第5話リアルロボットが好きです

 委員長タイプの気の強そうな……え~と、そう、かすみちゃんと言ったかな。彼女にはライフルタイプのバレルを延長した銃架を設置して遠距離射撃用のタイプを提供した。


 気の弱そうな子達にはスカートの下に所持する事の出来る太ももにベルトを巻いて装備できる軽量タイプを。クラスカーストの高そうなパリピギャルには連射タイプのサブマシンガンを提供した。


 かすみちゃんと女性教師のかおるこちゃんには緊急時に俺直通の連絡先が登録してある通信機を渡している。人間性や今後の商売にもある程度取引があった人間の方が話が早いからね。


 ただ連射性や射程距離、殺傷性を求めていくとコイルガンシリーズは高性能高電圧のバッテリーを肩に掛けるショルダータイプか背負うリュックタイプでバッテリーを携行しなければいけないのが欠点かな……。ハンドガンサイズで射程が短ければ携行する事が楽なタイプなのだが。


 試射かいという名のライフルタイプのコイルガンでかすみちゃんは校舎の屋上からバンバンゾンビを射殺していた。ストレスが溜まっていたようでバッテリーが切れるまでもくもくとトリガを引いていたね。その後も射程外だけれど様々なタイプの銃の試射を女子生徒たちが行っていた。大型のリュックやバッテリー運ぶためのキャリーもオマケとして付けて置いた。


 所有者変更のパスワードキーをこっそりと二人だけに渡して置いたから誰かが死んでも装備は使用できるように対策はしたけれどここまでサービスしたからには何とか生き残って欲しいね。


「じゃ、おっさんは別の所に商売に行くから。それと怪しい行動をしている奴はさっさと撃ち殺したほうがいいよ? 今なら証拠は残らないしゾンビでも殺していると人間――狂気に走っちゃうからね? かおるこちゃんも正義感に走ることなく守れる範囲の線引きをすること」


「ありがとう……これで……これで皆を守れる……」


 特殊部隊張りの重装備を着込み握りしめたライトコイルガンを見つめるかすみちゃん。あんまり思いつめなければいいのにねぇ。責任感が強いタイプなんだね。


「え~と……そういえばあなたのお名前をお聞きしていません」


「俺の名前は……う~ん。【おっさん商人】とでも呼んどいて。もっと仲良くなれたら教えるから。俺だけ名前を聞いてて悪いけど……じゃあ、頑張って生き残ってね」


 身内以外はそこそこ見捨てなければ生きづらい世の中になったんだし強く生きて欲しいな。全身をステルス化したの校舎の屋上から地上へと飛び降りる。グラウンドの砂塵が軽く舞い上がったが敵性ゾンビはすでに処理済みである。


「広域の生命探査の結果――――あと二件ほど回れそうだね」


 UIに目的地にピン止めしゾンビをなるべく回避しながら走っていく。ビルの屋上から屋上を飛び交うには身体操作の熟練はできていないし意外と階層の差が大きくて意味が無いんだよね……壁走りはまだできていないし。


 百人単位の集団と取引していればのちのち話がスムーズになるので縁を繋いでおく。もちろん人類の存続為に女性優先でね。無法地帯になることはほぼ確定的だし子供を守り育てるためにもなるべく武装していて欲しいしね。男はいくらでも種撒けるんだし気合で生き残れや。別に下心で女性と取引しているわけじゃない……よ? 


 次の避難集団は男性も多く生存しており少々揉める事となった。大型ビルの会議場で避難していた集団なんだけれど……。


 いきなり背後から殴り掛かられるとは思わなかったね。振り返ると同時に足を払って倒すと太ももを強く踏みつけて骨をしっかりと折って置く。こいつは存在自体が害悪になりそうだね。


「食料品を売りに来たのになんで襲い掛かったんだ?」


「ゲスな取引をする奴がまともな人間の訳が無い! 大人しくその食料を寄越せッ!!」


「いや……まあ……うん……まともではないけど。握手とハグぐらい誰でもできるんじゃないの? 食料自体本物だし。そもそもいらないなら帰るだけだけど? ほら、そこの女性なんて困っているよ? 握手するだけでこの缶詰が貰えるのに何か困るような事でもあるの? ほれ、そこの女性OLさん缶詰開いてみてよ。腐っても無いしまともな商品だよ」


 一つだけ缶詰を放り投げるとお腹が空いていたのか鯖缶を開くと美味しそうに喰い尽くしていく。他の女性OLもモノ欲しそうにしていたので一個づつプレゼントしていく。


「ほら。問題ない。そもそも男は気合で生き残れよ。商品の取引は女性だけだよ。これ以上近づくなら――――問答無用で殺すよ」


 太ももを骨折している男性の腹を蹴り上げ会議室の隅へ。ゆっくりと女性OL達が近づいて来るので新作のお菓子や下着類をドンドン出していく。いきなりライトコイルガンを並べても引かれそうなので鞘に納めているコンバットナイフを商品のおまけに渡していく。腕や太ももに装備できるようにベルトも付けておく。


 男性の視線を逸らす為にパーテーションを建てたんだけど堂々とパンツを脱ぎ始める女性OL。やっぱこんな世の中になったら意外と強いのは女性なのかもしれない。


 ゴトリ。ハンドガンタイプの携行しやすいライトコイルガンを取引した全員にこっそりと装備させると軽い射撃体勢をレクチャーする。


「男性も多いしいつ襲われるかわからないから人間を殺す覚悟を持っていた方がいいよ。どうせ証拠も残らないから集団で――ね?」


 テーブルを片付けたり商品を仕舞っていると女性達に食料をたかり始めたり奪い取ろうとする男性社員。ホルスターに仕舞ってあるコイルガンを引き抜くと二、三発速射する。女性の腕を掴んでいた男の眼球から発射された弾丸が後頭部から突き抜けて行く。


 食料を集っていた男性は情状酌量の余地はギリあるので手の甲を撃ち抜いた。

 

 眼球から脳を破壊された男はだらりと床に倒れ込むと周囲の人間が騒ぎ始めた。


「ひ、ひ、人殺しッ!!」

「やっぱり犯罪者なんだ! みんなで殺せ!」


 腹いせか知らないが十数名の男性が椅子や打撃武器を手に取り俺へ襲い掛かって来た。


「人殺しを殺しにかかる人間は人殺しじゃないのかな? ――それと今武器を手にしている人間は死んでもいいって事かな?」


 躊躇してはいるが武器を手放さない人間は多い。殺意の感情が濃い人間だけをターゲティングすると両手にコイルガンを装備すると射撃を開始した。UI内にレティクルが表示されると周囲の時間が引き延ばされたような感覚に切り替わる。


「【思考加速】――これ、ズルっこだよね」


 パスッ、パスッ、パスッ。と一人づつ丁寧に額を撃ち抜いて行く。死んだのは三十人程かな。思考加速が停止すると一斉に人間達が崩れ落ちた。他の生存者たちは唖然としているようだ。


「この世界では殺す覚悟が必要となる。生き残りたければ殺せ。人を信用しても信頼はするな――頑張れよ~」


 他の避難場所にも食料や武器の提供を行いに移動を開始するもちょこちょこ小規模な避難民が居た為結構な時間ロスをしてしまう。まぁ、少しでも生存率は上がるし商売のタネになるならと適当に取引を行っていく。


 開発したライトコイルガンに使われている特異技術はセキュリティ関連とバッテリーだけだから弾丸の補給位なら製造は可能だろう。武器の少ない人間達の為とは言わないがなるべく戦う力を持っていて欲しい。


「…………閃いたッ!!」


 またろくでもない事を考えたのですねクズめ、と辛辣な感想をエクシアさんから頂きました。確かにパンツゲッターは品性の欠片も無い外道ですね。ええ。はい。


 設計図を引きましょう。本体は木製でRPGに出てきそうな宝箱を参考にします。もちろんメインは濃い赤色で金色で縁取りましょう。ガラスを宝石風にカッティングをして着色。きっとちっちゃい子供さんはキラキラしてて喜ぶと思います。


 大きさは……避難民の数に比例して小、中、大、特大と用意しておきます。コレを避難所の前や国道に適当に等間隔で配置しておきましょう。中身はハンドガンサイズのライトコイルガンや弾薬、日持ちのする食料品や衣料品を入れておきましょう。――毎回トラブルに巻き込まれたり煩わしい会話にそろそろウンザリして来ているんですよ。ええ。おっと、放置車両は美味しく回収させて頂きますガソリンの備蓄がなかなかな量になってきているんですよね。何かに使えないでしょうか?


 ――宝箱を用意するならびっくり箱も……必要でしょう?



「はぁっ……はぁっ……」


 一家四人で家に立て籠もっていたのだけれどゾンビの群れにあっさりとバリケードを破壊されてしまった……。お父さんは私達を逃がす為に家に残って……お母さんとお兄ちゃんはゾンビに噛まれちゃった……。


「こわいよぉ……誰か助けてぇ……」


 いつもやっているゲームみたいに魔法が使えたり異世界転生した勇者様が現代に戻って来てムソーとやらをして……くれないよねぇ……。はぁ……。私って処女すら卒業できなかったし……イケメンと恋とかデートとかしてみたかったなぁ……。あ、まだ完結していない悪役令嬢もののラノベ……読みたかったなぁ……。


 無我夢中で逃走している間に逃げ込んでしまった廃倉庫。よく不良のたまり場になっているから近づかないようにって言われていたなぁ……。


「ん……? なにこれぇ……」


 廃倉庫内のあったおっきなコンテナのが開いていたのだがその中には……。


「これって……工業用作業ロボット……? あまり見なかったジャンルだけど……」


 がっしりとした巨体に太い鉄パイプを組み合わせたような黄色いカラーリングの人型? ロボット。両腕の先ははさみのような形状だけれど解体現場の重機のでよく見た事がある。高さは五メートルくらいで……。コクピットはガラス張りで覗き込んでみるとテレビモニターに……えっ? なんでゲームのコントローラーが付いているんだろう……。


「もしかしたら助かる……? 乗ってみるしかないか……」


 いつも私が遊んでいるゲームの本体SAGAプルートの本体がモニターの下に据え付けられている……。電源ボタンを押すとロボットのエンジンに火が灯ったようだ。コクピットの背後にある箱型の大きなエンジンっぽい所から排気ガスが出てきている。


「え、このロボットって……ガソリンで動いてるんだ。すっごい超未来ジェネレーターでもなく魔導エンジンでもないんだ……」


 物語の主人公のようにヒロイックに活躍は……できないかもしれないけれど生き残れる希望が湧いた。操作方法は本当にロボット対戦ゲームに出て来るような私でもできる操作方法だ。十字キーで前後左右に動いて……Aがパンチ。Bもパンチ? いや、薙ぎ払い。Cがパイルパンチ? 


【個人認証登録を行います――ディスプレイに両手を置いてください】


「ひょえっ! ――あ、使用者登録ねっはいはい。――置いてっと……完了!! 機体名称は――P.M.A.S(プロトタイプマシンアームドスーツ?)」


【チュートリアルを開始します。目標地点へ向かって下さい】


 乗り込んだロボットが自動で目的地に向かって移動を開始した……ってええっ!! ちょっ! ちょっとまってぇっ!!


 バキバキバキメキッ!! 廃倉庫のシャッターを破壊しながらロボットは外に出てしまう。その轟音に気付いたゾンビが大量に群がって来た。


「いやぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!! こないで! こないでぇぇええぇぇ!!」


 パニックになった私は手に持っていたコントローラーのボタンをがむしゃらに連打する。ワンボタンを押すたびに肉片が飛び散り、コクピットブロックの前面にあるガラスが汚れて行く。数分も経つと周囲に存在するゾンビは全て殲滅されロボットの足元には残骸が……おぇ……。


「うっぷ……気持ち悪いよぉ……あ……。ロボットアームが少しひしゃげてる……急いで移動しなきゃ……いけないんだよね」


 モニターには実験機とハッキリと書いてあり耐久性に難がある事、移動先には自衛隊の防衛拠点があることが書いてあった。なんでそんな情報が分かるのか私には分からないけれど……生きる事だけを考えよう……ん?


「えーなになに……。【当社製品をご利用頂きありがとうございます】うんうん、どうもです。【機体を降りる際に専用データキューブだけは引き抜いてください。次回作をご利用の際にはあなたせんようのAIとなったり様々な特典が受けることが出来ます】……か。よくわかんないけど……わかった!!」


 コントローラーの十字キーをモニターが誘導する方向へ押し込むとエンジンの回転が高まり排気ガス勢いよく噴出される。二足歩行タイプなので振動が結構酷いが耐えられない事も無い。――でも、いわゆるショックアブソーバーとかダンパーとか衝撃吸収機構は何とかしてほしいな……気持ち悪い。あ、モニターのAIさんに陳情しておこう。


【貴重なご意見ありがとうございます】


 いえいえ。助けられてますから。


 それから一時間程ゾンビの大群と格闘しながらどうにか自衛隊の拠点へと辿りつくことが出来た。できたんだけど……。


「そこの……え~と……ロボットっ!! ゆっくりと手を上げながら降りなさい!!」


 拡声器でこちらにロボットを降りるように声を掛けられる。でも、うら若き乙女に銃口を数十も向けなくて良くない!? おしっこちびりそうなんだけど……。あっ。データキューブを引き抜かないと……。


 気を効かせてくれたのかデータキューブは一センチくらいのキラキラした虹のようなキーホルダーみたいに鎖が付いてて調べられても誤魔化せそうだ。ロボットを降りると停止してしまったので色々と事情聴取されてしまったけれどそこまで厳しくはなかったかな? なんだか技術研究所で爆発事故が昨日起きたって聞いたけれど……まさかね? し~らないっと。

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