第4話戦う女子高生

 ゾンビ:パンデミックが発生してから数日経過し、俺は今何をしているかと言うと……。


「――吸収、解析、吸収、解析。この付近で人のいない倉庫や工場の機器は粗方回収完了だな。医薬品に食料品に衣類……と。はいはい衣料品のサンプルも欲しいのね」


 俺の能力である吸収し解析する。車両サイズなら生成まで時間はかかるが解析データと資源があれば生成する事は可能だ。有機物も解析した遺伝子マップデータがあればホウレンソウやビーフの缶詰など近似している有機物――謎肉ゾン肉等を使用して生成が可能と成った。しかし大量生産するとなると次元保管庫内に各々の生成プラントを製造しなければならないようだ。


 人類圏の生活一式のデータが脳内図書館に存在しないためにエクシアさんの収集欲と俺自身が人間との商売を行う為にデータと原材料の収集を行っているのだ。現在進行形で人類圏のインフラが壊滅し始めドンドン人間が死んで行ってはいるが――今、近くにいる人間達を救うよりもこの行動が多くの人間を救う……事になるかもしれない。


 全身をステルス機能で覆い隠すことに否定的なエクシアさんを拝み倒して何とか隠密行動を取れるようなステルス装置を開発してもらい収集活動に専念している。偶にゾンビに襲われている人間達をちょくちょく助けてはいるがあくまでついでの行動だ。


 できれば空を飛ぶための装置である反重力機関や転移機能であるワープ装置などをエクシアさんに作成して欲しいが兵器開発や特殊装置の開発は一切協力する気が無い模様……。決して地球の自転速度と公転速度の計算がめんどうくさいから開発を渋っている……のではないと思いたい。これが魔法ならイメージするだけでパパッと行使できるのだけど。現実のワープや反重力って計算がとっても面倒らしいね。オートで演算処理を行うシステムを開発しなければ――ああ、脳がオーバーヒートしそうだ。


 人間が生きていけるために必要な食料や衣類、生活用品を回収しているが重複している物品は次元保管庫に放り込んで行っている。当初は次元保管庫は分解吸収した物しか補完出来なかったが人類の生存、発展に普段使いできる次元保管庫は必要だろうとエクシアさんが慈悲の心を発揮して数日程で俺個人専用の次元保管庫へのワームホール生成プログラムを組んでくれた。


 ワームホールの拡張は自分でやれとのお達しなので今後努力するしかないだろう。次元の拡張やワームホール理論ってなんですか? 最近までエロ小説をシコシコ書いていたおっさんに高度な理論を理解しろとのことです。おかげで並列思考の大半が理論の解析と発展していく技術ツリーごと学ばさせられています。脳内で眼鏡をかけた美人パツキン教師アバター(エクシアさん:体罰付き)とのマンツーマン指導です。


 なんでも、辿り着いた技術をそのまま学んでも身にならないとの事。地球圏の物質の分解や解析、生成を行っても良いが未来SFのような兵器や装置は自分で製作しろとのこと。


 おかげで現実世界の身体に割ける思考能力が低下してゾンビとの戦闘をなるべく回避するようにしています。――おっと、謎肉を回収しておきましょう。俺の通った道は車両もゾンビの残骸がきれいさっぱりなくなっていますね。これぞ地球と環境に優しい? というものですね。(間違っている気もするが……)


 ようやく童貞おっさん三十六歳の人類発展計画の――一部が開始できます。それは商売と言う名の趣味と実益を兼ねた壮大な計画の始まりなのですよ――ふふふ。







 東京都心にある女子高等学校の屋上に生徒と教師合わせて百数十名が避難生活を送っていた。辛うじて電力や電波が通っている為に持ち出した食料でギリギリの生活を送っていた。


 だがゾンビ:パンデミックが発生して数日間、自衛隊の救出活動は一向に進んでおらず。避難シェルターの確保や防衛線の構築で人手が全く足りていない状況であった。


 自衛隊員や警察官達は連絡の取れる避難民の要救助者のマップは作成できるも救助ヘリや護送車の手配、銃器などの武装が間に合っていなかった。海外など銃器製造や所持のできる国々ではゾンビの駆逐作戦や救助活動などが頻繁に行われているが日本という平和な国では脅威に対する“武装”という面では遅れていた。


 屋上の入り口には強固にバリケードが張られゾンビの侵入を防げてはいるが未だに校内では大量のゾンビが徘徊し今も生存者である女子生徒や教師の命を狙って来ている。ここ数日雨が降って避難している人間は野ざらしになっており精神的にかなりの消耗をしていた。もちろん、風呂やトイレなどといった物は存在しておらず。コソコソと屋上から地上に向かって排泄したりすることを強いられていた。


 なかには恐慌状態に陥り錯乱する女子生徒や、いじめられていた大人しい生徒が飛び降り自殺を敢行しかけるといったギリギリの均衡を保っていた。


「先生……いつ救助が来るのでしょうか……」


 責任感の強い東京女子蓮華高等学校の生徒会長である宮園かすみは担任教師に声を掛ける。こうして会話を行っていないと心が病んでしまいそうでたまらないようだ。女子生徒の中で「おねーさま」とよばれておりとても人気となっている。スタイルもメリハリが効いており天使のティアラがキラキラと輝く自慢の黒髪も現在はくすんでおりややからまっていた。


「――そう、ね……。そろそろ救助に来てくれたら先生、うれしいなぁ……って」


 担任である黛かおるこも、生徒の恐慌を諫めたり同僚の体育教師である下品な男性教師の視線に耐えてきた。なんとか女子生徒の圧倒的な人数差で男性教師や学年教頭を離れた場所で生活をして貰ってはいるが――限界は近いのかもしれない。


 すでに食料は消費しきっており明日の分の食料も無い。もう、バリケードを解放して食料確保に行った方がいいのではないかとの意見も出ている。食料の限界が見え始めた昨日、若く女子生徒に人気だったイケメン男子教師は食料確保のために屋上から雨どいを伝って降りようとしたところうっかり手を滑らせ落下死している。今は元気よくゾンビに変貌し生徒たちを襲おうとしている。


「先生……先生っ!!」


「どうしたの? あんまり声を荒げて欲しくないのだけれど………………えっ?」


 生徒たちが各々のグループごとにまとまっている場所の中心に怪しいフードを被ったおっさんが現れたのだ。テーブルの上に様々な食料品や女性用の下着を並べて。絶句だ。避難している人間全てが絶句し驚いていた。そんななか――


「ら~しゃせ~ら~しゃせ~安いよ安いよ~今ならお得っ! タイムセールでお安くしとくよ~商品一覧と購入する為のポイントのこれだよ」


 ラミネート加工した商品カタログを放り投げると教師である黛の足元に落ちてきた。怪しいく≪お・し・な・が・き≫と書かれている内容を読んで行くと頭が痛くなってきた。


≪お・し・な・が・き≫


商品購入の為のポイント交換表(男性NG・各種提供商品は要相談・武器在ります)


・あくしゅ(一人一回のみ)

1ポイント


・はぐ   

10ポイント


・おっぱい1揉み

1000ポイント


・ほっぺにちゅう

1000ポイント


・おパンツ(新品の商品を提供致しますので更衣室をご利用ください)

10000ポイント


 いつの間にか商品が並べられているテーブルの横には≪更衣室≫と≪シャワー室≫と書かれているプレートが下げられたカーテン付きの個室が併設されていた。驚愕の表情で訝しんでいるとスケベハゲジジイと仇名の学年教頭がツカツカと商人であるおっさんの前に行くと。


「お前がどうしてここに居るかは分からないが今は緊急事態だ。商品を全て提供した前。そうすれば不法侵入の罪には目を瞑ろうじゃないか」


 確かにおっさん商人はとても怪しいが最初に書ける言葉では無い。渡されたお品書きには(武器在ります)と書かれているのだから。

 

 だが、おっさん商人はニコニコと笑顔を保ちつつ学年教頭を無視している。その態度に激高した学年教頭はテーブルを叩きながら。


「貴様ッ! 状況が分かっていないのか!! この犯罪者め――」


 ――パァン。


 発砲音と共に学年教頭に耳が千切れ飛び叫び声を発する。耳元を抑え蹲っているようだ。そして、屋上にいた女子生徒達も悲鳴を上げ始めるがおっさん商人は上空に銃口を向け数度ほど発砲。屋上は静寂に包まれた。


「俺は商売をしに来たんだ。ごちゃごちゃ小汚い爺が声を掛けてくるんじゃねえよ。取引が出来ねえなら来た時のように帰るからな? あと十秒以内に買いに来い。――地獄へ垂らされた蜘蛛の糸はいつまでもあるわけじゃないんだからな」


 女性教師黛かおるこは即座に判断しテーブルの前へ走り寄った。失うものなど私の羞恥心だけッ!! 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めながらおっさん商人へ宣言する。


「わ、わ、わ、私のパンツを買い取ってくださいッ!!」

 

 黛かおるこ人生最大の羞恥顔をスマホでパシャリと撮影するおっさん商人。ニチャリと嗤うと可愛い下着セットをテーブルに並べ始めた。


「好きなのを選びな。特別サービスでシャワー室はオマケしといてやるよ――ほら、お前たちはポイント交換しなくていいのか? シャワーもあるしお菓子だって色々取り揃えているぞ?」


 もう一つ用意されたテーブルに並べられるチョコレートや清涼飲料水。パンやカップラーメンにポットのお湯がサービスで付いてくるようだ。それを確認した女子生徒達はテーブルの前に群がった。


「私のパンツを持って行きなさいッ!! ほらっ! それとおっさんに乳を揉まれたぐらいどうってことないわよ! さっさと食べ物寄越しなさい!」

「う、うちは……ハグぐらいなら……んっ……みんなも可愛いパンツに履き替えてるし……今なら……いいかな?」

「全部! 全部交換よ! 魔法使いだかなんだか知らないけれど出せるだけドンドン出しなさい。もう、脱いでるから返品は受け付けないからね!」


 あくしゅにハグにほっぺにちゅうされたり。更衣室を利用せずにすでに脱いであるパンツをテーブルに叩きつけられたり――色気の“い”の字も感じられない状況だった。最初にポイント取引にきた女性教師が最後の滾るポイントだったのだろう。


 おっさん商人は若い女子生徒に色気はあまり感じないけれどコレクション魂を発揮して視覚データを次々に保存していく。なお、購入したパンツを履いてすぐさま脱ぎテーブルに叩きつけるという無限ポイント稼ぎを始めた剛の者が発生した為五回までならオッケーを出さざる得なくなった。


 極限状態に陥った女子生徒たちにとって羞恥心など欠片も存在しなかったようだ。


 一番最初におパンツ交換の取引をしたピュアピュア教師はおっさん商人のお気に入りになっていた。しかも、混雑する女子生徒の列の整理を手伝ってくれたりしてくれたのでシャワー室や更衣室の増設をしてしまった。


 食料を地べたに座って食べていたのでイートスペースとしてテーブルや椅子も屋上に設置していく。食料を貪り食い満足した後はシャワー室で優雅に身体を洗っていく。もちろん、ボディソープやシャンプーも販売している。


 童貞おっさん商人的には握手やハグ程度しか来ないだろうと甘く見ていた為、まさかパイモミやおパンツを頂けるとは想像すらしていないかったようだ。内心ホクホクしながらも数日野ざらし状態の女子生徒たちのスメルを記憶していった。――でも、やっぱりお風呂には入って欲しかったと感想を心の中に留めて置いた。


 しかし想定外に時間が取られるな――と思っていた。日に数件程限界に近い避難民を回ろうと思っていた為計画の変更を余儀なくされる。


 女子生徒たちのキャッキャウフフの状況を歯噛みしながら睨みつけている男性教師たち。もちろん身体を張って購入した商品なので分ける与えるという行為は女性教師である黛も行わない。むしろ気持ちの悪いおっさん共に慈悲の心は発動しないのだ。


 ある程度商品が行き渡った所でおっさん商人は周囲に聞こえるように声を張る。


「うら若き女子生徒に女性教師のみなさん。男性の視線やゾンビ共はとてもとても怖いでしょう? ――そこで特別サービスで個人認証機能付きの≪ライトコイルガン≫弾丸百発と手回し充電器付き――買いません? 予備弾倉とポーチはオマケしておきますよ?」


 ――ゴトリ。


 鈍色の光沢を放つ現代の拳銃と遜色ない武器。おっさん商人のハンドメイドのものだ。セキュリティ関連はブラックボックス化されてはいるが構造自体は簡素になっている。


 緊張感が漂う中生徒会長である宮園かすみがいち早くライトコイルガンを握りしめた。


「一つ――下さい。予備弾倉や弾丸は何ポイントですか?」


「お、決断が早いね。弾倉は弾丸コミコミでポーチに満載してあげるよ。残ったポイントはカードに付け込んでおくからまた会った時しようできるからね。いちおう、防弾チョッキや防刃ベストやプロテクター各種も取り揃えているけど……」


「頂こう。全てだ。なんなら私の貞操だってくれてやる――だから私達に戦える力をくれッ!!」


 おっさん商人がニチャリと嗤うとゴドンッと≪ガトリングコイルガン≫をテーブルに出した。


「気に入った。出血大サービスだッ! 可憐で高貴なお嬢さん――お名前は?」


「みやぞの――宮園かすみだ」

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