第3話ゾンビ:パンデミック

 高速思考による仮想空間生成し様々なシミュレートを行う。脳内にぶち込まれた様々な知識を疑似AIのエクシアさんに手伝ってもらいながら精査していく。


 機巧の神による雑な処理により多文明の知識がごちゃごちゃしていて全く役に立っていない。


『なにこれ。次元跳躍による周囲への影響。相転移現象によるエネルギーの抽出。恒星間航宙船の製造図。異位体同士による結合、抽出、複製による精神ブランクの生成条件の相違――ってこれ、エロ本じゃん。ケイ素生命体さん合体して分裂がエッチな事なの? 検閲には生成から経過年数が数百周期以上に制限されてらぁ……寿命が無いとスケールが違うのね……人類には早すぎるわ』


 空間内には数百もの空間ディスプレイが表示され文字列が高速で流れて行っている。人類に理解できる言語データに変換してくれているエクシアさんには感謝だな。


 雑に人体改造されてしまったが俺。狭間はざまジンベイの高性能化した頭脳内に様々な知識を整理していく。趣味嗜好は変わらないが地球のスパコンどれだけ直列すれば実現できるか分からない程の処理能力を保持してしまっている。


 できない事は無いと勘違いしてしまう程高性能だが、自意識による“こうしたい”や“ああしたい”といった発想が無ければ宝の持ち腐れのようだ。ものの試しに空中を漂っているネット回線の電波を拾い電脳空間のデータを収集、保存しても脳内メモリーを全く消費しない。


 しかしインターネットの娯楽などに興味を示したエクシアさんがアニメ動画やイラスト、動画サイトなどをエンドレスに視聴して行っているようだ……。ちなみに俺が書いていたエロ小説を読まれてしまい『全く持って滾りません。ゴミカス以下』と辛辣な感想を頂きました。――心がとっても痛いです。


 病室にて朝食を取っていると警察官の上層部と思われる人が刑事による暴行事件による被害届を出さなければ示談金として数百万の慰謝料を出すとの事なので快くオッケーを出しておいた。まさかそこまでもらえるとは思わなかったのでさっさと書類にサインをしておいた。


 どうやら昨日の爆発の件が隕石の落下による事故と処理されたらしく俺を爆発物所持、実行犯と疑ったにもかかわらず一切証拠が出ておらず起訴する事を断念したようだ。通信履歴や調書をエクシアさんが警察のサーバーから引っ張って来たため判明した事実だ。


 爆発物を所持した容疑者として全国区でテレビに顔を晒され暴行された俺として数百万は安く感じるがこれ以上どこからも慰謝料を引っ張ってこれそうにないので諦めるしかないだろう。


 仕返しとして暴行を行った刑事とテレビ局の関係者の個人情報を銀行口座の暗証番号付きでツブヤイターに公表するようにエクシアさんにお願いした。


『心の狭い人間ですね』と鼻で笑われてしまったが俺の心はとっても傷付いているのだ。決してエクシアさんにエロ小説を馬鹿にされた八つ当たりではない。


 機巧の神の使命たる――人類をテキトーに存続してテキトーに発展させろとはどうしたらいいのだろう? そもそも人類を存続させろという事は、将来的に人類が滅亡の危機に瀕する何かが発生するのか?


 うだうだと気になっていたアニメと美少女ロボット物のソシャゲを並列思考マルチタスクでプレイしながら思考する。これ、便利だな。


 ベットの上で次回作であるエロ小説のストーリーを考えながらボケッとしていると聴覚センサーが捕えた情報に病院内にかなりの人間が苦しみながら搬送されてきている事が判明する。不思議に思っていると患者の心臓の鼓動が次々と停止していき次の瞬間大勢の悲鳴が響いてきた。


「――なにが起こっているんだ? エクシアさんわかる?」


 索敵センサーを起動させ状況の把握を行う。俺の身体のどこにそんな機能があるのか分からないが網膜に投影されているUIユーザーインターフェイスに赤く点滅する脅威判定された物体が青い点滅である有機生命体を襲撃しているようだ。


 赤い点滅である敵性体(仮)に人類である有機生命体を判別している生命判定を行うと――。


「NO LIFE……生命反応無し――UNDEADアン・デットつまりゾンビ……?」


 病室の窓から外を覗くと看護師の制服を着た女性が首筋から血液を噴き出し死んでいる。走って襲撃を行うゾンビ(仮)は次々に生者を襲い始めて行った。すぐさま病室の扉に鍵をかけると隙間を溶かして強固に接合する。これで破壊されない限り親友する事はできないだろう。


 UIには異常事態の発生場所は世界各国の人口密集地帯に集中している。ツブヤイターの投稿での推測なのだが視界内の世界地図に赤いピンが次々に増えて行っている。


 急に都内で心臓を抑えて苦しみだした患者がゾンビ(仮)化していき噛みつかれたり傷つけられるとゾンビウイルスっぽい物に罹患しているようだ。


 病院の駐車場で襲われている人間を観測しているとそう仮定してもよさそうだな。――人が襲われ死んでいくことに感情が冷めたままなのは人外になった副次効果なのか感情が欠落したのか分からないが……慌てるよりはましだろうと心に棚を作る。


 ゾンビ化した個体は生命活動を停止させ人間が出せる全力。つまりリミッターが完全に解除された状態で人間達を襲い出している。体力? なにそれ美味しいの? と言わんばかりに全力疾走で生者を喰い荒らす。


 おそらく身体のどこかを欠損させ機能を停止させるまで動き続ける脅威ゾンビは平和な国であった日本人に撃退する事はなかなかできないはずだ。


 ゾンビ映画の本場である米国はすぐさま銃器で応戦したり頭部を完全に破壊したりして行動不能へと追い込んでいた。現在進行形で世界中で生中継されていたり監視カメラの映像をハッキングして情報収集する。


 このままでは避難所や建物に閉じこもる前に人類が全滅してしまう……。


 映画に出ているゾンビだったらのろのろとした動作でどうにか撃退できるレベルだが現実は人間の限界の速度と膂力を持って人類を絶滅しにかかっているのだ。


「エクシアさん。ゾンビ(仮)性質と現時点で分かっている対処方法をメディアに強制的に流せるかな? 日本国内にゾンビが広がっていない地域にも映像と一緒に緊急避難命令を発令して数日程――まぁ、直ぐに日本政府が発令したものではないとバレるけれど数日誤魔化せれば多少マシ……だろ」


 ――人類をテキトーに存続させといて。


 機巧の神が言った意味が漸く理解できた。そりゃあ人類滅亡の可能性が出て来るわ。それにしても俺一人で人類の発展……できるのか?


『日本政府より非常事態が宣言されました。人類敵性ウイルスの感染によりゾンビ:パンデミックが発生しました。強固な建物にすぐさま食料を確保したのち避難を開始して下さい。ゾンビ(仮)とされる敵性体はすでに生命活動を終えており活動停止に追い込むには頭部や足などを破壊するしかありません。――ただいま長居しているゾンビ:パンデミックの映像は誤情報ではありません。国民の皆様。生き残るためには団結し協力し戦うしか道はありません。全メディアの情報は緊急情報番組へ切り替わっています。随時映像や情報の更新が行われ次第伝えていきます――繰り返します』


 日本中のメディアをハッキングしエクシアさんが作成したアナウンサー風のアバターが情報を発信し始めた。もちろんゾンビ:パンデミックが発生していない地方には寝耳に水の状態だろう。地域ごとにゾンビ:パンデミックの発生頒布図を更新していっている。日本国民はパニックに陥り暴動も発生はするだろうが異常な速度で感染が広がっているので自衛隊の出動を迅速に行ってもらうにはこれしかない……と思う。


「パニックが起こることにより発生した人的被害は――のちの評論家に行ってもらうとして。――これからどうしよう」


 うんうん。と唸っていると簡易行動の提示がUIに羅列された。資源の回収を随時行い次元保管庫内に開発を行う為の拠点作成。兵器開発、食料製造プラントの作成。はたまた航宙艦の作成や全環境型のコロニー等。技術ツリーがシミュレーションゲームのように表示されている。ちなみに人命救助は最後の項目に表示されており、気が向いた時に人助けすればいいんじゃない? と、俺の健全な精神状態の保全の為に表示されているようだ。


「これ、今流行りの宇宙戦略SLGの技術ツリーだよね。それにサンドボックス型のアイテム作成風の作業台アイコンも……とってもわかりやすい……分かりやすいんだけどエクシアさんも人間臭くなってきたね――はいはい、ごめんなさい。NTRエロ小説の主人公の名前を俺にしないで……」


 技術ツリーにある宇宙艦やコロニーなどかなり後方に表示されている為いつ製作できるか分かったものではない。中には未発見の物質や地球上に存在しない物質。火星や金星でしか採取できない特殊鉱石。はたまた次元の狭間にしか生息していない次元耐性を持つ怪物の体内で生成される特殊元素。


 様々な知識や処理能力をもってしても資源が無ければ意味が無い。それに特殊な金属を生成する特殊条件下でしか精錬できないものも多い。


「ひとまず収拾できそうな身近な資源物質は――車両かな……。電線はインフラを遮断させるわけにはいかないし。人助けは……頼りにされ過ぎなければ“可”かねぇ」


 病室の窓を開くと窓枠に足を乗せる。トッ。と軽く駐車場へジャンプすると浮遊感を感じる。アスファルトの地面に着地をするとピシリとヒビが入った。身体に掛かる衝撃をオートで反射させることによりダメージを与えたようだ。反射ではなく吸収、緩和でも問題が無いなら反射を辞めた方がいいだろう。だって――敷地内のゾンビさん達が全力で俺の元に走ってきているから。


 走り寄るゾンビ共を加速する思考の中ボンヤリと見つめれているのは自身の対する脅威度が極端に低いからだろうか? 有機生命体である人類の戦闘シミュレーションプログラムを即座に組み込み対人ナイフ戦闘術を起動する。


 右腕の甲から鋼鉄製の刃がスラリと伸びる。軽く腰を落とし敵性体の迎撃行動に移る。索敵センサーを走らせながら最適行動をルーチン化させるために情報解析も同時に行っていく。今後戦闘行動が多発する為常に情報は更新していかなければならない。


「来いよ――


 トッ――つま先の力だけで身体を左前方へ跳躍。ゾンビとすれ違いざまに首をぶった切る。


 ――クソゾンビ共」


 ゾンビへと変貌したせいか首から流れ出る血液は粘性を伴った黒に近い液体と化している。俺の背後からドチャリと音を立てて倒れ伏したゾンビの気配がした。音を置き去りにするように“縮地”などと言うファンタジー技法を取得できれば面白いのだが。強化された肉体でもそのような事はできないようだ。


 音を置き去りにできなくてもスタイリッシュにぶっ殺せばカッコいい――と思う(現在の戦闘評価:下)エクシアさんの評価は厳しいね。


 戦闘情報を解析しながら戦闘プログラムの最適化を並列思考で行っていく。疑似AIであるエクシアさんにお願いをすれば何も考えなくても最適化できるのだが、今後の戦闘の為にと自身で全て処理行動を行っている。スパルタ気質な姉御? には楽をさせてもらえないようだ。

 

 なるべくドタバタ走り回らないように効率的に頭部を飛ばしていく。軽い跳躍の着地地点を走査し次の攻撃態勢に入るのだが戦闘中二度ほどこぼれ出たゾンビの血液で足を滑らせている。


「クソッ!! コケて髪の毛にゾンビ液が付いちまった! シミュレーションとリアリティじゃ全然ッ違うじゃないかッ!! も~っ! 俺ッ! カッコ悪い!!」


 遠隔武器等開発していないので単純な近接戦闘しか行えていない。基礎的に内臓された兵器である縮退炉を使用したエネルギー攻撃を行えば恐らく都市が崩壊するとシミュレート結果に出ている。コツコツと対人用の兵器を設計して開発するしかないようだ。


 ゾンビの血液を浴びたりしてはいるが生体反応をシミュレートしているだけの機巧化した肉体には生半可なゾンビウイルスなど効きやしない。不愉快ではあるが浴びた血液や肉片などを取り込み体内でゾンビウイルスの解析を行っている最中だ。


 いらだちまぎれにゾンビの顔面を刃を突き込む。抜くと同時に振り返ると背後から襲い掛かって来るゾンビの胴体を強力な膂力で強引に真っ二つにする。軽くしゃがむと跳躍し頭部を地面に向ける。ゾンビの真上に滞空し、すれ違いざまに頭部を縦に切り裂いた。


 数分程行われた戦闘行動により近接戦闘プログラムは最適化され周囲にはゾンビの残骸が散らばっている。ゾンビを解析しある程度判明した事実は敵性体と認識された者に対して強い攻撃性を発揮し、環境に合わせて自己を変異し進化していくという兵器の側面を持っているウイルスであることが事が分かった。


 つまり戦争、侵略する為に開発されたウイルス兵器の可能性が高い。脳内にある知識を戦争、侵略で検索すると似たような兵器が開発され滅亡した文明も多々あるようだ。


 ひとまず目につくゾンビの殲滅すると思考を通常モードに移行させ病院の敷地内を生命探知する。


「ある程度の人間が避難に成功しているな。これだけゾンビをぶっ殺せば逃げやすくはなるだろ。報酬代わりとして金属資源は貰って行くね」


 駐車してある車両に触れると分解、吸収していく。UIに表示される各資源のメーターが上昇していく様はとても気持ちがいい。土や石ころ、ゾンビも有機的な資源へと変換できるが専門的な装置を開発しなければ有効利用する事はできない――らしい。


 今の表示されている資源メーター大雑把な分類訳で(超文明的には)さっさと技術ツリーを解放しろ。とのこと。個性の無い状態の疑似AIであったエクシアさんには強気で接していたのだがすでに頭が上がらない姉御的な存在と化している。「エクシア」と敬語を使わなかった時には俺の顔を雑コラしたエロイラストが全世界に頒布されそうだ。


「――次ね。はいはいわかったわか――はい。すみません。ごめんなさい。迅速に行動します」


 視界に表示されているUIに俺×俺の同人誌の表紙が表示された瞬間、俺の人権はエクシア様に握られたも同然であった。誰得なおっさんの俺の顔で同人誌を作成するならもっとイケメンにして欲しかったな……。

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