方法を示しているのだろう。AIに指示すれば映像通信を行うことが出来るからな。
「――――あいあい、今度こそまたね。死ぬなよ?」
振り返り移動を開始しようとすると背後から声を掛けられる。
「アメリア――二宮アメリア。私の名前……」
…………。なるほど。だから胸部の戦闘能力が高かったのね。
「狭間ジンベエ。――天才科学者さっ!!」
ちょっと、良い事があったので機嫌よく夕焼けの街を走り去る。新しい発明品のいいアイデアが湧いて来る。まぁ、その過程でちょっとかわいい子が救われたらいいと思う。
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