第14話 自覚、俺はスライムマン!!
「うおおおおッ!?!?」
空中で爆発の余波を受けた来夢が、迎撃場所から大きく吹き飛ばされて、斜面を転がり落ちていく。
複数の木々にガンガンと衝突した後に、漸く勢いが止まって立ち上がった来夢は、己の状態を確認してから呟いた。
「必殺技に改良の余地ありだな……危なく自爆するところだったぜ。
まぁ、あんだけ打つかりまくったのに、何ともねぇが……打撃無効ってか?
痛みもねぇ……が、ちょいと目が回ってるのは、俺にも脳みそがある証拠かね?」
そして、己が放った全力攻撃の結果を知ろうと、迎撃場所を見上げて青ざめた。
「あ、煙が…………山火事?
しまった!? 後先、考えなさ過ぎた!!
ヤ、ヤバい!! 消化! 早く、消化しねぇと!!」
驚き慌てた来夢が、全力で迎撃場所まで駆け上がる。
瞬く間に元の場所まで戻ったが、状況はかなり危険だった。
「うおッ!? マジで燃えてやがるぞ!?
ど、どうしたら……そうだ!!」
最後の攻撃で抉れたクレーター周りの雑草や、付近の木々に火が着き始めていたのだ。
焦った来夢だったが、土壇場で己が有する能力を思い出した。
「【トランスエナジー】〈ヒートイーター〉!!
雷と同じように、熱のエネルギーを喰らって、魔力へ変えてやる!!」
来夢は〈スライムハンド〉を発動した状態で、燃えている場所へ手当たり次第に触れると、魔力を熱に変える〈スライムヒート〉を逆転させた、〈ヒートイーター〉のチカラを次々に発動させていく。
すると、燃え盛る火から熱のエネルギーが奪われて、来夢の魔力へと変換されながら、放出されていった。
その結果、あっという間に、クレーター付近で起きた山火事は勢いを失くして、鎮火することになったのである。
来夢は消火活動を終えると、己やモンスターの痕跡になりそうなモノを吸収してから、その場をすぐに離脱した。
なぜなら、火事を目撃した人間が、調査へ来る可能性が高かったからである。
また、更に他のモンスターが現れた場合、調査へ来た人間が襲われる危険性もあり、来夢はゴブリンが出現した場所である、魔力感知にほとんど反応がなくなった切り株へ向かって、警戒しながら進んでいるのだった。
(ふぅ、滅茶苦茶、焦ったぜ……。
まぁ、俺の痕跡は残ってねぇと思うけど、例えバレても、正当防衛的なアレコレで、何とか許して貰える範囲だと思いてぇなぁ……。
ん? なんかあの場所、凄えモヤモヤが濃いけど……あ、変換した魔力をばら撒いちまった影響か?
だが、戻って消そうにも、あのモヤモヤは上手く吸収することができねぇぞ。
うーん。暫くあの辺りには、動物が近づけねぇだろうなぁ……やっぱり俺の仕業とバレねぇように祈るしかねぇのかよ)
本来ならば、モンスターには魔素を体内に取り込み魔力へと変換する魔素機関が常時機能している。
しかし、スライムマンは、魔素を自ら生み出し放出するピュアスライムの特殊な魔素機関を有しているため、魔素の取り込みを苦手としていた。
結果として、来夢が消火に専念したことで、熱エネルギーが変換された魔素が、クレーター周辺には漂っており、極めて狭い範囲で魔素濃度が上昇していた。
「そんで、この広場は逆にモヤモヤが殆ど無くなってやがるのか……。
切り株もヒビ割れて、魔力がほとんど感じられねぇ。
つまり、あのゴブリン共の"記憶"通りってことかよ」
広場に到着した来夢は、魔素濃度が激減した状態と、魔力を感じられなくなった切り株を見て、〈スライムツリー〉が魔造ゴブリン達を吸収したことで得た【スキルコピー】の副産物であり、マッチョゴブリンに変化する切っ掛けとなった"記憶"が、真実であることを察するのだった。
────周囲にモンスターが浮かんだガラス筒が並べられた部屋で、五匹の魔造ゴブリン達が並んで立っている。
その部屋に、フードを深く被っている豪華な黒いローブを着た青い肌の男が現れると、魔造ゴブリン達の前に立って、少年のように若々しい声で話しだす。
『馬鹿なゴブリン共に命令するのは、徒労感があるけど、仕方ないね。
栄えある魔王軍が十二将軍の一人、《魔学博士カイゾーン》が命じる。
人界に廃棄したスライムマンTYPE-pureの死骸をニンゲン共が見つける前に、最優先で処分して、隠滅せよ』
五匹の魔造ゴブリン達は、カイゾーンと名乗った男の命令を聞くと、暫く沈黙していたが、一斉に首を傾げながら、『ギギ……?』と不思議そうな顔をした。
『クソ、間抜け面でポカンとしやがって!
魔造ゴブリンの知力系強化は、コストが重過ぎるんだよ!』
カイゾーンは、ローブのフード越しに頭を抑えた後で、
『……僕が、お前達の、ボスだ。
転移した後は、スライムマンを、最初に、食べろ』
短く区切りながら、命令をし直した。
すると、魔造ゴブリン達は命令を理解できたのか、興奮した様子で『ボス』、『スライムン』、『サイショ』、『タベル』などと、連呼し始めた。
カイゾーンはウンザリした顔で、後ろに控えていた黒ローブ達に手を振る。
『……ほら、僕は魔造人間の量産計画で忙しいんだから、さっさとこの馬鹿共を魔造樹まで送って、クソ雑魚の失敗作を処分させろ』
黒ローブ達に無理矢理連れて行かれるゴブリン達を見ながら、カイゾーンが嘆く。
『馬鹿すぎる……人界の試作型魔造人間どもを使う方が良かったかな?
いや、精霊界のヤツらを油断させるなら、魔造ゴブリン程度が丁度いいよね。
別に失敗したところで、ポイ捨てしたゴミが拾われる程度なんだ……気分は悪いけど、困りはしないか』
その後、魔造ゴブリン達は、魔造樹の簡易転移陣へと無理矢理送られる。
転移完了後に、許容量を超えた負荷によって、魔造樹の切り株に亀裂が入り、魔力が失われていった。
そして、魔造ゴブリン達が、【スライムマンの魔力波長を対象とする追跡能力】によって、魔力の痕跡を追いかけて見つけた〈スライムツリー〉に捕食されたり、来夢に叩き潰された時点で、記憶が途切れる。────
「ゴブリンの脳みそか、魔石が原因なんだろうが……ヤツらの"記憶"を元に調べて行けば、俺が巻き込まれた事情を色々と理解できるかもしれねぇぜ。
それに、魔王軍、十二将軍、魔学博士カイゾーン、魔造ゴブリン、魔造樹、精霊界……パワーワードのオンパレードだったが、その中でも、特に俺を指してそうな言葉がありやがったな……。
『人界に廃棄したスライムマンTYPE-pureの死骸』、『魔造人間』、『クソ雑魚の失敗作』、『ポイ捨てしたゴミ』……」
来夢の表情が凶悪な笑みに歪む。
「ククク、魔造人間ね……モンスターと融合された人間ってことか?
ブハッ、それで、スライムマンTYPE-pureってことは、何だかスライムマンシリーズがありそうじゃねぇか?
更に、ハハハッ! なんだぁ、クソ雑魚の失敗作が死んだから、人間の世界にポイ捨てしてくれちゃったワケなのか?
アハハハッ!! なるほどねぇ!?
そりゃあ、何ともご迷惑をお掛けしたみてぇだが……ギャハハハハハハハッッ!!
ズイブント! オレヲ!! ナメテクレタジャネェカァ!!!!」
凄まじい音量で叫ぶ来夢の顔は、ゴブリンと人間の顔が混ざった恐るべき凶相だった。
「ハァ、ハァ、ハァ、チクショウ…………」
叫んで落ち着いたのか、人間化を発動した来夢の身体が小さくなる。
「……何はともあれ、タスク①俺は何者なのかに答えは出たな。
俺はニンゲンでも、スライムでもない」
来夢が目を閉じて、全身の力を抜くと、一瞬でカタチが崩れてスライム化する。
不定形な半透明のカタチとなるが、グニグニと蠢きながら再び盛り上がり、大柄でマッチョな姿へとカタチが整っていく。
スライム人間の状態へと戻った来夢が、目を開いて告げる。
「俺の正体はスライムマン。
余りにも弱すぎて、悪の組織にポイ捨てされた魔造人間の失敗作であり……そして、今からは《魔学博士カイゾーン》をぶっ飛ばすと決めた、魔王軍の敵対者だ!!」
この瞬間、須藤来夢は己が何者であるかを自覚した。
そして、その自覚はプルプル、ポヨポヨの不定形ヒーロー《魔造人間スライムマン》の誕生を意味するのだった。
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