第7話 狩猟、スライムマンvsイノシシ!!

「首を刎ねられても死なず、電気や熱のエネルギーを操ることができる、か。

 マジでスライムって凄えぜ……燃費は最悪だから、ほとんど活かせねぇけどな」


 来夢の感覚が正しければ、三十秒程度で身体の内側にある魔力は回復する。


 そのため、再び魔力が身体から湧き出してきた時点で、枝の先端を燃やしたのだが、熱量を上げるほど一気に魔力が消費されてしまった。


(燃費よりもタンクの問題なのか?

 枝に火を点けるだけで空っぽになる魔力とか、MP1にも足りてねぇかもな……。

 使ってるだけで増えてくれるなら助かるけど、レベル制とかの可能性もあるのか?

 ……ステータスは一度も出ねぇけどよ。

 いや、今はタスクを片付けることに集中した方がいいな)


「早速、魔力の放出を抑えながら、探索してみるか……」


 来夢は考察を中止して、再び探索へと出発した。




(よし、上手くいってるな。

 雷は魔力消費の加減が難しかったけど、熱への変換を全身でやれば簡単だったぜ。

 人間化したら高熱で昏倒しそうだけど、スライム人間状態なら、寧ろ体調が良いし、普段はこれを維持していこう)


 魔力を感じないためか、来夢の頭上でも鳥が鳴くようになり、虫や小動物の気配も近くで感じるようになっていた。


(さて、どうしたもんかね。

 枝も魔力があったから置いてきたし、素手で捕まえなきゃ駄目なんだよな。

 うーん、やっぱり体内の魔力量を維持しておいて、限界まで近づいてから身体強化しかねぇか?)


 ガサ……。


 少し遠めの茂みが揺れたのが見えた瞬間、来夢が体勢を低くしながら身構えた。


 そして、小型のイノシシが顔を出したのを確認すると、一気に走りだす。


『プギッ!? プガ!!』


 いきなり近づいてきた来夢に驚き、警戒したイノシシが、迎撃体制をとろうとする。

 その時点で、お互いの距離は五メートルもなくなっていた。


「雷速でいくぜ!! 〈スライムライトニング〉!!」


 パチパチパチ!

 と、小さな放電の音が鳴ると、雷光を纏った来夢の身体が加速する。


「オラァッ!!」


『プギィ!?』


 来夢は加速の勢いを乗せて飛び上がり、イノシシの首に抱きつきながら、押し倒した。

 そのままイノシシの首を締め上げるが、激しい抵抗に、身体強化の時間が足りないことを確信する。


(やっぱり無理か!? だが、次の手も考えてあるぜ!!)


 故に、暴れるイノシシに抱きついていた片手を、イノシシの頭部に素早く移動させて告げた。


「痺れろ!! 〈ライトニングスタン〉!!〉」


 バチン!!

 と、イノシシの頭部から弾けるような音と共に、目玉が飛び出した。


『ガッ!?』


 一気に抵抗力を失ったイノシシは、ブルリと一度大きく痙攣してから動かなくなった。


「ハァ、ハァ、ハァ、……やったか?

 ……なんてな。ははっ、こんな状況なら、絶対コレを言いたくなるぜ。

 まぁ運良く、怪我せずに済んだのはいいんだが、裸でイノシシ倒すとか、よく考えなくてもアホ丸出しだわ……」


 息を整えた来夢が、ゆっくりと立ち上がると、周囲に魔力を放出し始める。


(動物が逃げるなら、丁度いいからな。

 クマとか出たら流石に倒せねぇと思うし、最初にイノシシみたいな大物が手に入ったのは、かなりラッキーだったぜ。

 そんじゃ取り敢えず、川まで運ぶか?)




 来夢が元々、川の近くで獲物を探していたこともあって、身体強化を繰り返せば短時間でイノシシを運ぶことができた。


「ふぅ、〈スライムヒート〉が筋力アップ系身体強化だったのは、地味にありがたいぜ。

 エネルギーを集中させる派生技も上手くいったし、かなり戦闘スタイルが見えてきた感じがあるな」


 少し下流側に運んだイノシシを水の流れに漬けると、来夢は能力の使用感を振り返りつつ、左手を確認した。

 その手の甲だけがスライム化しており、半透明の内部に半分溶けかけた球体が薄っすらと見えている。


「うーん、試しに飛び出た目玉を吸収してみたけど、消化するまではスライム化したままってことか?

 ……消化速度は思ったよりも早いんだが、水は一瞬だったし、血液なら目玉よりもっと早い可能性があるよな。

 兎に角、色々な方法を試してみるか……まずは〈スライムハンド〉、と」


 来夢は両手をほとんどスライム化させてしゃがみ込むと、試行錯誤しながらイノシシの解体を始めた。




「ハァ、ハァ、ハァ、イノシシ仕留めるより、解体する方が大変だった気がするぜ」


 一時間以上の時間をかけることで、来夢はイノシシから剥いだ皮の上に、肉、骨、内臓を分けることができた。


「よし!! 自分でいうのも何だが、かなり上手くできたんじゃねぇか?」


 結果を確認した来夢は、出来栄えに満足すると、全身を赤く染めながら腕を組んで、嬉しそうに頷いた。


(ナイフ代わりに指先で溶かしていくのが、地味に時間かかったなぁ。

 途中から身体強化の応用で、消化促進できることが分かったのはデカかったぜ。

 まぁ、スライム的には応用というより、この使い方が基本な気もするけどよ。

 そんで、吸収能力を使いすぎたのか、全身の表面がスライム化して、イノシシの血が混ざっちまってるが……もうすぐ消化できそうだし、一応、大丈夫そうだな)


 真っ赤になっていた来夢から、少しずつ色が抜けていき、数分で全身が半透明のスライム肌に戻った。


「消化完了だな。

 そんじゃ、【トランスフォーム】解除っと、これで元通り……になんねぇな?」


 来夢が全身の【トランスフォーム】を解除しても、両手のスライム化が戻っただけで、表面のスライム肌はそのままだった。


「…………あれ? 全然、大丈夫じゃなくない? お肌がプルプル、ポヨポヨのまま戻ってねぇぞ!? どういうことだよッ!?

 また、俺は完全なスライムになっちまうのか!?」


 予想外の結果にパニックとなりかける来夢だったが、一日に何度も異常事態が発生しているため、すぐに落ち着いていく。


「すぅ、はぁ……待て、落ち着け、俺よ。

 一つずつ、考えれば打開策がある筈だ」


 来夢は川のそばにしゃがみ込むと、水に触れたり、吸収したりを繰り返しながら、状況の考察を始めた。

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