第20話 雷撃、スライムマンvs暴走オーガ魔人
『フンッ!!』
ドグシャッ!!
三メートル近くまで歪に巨大化して、刺々しい全身鎧のようなシルエットとなったオーガ魔人は、身体の変化が完了すると、棘付き棍棒のようになった巨腕で、傍らのワゴン車を叩き潰した。
『アァ、チカラガミナギル!!
コワスノ、キモチイイ!!』
圧倒的なチカラを確認して喜悦を溢すオーガ魔人の言葉は、既に日本語か怪しくなっていたが、魔力を伴った思念が込められており、来夢にも理解できた。
(何を言ってるか殆ど聴き取れねぇのに、意味が伝わってきやがる。
……ゴブリンやカイゾーンが使っていた言葉に似ているな。
モンスター言語? いや、魔力で伝える言葉だから、魔言語ってトコロか。
俺が魔言語を理解できるのは、多分、ゴブリンを吸収した時に、【スキルコピー】してたんだろうな。
まぁ、それはいい。今はこのデカブツとやり合う方法を考えねぇと……正直、まともに勝てる気がしねぇぞ)
オーガ魔人が完全なモンスターの身体になったことで、〈ライトニングスタン〉が通用した人間の部分は見当たらない。
来夢は有効な攻撃手段が失われたことに気づいていた。
「リーチで負けてるなら、懐に入るしかねぇよな──歪んだ身体じゃ、小回りは利かねぇだろッ!!」
バチバチ!
雷光を纏って一気に距離を詰めた来夢は、オーガ魔人の側面へ回り込みながら、巨大化した足へ連撃を叩き込んでいく。
ドドドドド!!
「くッ!? 硬すぎるだろ!?」
『ン? ハハハ、ナニカシタカイ?』
しかし、オーガ魔人は、来夢の攻撃に一切揺らがず、ただ巨腕を振り回した。
ブォン!
凄まじい速度で迫る刺々しい腕を、来夢はギリギリで避ける。
その攻撃速度は巨大化によって数段速くなっていたが、歪な鎧のようになった身体の弊害で、動きの精彩を欠いていた。
(紙一重だが、避けられるな。
とはいえ、全く攻撃が効かねぇから、このままじゃジリ貧だぞ)
必死に避けながら、来夢は連撃を繰り返していくが、纏っている雷光を含めて、全く効果がない。
それどころか、少しずつ巨大化に慣れてきたオーガ魔人の攻撃が掠ることで、来夢の身体を削り始めていた。
ゾリッ……。
オーガ魔人の巨腕から伸びた棘が、来夢の左肩を大きく抉る。
即座に抉られた部分をスライム化したことで、肩の傷口から血は流れていないが、回避の限界が近いことは明白だった。
『アハ! アタッタネ!!
デモ、アンマリ、キモチヨクナイナア?
ハヤク、ペチャンコニ、ナリナヨォ!!』
オーガ魔人が叫びながら、我武者羅に放った攻撃を、来夢はキャンプ場の中心部から離れるように大きく避ける。
そして、避けられたことに気づかず、何度も地面を殴り続けるオーガ魔人の姿に、苦笑しながら呟いた。
「おいおい、あの腕でぺちゃんこにされたら、スライムでも死んじまいそうだな」
巨大化した影響なのか、段々と理性を失い始めているオーガ魔人を観察しつつ、来夢は打開策を考える。
(掠っただけで、ごっそりやられたぜ。
やっぱり魔力を纏った攻撃をくらうと、スライム化しても意味ねぇな。
敗色濃厚か……アイツもなんか暴走気味だし、このまま逃げたくなってきたぞ。
せめて、俺の攻撃が通じればなぁ……。
いや、そもそも、何で通じないんだ?
──もしかして、あの身体から噴き出してる魔力が、バリアになってるのか?
つまり、強い魔力抵抗が、〈スライムライトニング〉の雷を弾いている?
……だとすると、魔力を込めた攻撃なら効くかもしれねぇな)
漸く来夢を見つけたオーガ魔人が、怒り狂って叫びながら、突進してくる。
『ソコカアッ!! イイカゲンニ、ツブレロオォォ!!』
そんな状況でも、恐怖を感じないスライムの特性が、来夢に冷静な思考を継続させる。
(攻撃する際に、スライム化すれば魔力を流せるか?
いや、ただ魔力を流しても勝てねぇよな。
〈スライムライトニング〉の雷に魔力を混ぜれば……いけるか?
今までは、魔力を自然のエネルギーである雷に変えるだけだった。だが、変換した雷へ魔力を更に上乗せすれば!!)
バヂィィィ!!
来夢の身体から、魔力圧を伴った紫電が放出される。
「いけそうだ──或いは、元からこれが正しい発動方法だったのかもな。
改めて、雷速でいくぜ!! 〈スライムライトニング〉!!」
バリバリ!!
紫電の雷光が迸り、迫り来るオーガ魔人を迎え撃つ。
『バカガ!! ソンナモノ、ボクニハキカナイ──ガァッ!?』
バヂィィィ!!
オーガ魔人の魔力抵抗を越えて、鬼の身体へと紫電が僅かに届き、痺れによる反射が行動を阻害する。
その一瞬の停滞が、来夢に反撃を躱わす値千金の余裕を齎らす。
「いいのかい? オーガの魔人さんよぉ、さっきの繰り返しだぜ!!」
バチバチと紫電を閃かせながら、来夢のヒットアンドアウェイが繰り返される。
それは先程の戦闘を焼き回しだようにも見えたが、決定的に違う部分があった。
『ナメルナアァッ!!』
ドゴォ!!
それはオーガ魔人の理性である。
必要なら卑怯な手段を平気で選択できる犯罪者としての思考力と、モンスターの圧倒的暴力の両立という、魔人であることの強みが失われていた。
『ガアアアアアアアアアアアッッ!!』
バヂィィィ!!
決して侮ることなく、延々と繰り返される来夢の連撃によって、オーガ魔人の理性は砕かれ、無理矢理引き出された魔力を込められた巨腕が、無意味に地面を耕していく。
『アアァァ……アッ──』
そして、限界は訪れた。
オーガ魔人を覆っていた魔力が激減し、真っ赤な鬼の肌が急速に色褪せていった。
「何だッ!? いや、コレはチャンスだ!!
一気に畳み掛ける!!」
オーガ魔人の変貌に驚く来夢だったが、好機を逃さず、全力攻撃を繰り出した。
ドドドドドッ!! バヂィィィ!!
『ガッ!? アァ、カワ……ク』
幽鬼のようにやつれ始めたオーガ魔人が、呻くように呟いた。
「タフだな……この赤い鎧みたいな身体は、魔力抵抗が無くても硬すぎるぜ。
それに消耗も多すぎて、倒し切るには魔力が足りねぇな」
うんざりした顔で、来夢が僅かに気を緩めた瞬間、
『ヨコセ……。ボクニ……。
オマエノ、チカラヲ、ボクニヨコセエエエエエエッッ!!!!』
いきなり動き出したオーガ魔人が、攻撃を放って隙ができた来夢へと、大口を開けて噛みついた。
「しまった!? この鬼ヤロウ!!」
バヂィィィ!!
反撃の蹴りを顔面に当てた勢いで距離を取った来夢は、己の左肩を見る。
そこにあるべき左腕は、付け根から失われていた。
『アアァァ!? ミ、ミタサレル……』
どこか恍惚とした表情で動きを止めたオーガ魔人の肌が、赤みを増しながら、少しずつ鮮やかになっていく。
その様子を見た来夢は、右腕を引いて低く構えた。
その右腕に紫電の輝きが集中し始める。
バリバリ、バヂィィィ!!
「フゥ……落ち着け。絶対絶命のピンチだからこそ、発想の転換が必要だぜ。
俺は雷を魔力に、魔力を身体に変えて、スライムから復活した筈だ。
なら、逆に身体を魔力に、魔力を雷に変えることだってできるよな?
そうだ。今が最大のチャンスなんだ。
──アイツは俺を喰った。だったら、俺もアイツを喰ってやる。
【トランスフォーム】だ! 俺の両腕は必殺技に変化する!!」
紫電の残像を置き去りにして、超高速の雷撃が繰り出される。
ヂヂヂヂヂッ!! バヂィィィ!!
「轟け!! 〈オーバーライトニングサンダーボルト〉!!」
ズガァァァンッッ!!!!
『ガッ!? ゴガァァァァッ!?』
ソレは、横方向に落ちた雷だった。
オーガ魔人の腹部に突き刺さった来夢の右拳から、膨大な紫電が放出される。
「おおおぉぉッ!! サンダーッ!!」
更に、来夢が右腕のチカラを全て開放しながら叫ぶと、オーガ魔人の内部からも、縦方向に紫電が迸った。
バリバリバリ!! ズシャァァァァン!!
『ガ……ァ……』
ドシィン……。
十字の雷撃に内外を蹂躙されたオーガ魔人の巨体が、仰向けに崩れ落ちる。
「ハァ、ハァ、何とか勝てたぜ。
流石にここまで消耗すると、スライムマンでも疲れるんだな」
そう呟いた来夢だったが、その両腕は失われている。
右腕だけでなく、オーガ魔人に喰われた左腕を含めて、全てを雷撃化して放ったのだ。
とはいえ、その顔に両腕を失った悲壮感は欠片もなく、落ち着いた様子で、戦闘終了を確認した来夢は、スライムマンの基本能力を発動するのだった。
「【トランスフォーム】」
ニュル、ニュルリ。
と、スライム化した両腕の肩口から、複数本の半透明な触手が伸びていき、絡み合いながら太さを増していく。
そして、欠損前と変わらない両腕の太さになると、編まれた綱のような表面が、人間と同じ肌に変化することで、腕としてのカタチを成した。
「……よし! 欠損修復完了だぜ!!」
そうして、来夢はあっという間にスライムマンとしてのカタチを取り戻したのである。
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