第19話 雷速、スライムマンvsオーガ魔人!!
「へえ、僕の攻撃をくらったのに、無傷なのかイ?
そんなイカれた格好をしているだけはあるネ……なかなか丈夫じゃないカ」
キャンプ場の端まで歩いて来たオーガ魔人は、己が蹴り飛ばした来夢の様子を見て、驚きの声をあげた。
その言葉に対して、来夢は肩を竦めながら、正直に答えた。
「いや、危なかったぜ。
お前さん、ゴブリンよりも強えんだなぁ」
「ゴブリン? アァ、あの魔薬に適性がないヤツがなるっていう醜い雑魚カ……アレと比べられるのは、不愉快だヨ」
「俺が言うのも何だが、お前さん口が軽すぎるんじゃねぇか?」
「いいんだヨ。グループも、ヴォイドも、秘密主義だからネ。
偶には暴露したい気分にもなるんダ。
逃がさなきゃどうとでもなるシ、その格好じゃ盗聴もクソもないだロ?」
「俺に負けると思わねぇのかよ?」
「運が悪かったと言わなかったかイ?
僕が使った魔薬は、ヴォイドから与えられた新型でネ。前に使っていた魔薬よりも、ずっと馴染むんダ。
ちょっと暴力的な気分になるけどネ。
幾らでもチカラが湧いてくるのニ、負けるなんて有り得ないヨ」
「そうか──よッ!!」
ズドンッ!
雷光を迸らせながら、急加速して踏み込んだ来夢の正拳突きが、オーガ魔人の腹部へ突き刺さる。
ズザザッ……。
と、数メートルも地面を擦りながら後退したオーガ魔人だったが、勢いが止まると、顔を上げて平然とした様子で告げた。
「フフ、やっぱり全然効かないナ。
雷の魔法は速いだけデ、大した威力はないんだネ。
じゃあ、次は僕の番だヨッ!!」
ゴウッ!
急接近したオーガ魔人の剛腕が振り抜かれるが、来夢は大柄な身体を機敏に動かして避けた。
「ムッ!?」
「悪いが、お前さんの番はナシだぜ」
ドドッ!
来夢がオーガ魔人の隙を突いて、拳の二連撃を放つ。
「効かないヨッ!!」
オーガ魔人は僅かに体勢を崩しただけで、再び来夢に反撃する。
「みたいだな。だが、繰り返せばどうだ?」
バリバリ!
来夢の身体を巡る雷光が、輝きを増す。
オーガ魔人の反撃も避けた来夢は、そのまま〈スライムライトニング〉で身体強化をしながら、ヒットアンドアウェイの要領で、瞬間的な加速を繰り返して攻撃し続ける。
「オラオラオラァ!!」
バチバチ!!
「無駄なことヲ! デカい癖にウロチョロと、鬱陶しいんだヨ!!」
すると、来夢の攻撃が纏う雷によって、オーガ魔人の服装が焦げ付き、破れていく。
そして、来夢の連続攻撃が、魔紋によって変化していない人間の肌が露出している部分へ当たった時、オーガ魔人から苦悶の声が漏れた。
「グゥッ!? ウガアッ!!」
オーガ魔人の蹴りを大きく躱した来夢は、目敏く弱点を見抜く。
「おおっと!? 効いたじゃねぇか!!
見た目通り、全身が頑丈ってワケじゃねぇんだな。
なら、狙わせて貰うぜ!!」
「させるカッ!!」
バチッ! バチバチ!!
来夢は大振りすることなく、オーガ魔人の攻撃を掻い潜りながら、弱点部分である人肌を、〈ライトニングスタン〉で触れるように突いていく。
「グッ、ガァッ!?」
堪らず、オーガ魔人が飛び退いたことで、来夢との距離が開いた。
「うーん。有効打ではありそうだが、このまま倒せるって感じはしねぇなぁ」
「ハァ、ハァ……あ、当たり前だヨ。自力は僕の方が上なんだからネ」
「かもな……だが、時間を稼ぐことはできそうだぜ。
どうせ、その魔人化とやらには時間制限があるんだろ?」
「ッ!? ……知っていたのかイ?」
「いや、知らねぇよ。だが、薬によるパワーアップのお約束だからな」
「ハハハ、お約束カ。確かにそうだネ。
まぁ、個人差が激しいから、切れるタイミングは分からないけド──激しく戦うほど効果が切れやすいそうだヨ」
「おいおい、負けそうなのに、まだサービスしてくれるのか?」
「追い詰められた悪党が、ペラペラ話すのもお約束だロ?
だからって、少しも負けるつもりはないけどネッ!!」
そう言ったオーガ魔人は、唐突に来夢へ背を向けると、全力でキャンプ場の中心部に向かって走りだした。
「なッ!? まさか!?」
突然の逃亡に一瞬呆けた来夢が、オーガ魔人を追いかける。
しかし、それほど広くないキャンプ場では、〈スライムライトニング〉による高速移動で追いつくよりも早く、オーガ魔人は目的の場所へ辿り着いてしまった。
「ホラホラ、コレも悪党のお約束ダ!!」
気を失って倒れている三人の女達を盾にする位置へ移動したオーガ魔人が、追いかけてくる来夢へ向けて、嗜虐的に笑う。
「ハハハ! スライムマン、貴方が正義の味方じゃないなら、見捨ててみなヨ!!
ホラ、受け止めないと死んじゃうゾ!!」
オーガ魔人が、女達に向かって剛腕を思い切り振りかぶる。
それは高速で攻撃を避け続ける来夢への対抗手段だった。
『攻撃を避けられるなら、避けられない攻撃をすればいい』という極めてシンプル且つ凶悪な発想によって放たれる、回避不可能な一撃である。
「させるかよ!!」
来夢がオーガ魔人を追いかけていた勢いのまま、攻撃の軌道に突っ込んでいく。
正義がどうこうという考えとは別の、反射的な行動だった。
だからこそ──オーガ魔人の攻撃を防がなければならないと、来夢の全意識が集中したからこそ、ソレは動いた。
ポヨン!
「なニッ!?」
薄紫色の不定形物体──ライチが、女達の影から飛び出して、オーガ魔人の視界を覆ったのだ。
「邪魔だヨ!!」
顔に張り付こうとしたライチを、オーガ魔人は瞬時に弾き飛ばす。
それは驚愕しても硬直することがない、戦士として優れた反応だった。
しかし、ライチへの対処によって、オーガ魔人は、致命的に一手遅らされてしまった。
「ナイスだ!! ライチィィィ!!
うおらあああああッ!!!!」
「しま──グハァッ!?」
グオシャアッ!! ドガァン!!
大型トラックが激突したような轟音と共に、顔面を殴られたオーガ魔人が、キャンプ場に乗り入れられていたワゴン車の一つを巻き込んで、盛大に吹っ飛んでいった。
「フゥ、今のは危なかったぜ。
……何故か咄嗟に助けちまったよ。
──まぁ、いいか。力及ばず死んじまったなら然程気にしねぇが、平気で見殺しにするのは違うからな。
臆病でダサい男なんざ、モンスター以下の汚物だぜ」
チラリと気を失っている女達を確認した後、キャンプ場に侵入する際に山林の中へ置いてきた筈のライチを見て、来夢は内心で首を傾げた。
(結構自由に動かせるのは分かってたが、勝手についてきたのか?
あ、いや、肉食ってる時に、キャンプ用品をボックスで回収したいって考えてたわ。
その後も、あの娘達を確保することを意識してたから、俺の思考にライチが反応した可能性は高いぜ。
てことは、アイツに飛び掛かったのも、同じ理由っぽいな)
ライチの行動にある程度納得した来夢は、女達を背にしながら、オーガ魔人が飛ばされた場所へと歩きだした。
ドガッ! ガシャンッ!
すると、オーガ魔人と一緒に吹っ飛ばされたワゴン車の背部ドアが、内側から殴り壊された。
中から現れたオーガ魔人は、来夢にギラギラと殺気が込められた視線を向ける。
「何だい、さっきのハ? イヤ、一杯食わされたのは分かってるんダ。
アァ、ムカついてきタ! このまま時間切れなんて、絶対に認められないヨ!!」
「そうか? 俺としては、もうぶっ飛ばしたから、ヴォイドの情報をくれれば帰ってもいいんだぜ」
その視線を受け流した来夢が、軽口を返すと、オーガ魔人が頭上に片手を伸ばす。
その手にはナニカが握られていた。
「ハハハ! それは、駄目だネ!
この僕に勝ち逃げするなんて、許せるワケないだロ?
それにスライムマン、貴方はやはり運が悪いらしイ……もう一つの車なら、何も残されてなかったのニ。
だかラ、僕は躊躇わずに使うのサ!
──この二本目は運命なんダ!!」
パリン。
伸ばされた手の中から、ガラスが割れる音がすると、濃い紫色の液体が溢れて、大口を開けたオーガ魔人に飲み込まれていく。
「今度は待たねぇよ!!」
来夢が妨害しようと殴り掛かるが、
「邪魔ヲ、スルナア!!」
「速ッ!?」
ドガッ!!
伸ばされていた腕を無造作に振っただけのカウンターで、弾き飛ばされる。
その腕が振るわれる速度は、先程までより数段速かった。
ドクン、ドクン!!
オーガ魔人の魔紋が、心臓の鼓動を彷彿とさせる明滅を繰り返す。
「グオオォォ!?」
メキ、メキメキッ!!
頭を押さえて苦しむオーガ魔人の額にある角が歪に伸びていく。
その角へ合わせるように、ボロボロの衣服を突き破りながら、鎧の様に硬質化した赤い身体が膨れ上がる。
その身体は所々が捻じ曲がりつつ、来夢を越えるサイズにまで至った。
更に、紋様がない部分の肌も赤く染まったことで、全体のバランスは歪であるが、魔人化を超えて、完全にモンスター化していた。
『ガアアアアアアアアッッ!!!!』
数倍に膨れ上がった魔力が、叫び声と共に周囲を圧する。
体勢を整えている間にパワーアップを許してしまった来夢は、苦笑しながら呟いた。
「おいおい、俺は初戦なんだぜ?
チュートリアルにしちゃ強すぎるんじゃねぇか?」
魔造人間スライムマンとオーガ魔人のラストバトルが始まる。
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