第21話 溶解、スライムマンの後始末!!
「──って、ヤバいな。
両腕を生やしたら、身体に力が全然入らなくなったぞ」
五体満足へと戻った来夢だったが、フラリと、バランスを崩しかけた。
「こういう場合は、飯を食えばいいと相場が決まってるんだが……流石にコレを吸収するのはなぁ」
崩れ落ちた後、急速に干からびてしまったオーガ魔人の元巨体を見ながら、来夢はボヤいた。
(さっきは喰ってやると思ったが、いざ実際に人間を……元人間を吸収するのは、スライムマンの状態でも忌避感があるか。
まぁ、初めて人を殺したのに平気なことを考えると、忌避感があるのは寧ろ良かった気もするけどな──次に人間化した時の反動が怖いぜ)
初めて本格的な殺し合いを生き残った来夢は、人間としての精神が疲弊していることを感じていた。
「さっさと後始末をして、どっかで寝た方がいいかもしれねぇな……ん? ライチ?」
来夢がオーガ魔人の処理方法を考えようとした時、キャンプ場の中心部からポヨン、ポヨンとライチが跳ねながら移動してきた。
そして、勢いをそのままにライチは、来夢の胸元へと飛び込んだ。
「おっと、やっぱりお前さんは勝手に動くんだな。スライムさんの意思があるのか?
うお!? 魔力が吸われてる?
もしかして、魔力切れが近づくと戻ってくるのか……いや、これは〈スライムボックス〉を発動した?」
更にライチが来夢から魔力を勝手に補給しながら、半円となった転移魔法陣を発動させて、ボックスを召喚すると、今度はボックスが完全スライム化して動きだした。
「なッ!? ……いや、ライチがそうなんだから不思議じゃねぇのか?
うわぁ、凄え伸びるな。サランラップみたいになってオーガ魔人を包んじまったよ。
……ああ、なるほどね。え〜と、ライチじゃないから、ボックスのスライムで──ラクスだな。
ラクスが俺の代わりに吸収してくれるワケかよ。正直、ありがたいな。
でも、時間は掛かりそうだぜ……あ、転移させときゃいいのか!!」
〈スライムボックス〉の活用方法に気づいた来夢は、ライチを掴むと極薄になったラクスの表面に浮かんだ転移魔法陣に接触させて魔力を流し込んだ。
「うーん、やっぱりデカくて魔力抵抗があると全然転移しねぇな。
とはいえ、回復していく魔力を流し込み続ければ問題ねぇだろ」
そうして、魔力の回復速度に合わせて魔法陣へ魔力供給をし続けた結果、三十分以上の時間を掛けて転移が発動した。
「これで後は、ラクスに魔力を流して吸収させるだけでいいのか。
ライチ、助けてくれてありがとな」
懸念事項が片付いた来夢が礼を言っても、ライチは特に反応せず、肩の上でプルプルするだけだった。
「意思があるのかはよく分からねぇな。
……まぁ、どっちでもいいか。それより、次の後始末をさっさと済ませるぜ」
ライチを指先で突っつきながら呟くと、来夢は戦闘の余波によって滅茶苦茶になっているキャンプ場の中心部へと移動した。
「こいつは駄目、こいつも駄目、お? こいつには息があるな。他は……駄目か。
そういえば、スタンの威力がイノシシ狩る時より高かったかもしれねぇな。
だが、流石に一人しか生き残ってないとは思わなかったぜ。
──さて、どうするべきだ?」
中心部に戻った来夢は、まず三人の女達に負傷がないことを確認してから、気絶して眠っている状態のまま、テントの一つに運び入れた。
それから襲い掛かってきた男達の状況を確かめていくと、〈ライトニングスタン〉によってほぼ全滅しており、一人だけ辛うじて瀕死に留まっているだけであった。
(こいつらの死体を吸収しちまうのは、もう仕方ねぇとして、ヴォイドとかいう組織の情報が知りたいんだよな。
とはいえ、この瀕死になったヤツも火傷が酷いし、長くは保たなそうだ。
……こいつを治療する? どうやって? スライムで治療? ──人間化?
スライムからの人間化で完全に身体と同化させれば治る、のか?
……何となく、いけそうな気がするぜ。
というか、失敗しても心が痛まねぇし、実験だと思ってやれるだけやってみるか)
「まずは、死体の方で試せばいいよな。
うーん? 癒やせ、〈スライムヒール〉」
来夢から分離したスライムの身体が、死体の一つに溶け込んでいくと、みるみる内に肉体の損壊が修復されていった。
「おぉッ!? 本当に治るのかよ!? スライム万能すぎじゃねぇか?
ただ、この状態だと……なるほど、やっぱり一回でも他の身体に融合したスライムは、操作することができねぇのか。
当然、死んだヤツがスライムに乗っ取られて蘇ったりもしねぇな。
それと身体の脱力感が増したぜ。
だが、治療は上手くいきそうだな。死体の処理はライチに任せてもいいか?
俺はこいつを少しだけ治してから、尋問してみるぜ」
来夢の肩に乗っていたライチが跳び上がると、死体を次々に呑み込んで吸収していく。
「ありがてぇ。そんじゃ、こいつには〈スライムプチヒール〉ってな」
来夢の身体から少しだけスライムが分離して、瀕死の男を癒していく。
「う、あ、お……俺は、助かるのか?」
「それはお前次第だぜ? 今のところは始末するつもりだな」
「ゆ、許して……」
「なら、色々と教えてくれよ」
そう言って、来夢は瀕死の男から、できるだけ多くの情報を聞きだそうとした。
だが、男達が所属していた犯罪グループについての情報は手に入ったが、魔王軍やヴォイドについては何も分からなかった。
「ちッ、オーガ魔人の野郎だけが、詳しい情報を持ってたのかよ。
幹部候補ね……こいつらは甘い汁に集っただけのクソ外道だな。
女を魔薬で淫魔に変えて売るのが仕事だったとか、モンスターよりもイカれてるぜ」
満足するほどの情報を得られなかった来夢だったが、男達のグループが行なっている尋常ではない悪業に、スライムマンの状態でも吐き気を感じるのだった。
それから、来夢は瀕死の男をライチに生きたまま呑ませると、キャンプ場に残されていた食料を手当たり次第に吸収していった。
「微妙だな。身体が強くなるほど、必要な飯の量が増えるのか?
いや、魔力があるモノじゃなければ、足しにならないってことかもな……。
取り敢えず、車は確保するとして、金目のモノや俺が着れる服以外はいらねぇぜ。
クソ共が居た証拠は、全部ライチに吸収させちまおう」
そうして、財布から抜いた現金やフリーサイズのジャージ、コンビニ袋に入っていた新品の下着と日用品、それらを入れるリュックサックなどを残して、キャンプ場にあった男達の痕跡は、大半がライチに溶かされて消滅してしまった。
「おぉ……スライムって、壊れた車も平気で吸収しちまうんだなぁ。
ちょっと金属系は吸収に必要な魔力消費が多めだったが、あの程度で済むなら誤差でしかねぇぜ」
大きなモノで残されたのは、女達が寝ているテントが一つと壊れていないワゴン車だけである。
「さて、スッキリ掃除が終わったからには、あの娘さん達をどうにかしねぇとな……。
あのクズは『淫魔化したら治せねぇ』とか言ってやがったが、流石にこのまま放置するワケにもいかねぇぜ」
そう呟いた来夢は、収集品を入れたリュックサックを担ごうとして、ジャージへ着替えるのを忘れていることに気づいた。
「おっと、このままだとワイルド過ぎるかもしれねぇな。
それに顔の上半分をゴブリン化した変装も解いちまっていいだろう」
来夢の顔に張り付いたような木の質感をしたゴブリンの仮面──〈スキンペイント〉と【トランスフォーム】による変装が、一瞬だけスライム化して消えていく。
元の顔に戻った来夢は、かなりパツパツになりながらも下着とジャージを着ると、靴がないことに少し落ち込んでから、女達が眠るテントに向けて歩きだした。
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