第6話 考察、スライムマンの【トランスエナジー】!!

「落ち着いて考えれば、簡単だよな。

 この禍々しい、いかにも邪悪です、と言わんばかりの木が原因に決まってるぜ」


 来夢の睨みつける先には、落雷が直撃したことで半焼しても、なお禍々しさを残す大木の残骸があった。


「原因はこの木だとして、なんでその木を目指すことができたのか……まぁ、俺に無理なら、スライムの能力ってことだよな?」


 今までの常識と反する不可思議な現象を、来夢は声に出しながら、一つずつ考察を進めていく。

 それは己の中に存在する"未知なる自分ピュアスライム"との対話でもあった。


「何か第六感的なチカラがあるとして、それはどういうチカラなんだ……?

 まぁ、モンスターなら、ベタに魔力感知とか、気配感知みたいな能力があっても不自然ではないよな。

 だが、さっきスライム化した時は、感じられなかった……もっと強くスライム化しなきゃいけねぇのか?」


 言葉にしながら、来夢はスライムだった時のことを思い出していく。


「そういえば、最初の雷で起きた時は、首がなくても状況が分かったな……。

 その前のスライムだった時は、何か美味しそうな方向に進んでった気がするぜ。

 あの感じが魔力感知的なチカラだとすると……【トランスフォーム】で感覚だけスライム化すれば分かるかもしれねぇのか?」


 "未知なる自分ピュアスライム"に尋ねるように呟くと、来夢は肯定されたような気がした。


「なんか、あってる気がするな?

 え〜と、感覚だけをスライム化ってことは、〈スライムセンス〉か? ……ッ!?」


 その瞬間、来夢は不可思議な世界に捉われることになった。

 そこでは、光も音も匂いも触れることで感じられるのだ。

 何もかもが一体化したチカラとなって肌に触れて存在を伝えてくる。


『なんじゃコリャ!? うおッ!? 声もオカシイのか?』


(いや、耳で聴いてないのか?

 そりゃあ、スライムには目も耳もないから、触覚で感じるしかないよな。

 ああ、そうそう、何か思い出してきた……確かに、スライム時代は、こんな世界で暮らしてた気がするわ。

 よく分からない感覚もあるけど、多分、コレが魔力感知だな……木から何か出てるし。

 俺からも出てる? いや、微妙に違う?

 うッ、酔いそうだな……元に戻そう)


 【トランスフォーム】を解除することで、一気に感覚が戻ってくる。


「あっ、あ〜! ……よし、感覚はちゃんと戻ってるみたいだな。

 それで魔力感知は……やっぱり無理か。

 まぁ、そんな簡単にはできねぇよな。

 いや、なんとなく、圧迫感みたいのは感じてるのか……? うーん? そんな気もするけど、誤差だな。

 ここは本命を試してみるか……〈スライムサーチ〉……どうだ? おぉッ!?」


 新たな【トランスフォーム】を発動したことで、来夢は五感以外の形容し難い感覚を体感することになった。


 そして、バランスを崩して倒れそうになりながら、切り株に座って目を閉じると、新たな感覚へ集中するのだった。


(魔力感知のみをスライム化させる方法は、上手くいったぜ。

 全然、慣れる気はしないが……多分、というか、絶対、これからの俺には必須の能力だよな?

 うーん、やっぱり、目を閉じてもケツの下にある切り株と、倒れてる木の存在は感じられるぞ。

 ……なんか変な気分だけど、マジでファンタジーな能力を獲得したと思うと面白いな)


 少しだけ慣れてきた来夢は、目を開けると周囲を見回した。


「魔力がねぇモノは感じられねぇのか?

 いや、センスの時には、遠くの木とかも感じてたよな……。

 てことは、サーチはもう少し改善できる可能性がありそうだぞ?

 飯を探すためにも色々試してみるか……あ、もしかして、動物が逃げている原因は魔力なのか?

 え? コレどうやって止めるんだよ?」


 来夢は色々と試行錯誤してみるが、身体から出ている魔力的なチカラを止めることはできなかった。


「止めるのは無理っぽいな……魔力操作的なこともやり方が分からねぇぞ?

 うーん? 力を込めると少し減る感じはあるから、身体強化的な方法で消費すれば、減らす代わりになるかもな。

 後は何ができそうだ? ……そうだ!

 電気はどうだ!? なぜか落雷を受けても平気だったし、チカラがみなぎる感じもあったんだ! 俺は雷属性絶対あるだろ!!」


 来夢が落雷を思い出しながらチカラを全身に込めると、チリチリとした音が僅かに鳴って、身体が薄く光りながら軽くなっていく。


「おぉ!? ……本当にできた?

 凄ぇ、身体が軽い!! これなら、素手ゴブリンと互角にやれるな!!」


 評価が高いのか、低いのか、よく分からないことを叫びながら、来夢は高速でステップし続けた。


(魔力は……よし、身体からは出てねぇな。

 いや、それどころか、内側から抜けていくような感じがあるぞ?

 このパワーが抜ける感じは、あの施設でも何度も感じたな……なるほど、魔力を消費してたワケだ)


 そして、身体の中に感じていたチカラが枯渇するのと同時に、足を滑らせて倒れそうになった。


「うお、ダルッ!? めちゃ身体が重い……これが魔力不足の影響かよ?

 ありがちだけど、施設では感じなかったよな……感じてたけど分からなかった?

 もしくは、復活したことで何かが変わったのか……まぁ、どっちでもいいか。

 問題は、一分ちょっとしか持続しないから、使い処が難しすぎるってことだな」


 来夢は切り株に座り直し、目を閉じて魔力の回復速度を測りながら、スライムとしての能力を考察していく。


(さっきのは雷魔法による身体強化……いや、違うのか?

 どうにも、スライムの能力は【トランスフォーム】が肝みたいなんだよな。

 あッ!? エネルギーの【トランスフォーム】なのか?

 雷の時は、電力を魔力に変えることで再生した?

 そして、逆に魔力を電力にも変えることができる?

 ……もしかして、魔力を別のエネルギーにも変えることができる?)


 気づいた仮説を確かめるために、来夢は切り株に立て掛けていた枝の先端を握った。


「このチカラにも名前をつけておくか?

 ……【トランスエナジー】〈スライムヒート〉、うおッ!? 本当に燃えてるな……」


 先端から煙を上げている枝を、切り株に溜まった雨水で消火した来夢は、少しずつ己が手に入れてしまった能力の凄まじさを実感し始めていた。

 

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