ゾンビが溢れる世界になりました~おっさんは存分に趣味を堪能します~
世も末
第1話終末世界ってドキドキしないか?
「ら~しゃ~せ~」
行き交う住民へ覇気のない声で適当に客引きを行う草臥れたおっさん。そこらへんから拾ってきたボロのテーブルの上に缶詰を適当に並べ、商売を営んでいるようだ。
無精ひげを生やし乾燥した地域の為埃避けの古びたマントを首に巻いていた。身体を覆うマントはおっさんの人相と相まって怪しさを醸し出している。
きちきちきち。と中年のおっさんの身体から機械的な駆動音が響く。マントの隙間から機械仕掛け両腕がチラリと見える。
かつての花の都と呼ばれたトーキョーシティは荒れ果てており、行き交う住人に覇気はない。焼け焦げた車の残骸があちらこちらに転がり、身元すら分からない人骨が供養されないまま放置されている。
生きる事で精一杯の人間達は心が荒む。
去年の今頃、世界中でゾンビ:パンデミックが発生。世界の人口はおよそ半分以下にまで落ち込んだ。人々はそれでも団結し、戦った。辛くも防衛線を構築し立て籠もるもすぐに食糧難へと陥った。そこからは三流シナリオライターが書くような地獄が現世に出現したのだ。
奪い。犯し。――人を喰う。
食人鬼に強姦魔と犯罪者の見本市。今や小さな幼子でさえ刃物を携行する事が世の中の常識である。
そんな世の中でのんきに護衛も連れず一人で商売をしているおっさんは住民から狂人を見るような目で見られている。
これでも善意でおっさんは商売を行っているつもりなのだが……。
――キュラキュラキュラ
五メートル程の鋼鉄のロボットがコクピットブロックを解放したままアスファルト上を低速で走行している。脚部に装備されている小型の無限軌道は悪路の走破性を求める為に改装されたのだろう。防衛拠点内ではコクピットブロックを開閉したまま走行しなければ防衛部隊にハチの巣にされてしまう。
機巧甲冑とロボットの側面に刻印が成されており、機体名称の下部には呪文のように製造番号が打刻されていた。
おっさんが商売を行っている場所は国道に面しており道幅が広い為、機巧甲冑の移動に良く利用されているようだ。
無限軌道が砂埃を回せた後も脚部が逆関節の機体だったりミサイルポッドを複数装備している重武装タイプも見受けられる。
その行き交う機巧甲冑を操縦しているのは“美少女”のみ。中には二十代から三十代の美女も操縦しているのだがその姿をニチャリと口角を上げ嬉しそうに眺めるおっさん。
◇
時は戻る――
ゾンビ:パンデミックが広がり人類に危機が訪れ滅びに瀕している時に突如、機巧甲冑は出現した。
ソレを何とか操縦しようとも防衛部隊で戦っている男性達がロボットに夢を馳せるもウンともスンとも動かない。
満月の夜になるとなぜかゾンビ共は活性化し、死人の大群が防衛拠点へ押し寄せてきている。
移動する事も使用する事もままならない役立たずの兵器などを放置し、男性隊員達は拠点防衛戦へと移行する。
そこへ父をゾンビに喰い殺され。母を盗賊共に犯し殺され。明日を生きる事さえ困難な幼女が機巧甲冑に搭乗する。彼女の身体はボロボロでガリガリで栄養失調で今にも死に瀕していた。
んしょ、んしょ、と最後の力を振り絞り開かれたコクピットブロックにコロリと転がりこむとゴチンと固めのシートで頭を打った。
「いたぁ~いッでしゅ!! ばかちんろぼっとッ!! どこかにおいしいごはんはないないしてないでしゅか?」
シートの裏側や収納ボックスを探しても食料は存在していなかった。小さい子供ながらも「もう幼女人生も終わりでしゅね……」と残酷な人生を送り妙に達観した思考が駆け巡る。
残飯を漁り口にしたゴミのような食料を食べてからすでに三日が立っている。幼い命はもう燃え尽きようとしていた。
よっこいせ。幼女はシートに腰を掛けるとゆっくりと瞼が降りていく。
「おとうしゃん。おかあしゃん。まいこは今からそっちにいくでしゅよ……」
かさかさの唇から蚊の鳴くような声が聞こえてくると心臓が停止した――だが。
「――カハッ!」
シートから数本の針のような物が出て来ると幼女の脊髄に何かを注入していく。
幼女の身体は強制的に機巧甲冑による生命維持がなされ不足した細胞の代わりにナノマシンが注入される。脊髄の駆け巡り脳幹にナノマシンが到達すると演算装置の代わりである簡易AIが生成され機巧甲冑の操作方法が幼女の脳内に叩きこまれた。
生命の維持が最低限行われてからは幼女の痛覚が遮断されると、簡易AIに多臓器不全と判断された幼い身体はナノマシンによるDNA解析で複製された疑似臓器へと置き換わっていく。
今まで良く生きていけたと目を覆わざる得ない程幼女の身体は、様々な毒や病気に汚染されていた。終末に向かう世界なれどこれはあんまりだ。良し。張り切っちゃうぞと簡易AIは頑張った。
幼い身体の筋繊維一本一本までもが剛性と柔軟性を併せ持った
心臓部にはさまざまな物質を吸収しエネルギーへと転換する特殊な炉へと生まれ変わり機巧甲冑の動力炉ともなり得る≪賢者の炉≫となった。
身体を作り変えている最中に脳内の思考速度が高速化し簡易AIによる幼女教育が行われていた。簡易AIを製造した製作者による趣味嗜好で幼女にあまあまで過保護なAIになってしまっている。
教育とは言ったものの操縦シミュ―レートは幼女に才能があったのか特Aクラスの評価と出ていた。身体が出来上がるまで脳内で簡易AIと落ちモノゲームで遊んでいた。
生まれたての簡易AIはピコットと名付けられる。知識はたっぷりあるのに幼女と同じ幼い思考をしていたためか幼女の身体の制御をほったらかしにしていた。
――EMERGENCY
ビーッ、ビーッと加速された仮想空間内に警告が出ていた。
「ピコットしゃん、なんかビービーいってるでしゅよ?」
「ふえ? そんなはずは……ハッ!?」
機巧甲冑のパラメータを空間内にディスプレイ表示させると現実世界では幼女の身体が自動的に機巧甲冑を操作し、防衛戦の最前線で鬼神の如くゾンビ共と戦闘を繰り広げていた。ディスプレイには≪
「…………まいこさん……ゲームの続きをしませんか? きっと……造物主は怒らないハズ……ですよ?」
「ふえ? いいでしゅよ! ピコットしゃんも大変でしゅね」
ぴこぴこぴこ。ふぁいや~! ぴこぴこぴこ。さんだ~! 仮想空間内ではきゃっきゃきゃっきゃとゲームを楽しむ二人。一方、現実世界では――
「おいッ!! いったいあのロボットはなんなんだ! いきなり現れたと思ったらゾンビ共の殺戮してやがる……」
「ハッ! 今朝、都市内で発見され誰も起動する事が出来ず。兵器研究の為に回収要請を出していましたが……なぜ動いているのでしょう?」
「分からねえから聞いているんだよッ!! クソッ巻き込まれたらシャレになんねえ……前線を下げろ。負傷した隊員の救護に当たれ。運よくゾンビ共の攻勢が弱まっているんだ、利用させてもらおう。――それとあのロボットが防衛隊に攻撃を仕掛けて来る可能性だってあるんだ。警戒態勢は常に取って置け」
日本の都市にて防衛線を引いた自衛隊の部隊。銃器や兵器などの製造を行うも圧倒的に金属資源や工作機器が足りなくなっており簡素な斧や火薬を製造し防衛を行っていた。そこに五メートル程の未来SF世界に登場するような人型ロボットが現れたのだ。
あのロボットが人類の福音となるかもしれない。それと同時に制御下に置けなければ破滅の使徒にすらなりかねない、と自衛隊の上層部はそう認識していた。
ロボットのシンボルである頭部はなく全体的に正四角形のキューブ状に収まる様なフォルムになっていた。外殻に当たるパズルを解いたような鋭利な装甲でゾンビを磨り潰していく。ひし形のショルダアーマーで走行するだけで数十のゾンビがひき肉へと変わり、打撃武器や爆薬で対抗していた人類に鮮烈な勝利を幻想させた。
だが、一匹一匹念入りにゾンビを磨り潰していくロボットを見て行くうちに「はたして本当に人類の味方なのか?」と想像させるには容易かった。
そして最後のゾンビの頭を脚部で踏みつぶすとともにロボットは停止した。地面に膝を突くとパイロットブロックが開閉した。防衛部隊は観測装置で監視を続けていたのだが降りてきた人物を見て驚愕した。
「ふえ? ここはどこでしゅか? ピコットしゃーん! ピコットしゃんッ!?」
ちっちゃな魅惑ボディには身体に張り付くぴっちりスーツを纏った幼女が降りてきたのだ。そして、うぇ~んと泣き出してしまった。すぐさま偵察部隊が幼女を保護し事情を聞こうとするも「ロボットが勝手に動き出したでしゅッ!」と要領を得ない。
ロボットを回収したところおしゃれな角ばったロゴで≪機巧甲冑≫とロボットの外装に刻印がされており未知の技術により製造されていること以外何もわからなかった。
しかも、一部の自衛隊上層部が幼女を解剖し解析しようとしたところ機巧甲冑の防衛AIが起動し自衛隊の研究施設が半壊してしまった。
そして稀にだが世界各国で機巧甲冑が続々と発見されていったのだ。なぜか搭乗者は女性しかなれず、女性の身体を簡易検査したところ判明したのが機巧甲冑に搭乗した際に銀の針が女性の心臓部に打ち込まれ≪賢者の炉≫が生成される。そして、その動力炉から機巧甲冑のジェネレーター代わりになっていることが判明した。
機巧甲冑のフレームは賢者の炉が生成された女性が搭乗する事により簡易的に自己再生を行うことが判明した。機巧甲冑のフレームには拡張性が確保されており世界各国による機巧甲冑の兵装開発が過熱化した。
パイロット適正は賢者の炉の出力によって左右され光学系の兵器の出力へと直結した。
女性搭乗者は賢者の炉が生成されるとともに膂力や様々や耐性。光合成などによるエネルギー生成が得られることが判明している。より美しくより健康的になった女性上位社会へと変わりつつある。
始まりの操縦者である≪巡音マイコ≫。現在パイロットとなった女性達は賢者の炉と少々の肉体の変質でとどまっているが、巡音マイコの身体のおよそ九割以上が謎の生体金属へと変質してしまっている。
研究や開発などに協力する代わりに毎日美味しそうにあま~いケーキを食べていること以外に特に不幸そうには見えない。親族とは死別してしまっているが今が幸せの絶頂そうなのでトーキョーシティにて重要研究個体として大事に扱われているようだ。
過去、愚かな研究者の暴走により世界中の研究者たちが女性の生体の解析に慎重になったことは幸いだったのかもしれない。
――何故、機巧甲冑は女性しか乗れないのか?
――何故、美少女の方が機巧甲冑の親和性が高いのか?
まさか、缶詰を売って商売しているおっさんの趣味などと誰も知ることはないだろう。
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