ファーストフェイズ
第2話犯罪者じゃ……ないですよッ!?
『よきにはからえ』
人類の言語のやり取りでは得られない膨大な知識や目的が雑に脳内へ叩きつけられていく。
――人類をテキトーに存続してテキトーに発展させといて。
混乱する思考。自身の身体が作り変えられていき思考がクリアになっていくと共に情報が精査されていった。
クリアになった思考で自己のパラメータを脳内の表示する。
背後からの衝撃で心臓部損壊。多臓器不全。即死。疑似臓器生成。疑似神経回路生成。思考エミュレート。精神ブランク保全。魂の存在証明。自己同一性の確保。連続性の証明。――ERROR。金属生命体規格のDNAマップ不適合。一部変質処理。DNA解析。有機物生命体と判明。心臓部に縮退炉を生成。時空振の閾値を突破――緊急封印措置。縮退炉の生成により軽度な次元断裂が発生。要経過観察。
『おいッ!! 俺の扱い雑ゥ!! 人の心臓に何作ってんだよ!! てか、俺死んでんじゃんッ! でも、生きてんじゃん! あッー!! 雑に弄らないで俺の身体ッ!!』
どうやらボロアパートの自室でパソコンでエロ小説を書いている最中に隕石が俺の身体にダイレクトアタックしたようだ。そして見事に即死。機巧の神とやらに人類の存続と発展を使命として与えられたようだ。
思考内の疑似空間に自身の身体の3Dマップが表示されておりやりたい放題に弄られている最中だ。せめてお〇んぽ様はもう少し……大きく……え? 諦めろって? マジカルッ! マジカルチ〇ポにしてよ!! ――無理かぁ……。
どこかの文明のDNAマップと自身の身体が異なっており生体部分と機巧部分ぐっちゃぐっちゃに。両腕が機械仕掛けの腕として設定されてしまった。――まあ、人工皮膚とやらを製造すれば何とかなるらしいが……。カッコいいしそのままでもいいかもしれない。
身体能力はいわゆる『そのとき不思議な事が起こった』のごとく、人造人間のようなパワーアップをしてしまっている。
テンテンテテテン~!
人体改造がようやく終了し気の抜けるようなメロディが流れると目を覚める。
自室の天井には穴が開いており恐らくそこから隕石が落下してきたのだろう。天文学的確率で機巧の神のぶっ殺されたようだ。よっこいせと身体を起こすと周囲を見渡した。
「うわぁ……殺人現場ヨロシクな出血量にモザイク必須な肉片が……片付けるの大変だけど殺人を隠蔽するみたいでなんかイヤ~な感じ……」
血と肉片と天井の残骸が散らばっている室内。片づけを後回しにして身体の確認の為、浴室へ向かう。血液が大量に付着した服を脱ぎ捨て風呂場のシャワーのハンドルを回した。暖かくなったシャワーのお湯を浴びながら高速化した思考でうだうだと現状の確認を行っていく。
ユニットバス内の鏡で自身の顔を確認する。――人体改造でイケメンになっていたら……と淡い希望を抱くもいつも通りの冴えない顔。奥二重で印象に残りにくい幸が薄い良く言われているようだ。
背も低くもなく高くもない。せめてものサービスなのたるんだ腹だけがスッキリとしていたのは幸いか?
「はぁ……人類以外の文明に美醜に判断何てできるわけ……ないかぁ……」
冴えないおっさん三十六歳。童貞。うだつの上がらない派遣社員歴十年。いてもいなくてもどっちでもいい人と陰で囁かれ。休日はもっぱらエロ小説をシコシコと書いている。最近ハマっているソシャゲは美少女ロボットもの。
特売で買い置きしているボティソープのヘッドをしゅこしゅこ押して身体を洗っていく。身体を包む泡を洗い流していくと血液交じりのお湯が排水溝付近でぐるぐると渦を巻き流れて行った。
機巧と化した両腕はお湯の暖かみを感じることが出来ず少々寂しさを覚えた。そういう機能を増設。設定すれば問題ないようだが人外と化した事に内心複雑な想いを抱いた。
「童貞を卒業する前に人間を卒業しちまったよ……」
頭部に暖かいシャワーお湯を当てながら指を揃えた掌を眼前へと持って来る。意思一つで指先から工具のような物が出て来たり触手のようなケーブルが蠢いている。
ギチリと握りこぶしを作ると両腕の拳同士を打ち合わせるとガキンと金属音が発生した。風呂上がりにバスタオルで身体を雑に拭き取り部屋に戻る。
「忘れてた……」
あんまりにもあんまりな室内に絶望するも脳内にある疑似AIが簡易な解決方法を数種類提示してきた。
「――機巧腕による物質収集? へー。重力場による疑似空間の生成による保管庫……ね。よくわからないけど頼むわ」
疑似AIによる指示で機巧の掌を床に添えるとドロリと液体金属化した物質が周囲の血痕や肉片、残骸を吸収していった。そして、天井の穴に手を向けると構造解析し吸収した物質を元にして天井の修復を開始した。
所謂、空間上に3Dプリンターのように物質の生成を行っている様である。信じられない程の高性能な超未来SFに興奮するもこの腕で仕事を行うには問題があった。
「この腕人工皮膚やら光学迷彩だので何とかなんないの? えっ? アイデンティティ? ――あほか」
どうやら
なんとか疑似AIと交渉の末、皮のグローブ(カッチョイイ奴)の装着ならオッケーだそうな。その代わりAIさん(エクシアさんと命名)が俺の部屋の素材を勝手に吸収しデザインした厨二臭い鎖付きの皮のグローブを装着させられる羽目に。
おかげでウチの家具の一部が削り取られてしまった。質が悪い分量で何とか補ったとのこと。ソファーや椅子の皮の部分や金属のラックが数個程素材となってしまったようだ。
部屋の片づけやグローブの生成も終了し寝ようとしていたところ警察官が不審な爆発音が発生したとの通報でアパートに聞き込みに来た。ウチの家のインターホンは壊れて居たため木製のドアがドンドコ叩かれ玄関ドアを開け話を事情聴取が行われた。
「夜分遅くすみません。警察です。お宅のアパートから爆発音が聞こえたの通報があったのですが避難は行われていないのですか? それと――何か知りません……か?」
しまった。即座に周囲の情報を取得すると先程修復した天井以外はそのままでありアパートの屋根部分が大きく損傷し瓦礫が周囲の道路に散乱。アパートの住民は避難していたようだ。ジロリと不審な目で警察官に部屋をのぞき込まれる。
他のアパートの部屋は天井が崩れて居たり衝撃により家具が散乱しているのにも関わらず俺の部屋は小奇麗にしている。特にマズイのが――血の匂いがしているのだ。
先程まで人間の内臓や血液が大量に飛散していたのだ。家畜の屠殺場のような異常な空気感が部屋には漂っている。どうやら立て続けに発生していた異常現象に俺の感覚がマヒしていたようだ。
「え、ええ。なにかあった――ようですね」
ドアから顔を出し周囲を確認すると消防車や救急車。警察車両が道路にひしめいていた。隕石という名の機巧の神の物質は周囲に多大な被害を及ぼしていたようだ。――マズイ。超マズイ。俺、殺人犯じゃないのにめっちゃ疑われているやん。部屋を調べられたらルミノール反応でビッカビッカに光っちゃう……。恨めしいぞ俺の血液。排水溝に大量に血液に肉片が含まれているやん。ひぃやぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!
だらだらと冷や汗を流す。しかも、黒のカッチョイイグローブを装着しているのもタイミングが悪い。狭いアパートの廊下にはカタギに見えない刑事さんっぽい人たちからめっちゃ睨まれている。――これが
そーっと木製のドアを閉めようとするとガッと足を挟まれ閉じるのを防がれてしまった。有無を言わせぬ緊急避難と言う名の連行を半強制されてしまう。
「ちょっと着替えるので数分待ってくれません? ドアを開けたままなら――ここから避難しませんけど? ――態度の悪い怖い人達に見られたまま着替える性癖は在りませんので」
ちょっと避難しろや。と言う名の恫喝にイラッとしていたので鼻で笑いながら挑発する。数分ならと……現場の保全を目論んでいようが俺には通用しない。高速でエクシアに部屋に存在する物質を分解吸収し再構築させる。特に悲しい気持ちになったのが浴槽の排水溝に液体金属をドロドロと流し込んだ時だ。仮にも自身の肉体の延長線上にある為鳥肌が立ちっぱなしであった。
――これで証拠隠滅は完璧やでッ!!
いや、犯罪は行っていないんだけどね? 案の定俺が部屋から出た瞬間からドカドカと手足に防護服を着た鑑識官っぽい人たちが入っていった。残念。ルミノール反応は出ませんよ。ひょーほほほほ。
ボロアパートに残っていた最後の人物が俺一人だったので周囲から凄い注目をされる。爆発イコール隕石だとはまだ判明しておらず爆発物を所持している犯人をみるような目で見られている。テレビリポーターも「謎の爆発音が発生しており最後まで残っていた怪しい人物が出てきましたッ! 中年の男性の様です」と犯人扱いをしている。
「署に同行して頂けますかな?」
「え? 避難ですよね? 行きませんよもちろん」
明らかに犯人扱いをしてくる警察官と周囲の人間達に俺の怒りパラメーターは限界突破しているのだ。持ち出したボストンバックに仕舞っているお湯を保存している水筒にコーヒーカップを取り出す。キャンプ用の携帯チェアを道路に設置すると優雅にインスタント珈琲を入れ始めた。
周囲の人間があからさまに怪しい犯人だと認識している為に警察官が俺の肩を掴み無理やり連行しようとするも人外と化した身体をピクリとも動かすことはできないようだ。
「あの~“これ”どういうことですか? 避難と聞いて外に出てきたのですが……警察の肩に暴力を振るわれるという事は正当防衛をおこなっても……いいんですよね?」
撮影しているテレビカメラに向かって笑顔で肩を掴まれ強引に連れていこうとする警察官の事をアピールするも。
「そんなことが許されるわけないだろうッ! いいから来いっ!」
腕を掴まれるも動かない。だが、飲んでいた珈琲カップが落下して足元に掛かった。暖かくは感じるが普通の人間では火傷を負う温度だろう。
「――あつッ!! おい。いい加減にしろよクソ警察共。令状もなしに連行できると思うなよ」
さすがに無抵抗の容疑者候補に全国ネットのテレビに放映されるのは不味いと判断されたのだろう。警察官達は憎々し気な視線のまま救急隊員を呼び、急いで火傷の処置に移る。
履いていた綿のパンツを物陰で着替え救急隊に渡された冷却材で太ももを抑える。警察官や刑事っぽい人間とは違って救急隊の人たちは意外と優しかったのでほっこりしてしまう。
さっさと証拠を見つけたいのだろうが爆発音の元となった不思議物質や人間の血痕や肉片は見つからないだろう。待てども出てこない鑑識の結果に警察官が苛立っている。小一時間経った頃には「あの人関係ないのに警察に疑われていたんじゃい?」という同情的な視線になってくる。
責任者っぽい刑事に挑発的に声をかける。
「あなた達に暴行を受けたのでキチンと警察署の署長か責任者の謝罪と、駄目になった衣服の料金を支払って下さいね? それと――――ざまぁ~」
距離を置かれて監視されていた警察官に向かってテレビカメラに映るように挑発する。舌を出して鼻に指を突っ込んで最高に馬鹿にした。すると右頬に強烈なパンチが飛んできたので触れる寸前で後方に飛び。自身の後頭部でパトカーの窓ガラスを粉砕する。鼻と口から体内から生成した血液を盛大に拭く出してやり気絶した振りをした。――ちょっと盛大に出しすぎて血液が足りない……。
「なっ! 取り押さえろッ!!」
「――ち、違うッ! 俺は殴っていない!」
うまく挑発に乗ってしまった刑事は全国区のニュースに暴行の瞬間が撮影されており言い逃れが出来ない状況になってしまった。すぐさま同僚に手錠を掛けられるとパトカーで連行されていった。
大量出血している為、救急隊員がすぐさま応急処置を施し病院へ搬送される。意識をすぐさま取り戻した振りをするもメカメカしい両腕を見られてしまい色々と検査を行わせてもらいたいと懇願されてしまう。――答えはNOだがな。
検査入院という名目でモチロンタダですよね? と念入りに確認して個室の部屋のベットに寝転がる。
天井をぼんやりと眺めながら今後の生活を憂いてしまう。
「はぁ……どうしよ」
悩んでいる時には疑似AIであるエクシアさんも知らんぷりのようだ。もっと俺に優しくしても良いと思うんだが……。
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