第5話 探索、スライムマンの【トランスフォーム】!!

「まぁ、②此処が何処なのかは、推定日本ということで……これ以上は、山を降りて人に会ってみないと分からねぇからな。

 次の処理すべきタスクは、③此処は安全か、だが……」


 取り敢えずの結論を出した来夢は、改めて周囲を確認していった。


 しかし、周囲には生物の気配がなく、物音一つしなかった。


「こうやって声を出しても、何の反応もねぇし……ここまで来る間も、何だか小動物どころか、鳥も虫も俺から逃げてた気がするんだよなぁ?

 安全か? といえば、野犬とか、モンスター的な存在はいなさそうではある。

 なら、後は飯や水の確保ができれば、タスク完了でいい筈だよな……。

 お、アレは川か? よし、あの川へ向かって降りて行こう」


 頂上から見渡したことで、小さな川の流れを視認できた来夢は、移動を開始した。

 ただし、裸の状態で歩く場合、ほとんど管理されていない山は、降りる方が登るよりも難易度が高かった。


「うおッ!?」


(危ねぇ、滑り落ちるところだったぜ。

 ってか、すぐ気にならなくなっちまうけど、裸足の状態で歩けるのはオカシイよな?

 茂みを全裸で掻き分けても平気だし……というか、あの謎のパワーも感じるから、若返った以上に体力があるワケだろ?

 ⑥俺は何が変化したのかには、少なくとも身体は丈夫になったと言えるな)


 己の身体能力を確認しながら、淡々と道なき道を降りていった来夢は、小川のせせらぎを感じ取った。


「ん? あっちか……って、こんな小さな川の音を聴いて方向が分かるとか、一流のハンターにでもなった気分だぜ」


 地味に感知能力も上昇していることを確かめながら進むと、すぐに山中を流れる綺麗な小川へ辿り着いた。


 昨日の大雨が影響しているのか、水量はそれなりに多いが、濁りの少ない水が絶えず流れている。


「どれどれ……おぉ、冷た……くないな?

 触っている感じはあるけど、温度は感じてないのか?」


 早速、来夢は川に流れる水を両手で掬ってみたが、予想に反して冷たさが分からず混乱した。


(いや、取り敢えず、飲めればいいんだよ。

 他のことは後で考えればいい……筈だ。

 煮沸するんだっけ? このまま飲めれば楽なんだけどなぁ……)


 なんとか落ち着いて水の確保手段を考える来夢だったが、


「ッ!?」


 ジュリュッ!

 と、奇妙な音が響き、両手で掬っていた水が瞬く間に消えてしまった。


「……おっと、俺としたことが、指の間から全部こぼしちまった。

 ……参ったぜ。何か入れ物でも探してこなきゃいけねぇな」


 まるで何事もなかったように振る舞いながら、来夢はもう一度、ゆっくりと両手で川から水を掬った。


 そして、ジッと水量を観察する。


(……なんともねぇな。

 冷たくねぇのも同じだが、急に消えたりもしねぇ。

 アレはなんだったんだ? 手が水を吸ったような……いや、水を飲んだのか?)


「『このまま水を飲みたいな』……ッ!?」


 ジュリュッ!

 と、再び音が響き、両手で掬っていた水が消えていく。

 

「なる、ほど……。

 そういえば、結構な期間をスライムになってたんだっけ?

 実にスライム的な飲みっぷりだよな」


 来夢がよく両手を確認すると、その手の平全体が半透明のプルプルとした質感へ変わっていた。


(①俺は何者かは、ハッキリしないが、⑥俺の変化には、スライム化能力を追加しなきゃならねぇな)


 その後も水を吸収しながら調べた結果、手だけではなく、意識することであらゆる身体の部位をスライム化させることができる、という来夢の能力が判明した。


(あんまり強く身体をスライム側に寄せすぎるのは怖いというか、危ねぇ気がするな。

 俺自身のスライム化した部分が多いほどプルプル、ポヨポヨした気持ちになっていってる実感があるぜ。

 正直な話、完全なスライムに変身したら、もう一度、人間の姿に戻れるか自信がねぇなぁ……)


「よし、この能力を【トランスフォーム】と名づけよう。

 意識して一時的な変化だと思わねぇとヤバい気がするからな」


 来夢はスライム化能力の潜在的な危険性を感じたことで、明確に能力として名前をつけるという対抗手段をとった。

 能力を解除すれば、人間の身体に戻れるという意識づけを狙ったのだ。


「【トランスフォーム】〈スライムハンド〉、〈スライムレッグ〉、〈スライムヒップ〉……【トランスフォーム】解除、なかなか変化もスムーズで、いいんじゃねぇか?」


 部位ごとにスライム化させた後、一気に人間状態に戻った来夢は、満足気に頷いた。


(なんとなく、身体全体が安定した気がするな……やっぱり、俺は純粋な人間じゃねぇってことか。

 意識しねぇとスライムになっちまう可能性もあるんだろうな……危機感と一緒に悪くねぇかもって思えるのが、余計に危険だぜ。

 ……ん? あ、そういうことか?)


「【トランスフォーム】〈須藤来夢〉……うわッ!?

 おぉ、成功だ!! そうだよ、コレが人間の感覚なんだよ!!

 あはは!! さっきまでの身体と全然違うぞ!? 水が冷たいし、日差しは暑い!!

 くぅ〜ッ!! 今、何か凄え生きてる感があるわ!!

 ……あ、裸足がめっちゃ痛えな。

 …………【トランスフォーム】解除」


 喜びで飛び跳ねた拍子に、足を痛めた来夢は、真顔になると人間化とでも呼ぶべき能力を解除した。


(ヤバかったな。また興奮しちまったぜ。

 まぁ仕方ねぇよな。

 ある意味、さっき感じた自由の解放感と、雷で感じた復活の喜びが合わさった気分だったからなぁ……。

 ただ、身体の感覚的に弱体化が激しいみたいだから、サバイバルでは必要ないぜ。

 多分、今の状態なら吸収した飲み水で腹を壊すことはなさそうだしな……。

 人間化の【トランスフォーム】は、人里に戻ってから使おう)


 一時的に人間化を封印することにした来夢は、水をたっぷりと手から吸収した後に、次の行動へと移った。


「これで、後は食材の確保が出来れば、落ち着けるか……。

 だが、ここはルートの確認がてら、一旦、元の広場に戻るべきかもな?

 陽のある内に川の方向を確認しないと危ないだろうし……あれ? あの魔界っぽい木の切り株がある方向って、どっちだっけ?

 ……なんとなく、こっちな気がするか?」


 来夢は首を傾げながらも、放置していた枝を拾って歩きだした。




 そして、迷わず一直線で大木の広場まで戻ってきた。


「いや、オカシイだろ!?

 道も糞もないのに、なんでこの場所まで、一直線で着くんだよ!?

 なんなら、俺は既に川の場所が分かんねぇからな!!

 もしかして、迷いの結界でもあんのか!?

 ……いや、それなら頂上や川に行けたことがオカシイことになるのか?

 ……すぅ、はぁ、落ち着け、俺よ。冷静に考えるんだ」


 予想外に上手くいきすぎた状況の不自然さに、来夢は反射的に叫んだが、深呼吸して落ち着きを取り戻すと、諦めずに考察を開始するのだった。


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