第13話 圧倒、スライムマンvs魔造ゴブリン!!

『ギギ!! アッチ、エモノ!!』

『ギャハッ! エモノ、タベル!! ギャギャギャ!!』

『ギギ……? ドコ? スライ……ムン?』

『ギ? スライムン? ナニ?』

『ギギ!! ボス、メーレー!!

 ハラヘル、スライムン、タベル、サイショ』


 豪華なローブの男に最低限の魔造手術を施された魔造ゴブリン五匹は、最優先でスライムマンを処分することだけを命じられて、人界に送られていた。

 理由は単純で、ゴブリンの記憶力を底上げする術式を省いたことで、単純な命令以外忘れてしまうからである。


 魔造手術によって【スライムマンの魔力波長を対象とする追跡能力】を与えられた魔造ゴブリン達は、獲物がいることだけを狩猟本能で理解して、棍棒を片手に人界転移後の山中を走り抜けていく。


 そして、転移された広場から二つ目の山に辿り着くと、五匹が先を争うように斜面を駆け上がり、平らなスペースに生えた枯れ木の前へ躍り出た。


『ギギ!! エモノ、ココ!!』

『ギャハッ! オレガ、タベル!!』

『ギギ? ドコ、スライムン、イル?』

『ギッ!? モウ、ハシル、オワリ?』

『ギギ、ココ、イル、タベル、サイショ』


 獲物を目前に興奮した魔造ゴブリン達は、与えられた命令に従って、その場に居る筈のスライムマンを探し始めた。


 しかし、いくら探しても、枯れ木の周辺では、溶けかけたイノシシと毛皮の腰巻きくらいしか、目立つモノを見つけられなかった。


『ギギ!? ココ、エモノ、イナイ!?』

『ギャギャギャ!! アノニク、オレガ、タベル!!』

『ギギ? アノニク、スライムン?』

『ギ……アレ、オレ、カブル!!』

『ギギ!? スライムン、アレ、チガウ!!

 ボス、メーレー、スライム、ニンゲン、タベル、サイショ』


 魔造ゴブリン五匹は、追跡能力が伝えてくる場所にスライムマンらしき存在を見つけられずに困惑すると、二匹が再び捜索に動き出し、三匹が枯れ木の傍らに置かれた溶けかけのイノシシと腰巻きに興味を示して近づいていった。


 枯れ木に近づいた三匹は、ゴブリンの拙い記憶力によって命令の強制力が薄れており、スライムマンの処分を忘れて、興味のままに無警戒で動いていく。


『ギャハッ!! コノニク、オレノ!!』

『ギギ!? オレニモ、ヨコセ!!

 スライムン、タベル!!』


『ギ! スゴイ! オレ、ツヨソウ!?

 ……ギギ!! オマエラ、ミテロ、コノキ、オル!!』


 二匹の魔造ゴブリンがイノシシを巡ってケンカを始めようとする中で、突然、腰巻きをローブのように被って喜んでいた残りの一匹が、棍棒を枯れ木に向かって振り上げると、


『ガァ!! ッ!?』


 ニュルン……。


 思い切り棍棒を叩きつけようとした勢いのまま、枯れ木の内部に呑み込まれていった。


『『ギギ??』』


 その様子を見ていた二匹は、不思議そうな顔をしてから、半透明になった枯れ木の中でもがき苦しんでいる仲間の姿を笑い始める。


『ギャギャギャ!! アイツ、カッテニ、シニソウ!!』

『ギャハッ!! アイツ、シヌ、ニク、イラナイ!!』


 ゴウッ!!


『ギャギャ!? コノキ、アツイ?』

『ギギ……? ニク、ヤケル?』


 イノシシの取り分しか頭にない二匹の魔造ゴブリン達は、陽炎を纏う〈スライムツリー〉の危険性を理解しないまま、窒息しながら茹で殺されていく仲間をただ見ていた。


 そして、仲間が死ぬのを見届けてから、再びイノシシを巡ってケンカを始めると、仲良くイノシシごと〈スライムツリー〉に呑み込まれるのだった。




 魔造ゴブリンよりもLVが高い魔造樹を魔石ごと消化することで、【レベルアップ】していたスライムマンの消化能力は、再探索をしていた二匹が戻る前に、三匹を跡形もなく喰らい尽くした。


「…………」


 その場に半透明の〈スライムツリー〉だけが残されると、唐突に枯れ木を模倣した身体が蠢きだす。


 あっという間に、そのカタチが失われて、完全なスライムの状態となるが、それでも身体の変化は止まらず、


 グニャグニャ、ムニュン……。

 と、不定形に崩れた身体が、再びカタチを整えていく。


 その唐突な変化が終わった時、〈スライムツリー〉が存在した場所には、緑肌で腰蓑を着けた醜悪な顔のモンスター──ゴブリンが立っていた。

 ただし、身長二メートル近い、筋骨隆々のマッチョゴブリンである。


「ア、アァ……ナルホドナ」


 暫くボウっと佇んでいたマッチョゴブリンが呟く。


「ゴブリンガ、コワイナラ、ゴブリンニ、ナレバ、イイワケダ……ナントイウ、コペルニクステキ、アイデア」


 マッチョゴブリン──正気に戻った来夢が、片手にチカラを込めれば、ムニュリと大型の棍棒が現れる。


「……ゴブリンドモ、ユルサネェ。

 オレヨリ、ブンカテキナ、カッコウヲ、シヤガッテ!!

 ブットバシテヤル!!」


 トラウマとは全く関係のない理由で怒り狂う来夢が、現れた棍棒をブンブンと素振りしている処に、探索から二匹の魔造ゴブリンが戻ってきた。


『ギギッ!? デカイ!? ダレ!?』

『ギギ!! スライムン!!

 スライムン、タベル、サイショ!!』

『ギ? ……ナカマ、タベル?』

『ギギ? スライムン、ナカマ?

 メーレー、ナカマ、タベル、サイショ?』


 マッチョゴブリンの姿をした存在に困惑している二匹を見て、来夢が告げる。


「アンシン、シロ。オレハ、オマエラノ、ナカマジャ、ネェカラナ!!

 ライソクデ、イクゼ!! 〈スライムライトニング〉!!」


 バチバチバチ!!

 と、来夢の身体が放電しながら輝き、片手に握られた棍棒もビリビリと帯電する。


 ドウッ!


 大柄なゴブリンの身体が、地面に凄まじい踏み込みの跡を残して、掻き消えるように加速する。


『『ギギッ!?』』


 突然の事態に魔造ゴブリン達が驚愕した時には、少しだけ前側にいた一匹の眼前で、来夢が棍棒を振り上げて立っていた。


「マズハ、イッピキ……〈ライトニングクラッシュ〉!!」


 ズガンッ!! バリバリッ!!


 凄まじい勢いで叩きつけられた棍棒が、魔造ゴブリンごと地面を砕くと同時に激しく放電した。


『ギ……ギギャ……』


 衝撃で吹き飛ばされた最後の一匹が、焼き焦げたミンチと化した仲間の残骸を見て、腰を抜かしながら怯えている。


「ヤリスギダト、オモウカ?

 オビエル、オマエヲ、ミノガス、ベキカ?

 ……スマネェガ、オレハ、オマエタチ、ゴブリンガ……モンスターガ、コワイラシイ。

 コレハ、シュリョウ、デハナク、コロシアイ、ダカラナ。

 スライムサンノ、リョウブンジャ、ナイ。

 イカリ、ニクシミ、キョウフ……俺は、人間らしい醜い感情を持ったまま、自分のためにお前を殺すぜ。

 流石に、あのままスライムになるのは、格好が悪すぎるからな」


 来夢の身体が、マッチョゴブリンからマッチョ大男へと変わっていく。

 ただし、腰蓑と棍棒はそのままだった。


「本当なら、人間化して決闘できれば名誉挽回になるんだろうが、普通にお前らの方が強えから、勘弁してくれ。

 それと腰蓑と棍棒をありがとうな。特に腰蓑は、マジで感謝してるぜ。

 そんじゃ、さよならだ。

 ……熱撃でいくぜ!! 〈スライムヒート〉!!」


 ゴウッ!!


 来夢の身体が熱気と共に陽炎を纏い、片手に握られた棍棒が燃え盛る。


「そして……」


 ズンッ!


 大柄な身体が、凄まじく重い踏み込みで地面を砕いて、ほぼ直上に跳び上がる。


「コレが、俺の全力だ!! 〈オーバーヒートインパクト〉!!〉」


 十メートル以上の高さへ跳躍した来夢は、スライムの柔らかさを活かして、捻れるように振りかぶると、全魔力を込めた燃え盛る棍棒を投擲した。


『ギィアアアッ!?』

 

 ドガァァァァン!!!!


 叫ぶ魔造ゴブリンに直撃した棍棒は、込められた魔力を熱エネルギーとして変換しながら、大爆発を巻き起こす。


 凄まじい爆発の影響が収まった時、その場にはクレーターだけが残されており、ゴブリンの痕跡は欠片もなかった。

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