第3話 再誕、スライムマンは嵐の夜に甦る!!
人里離れた山奥、二つ山を越えなければ道路すらない僻地にある枯れ木の頂点に、複雑な魔法陣が現れると、
バキ、ベキ、ドシャッ!
枯れ木の枝を何本も折りながら、首なしの死体が落ちてきた。
謎の施設から飛ばされた、須藤来夢の身体である。
ガサガサと周辺にいた小動物や鳥達が逃げていくが、人間が現れる気配はなかった。
ピクリとも動かない身体からは、既に血液が全て流れ出ており、黒ローブの〈クリーン〉によって事後処理をされた結果、血の匂いすらしていなかった。
豪華なローブの男は、来夢の身体ごと〈クリーン〉で消滅しなかった結果を、しっかりと記録している。
そうして、来夢の死体は山奥に生えた枯れ木の下に放置されることになった。
一日経っても、何の変化もなかった。
三日経つと、何度か肉食の獣が、死体の匂いを嗅いだが、嫌そうな顔になって逃げていくだけだった。
一週間経つと、明確な変化があった。
血が抜けて干からびたような肌になっていた身体が潤いを取り戻し始めたのだ。
一ヶ月経つと、死体に異常な変化が起き始めていた。
身体が潤いを通り越して、表面から溶けかけているのだ。
プルプルと震えるゼリー状の皮膚は半透明で、筋肉が透き通って見えている。
また、枯れ木に青々とした葉が数枚生えてきていた。
三ヶ月経つと、その場に近づく生物は存在せず、枯れ木だった筈の存在が、禍々しく捻れた大木へと変わっていた。
そして、大木の根元には、直径一メートル程度の半球型をした半透明のスライムが貼り付いていた。
「…………」
スライムが何かを語ることはなく、只管にプルプルとし続けるのみであった。
半年が経過した頃の夜半に、山がある地域へ嵐が訪れ、雷を伴う記録的な大雨が降った時も、スライムは地道に溶かして開けた大木の洞へ入っており、大雨の中をプルプル、ポヨポヨとしていた。
しかし、スライムの平穏な生活は、間もなく終わりを迎えてしまう。
ゴロゴロゴロ……ピシャーンッ!!
当たりを白く染める光と、空気が裂ける音が、大木のすぐ近くから聴こえた次の瞬間、
バリバリバリッ!! ズガァァンッ!!
山奥一帯で頭二つ分は大きく成長していた大木に雷が直撃したのだ。
凄まじい衝撃と共に燃え上がった大木が、二つに裂けていく。
ドドゥッ!
と、大きな音を立てながら倒れ込んだ大木のあった場所には、ビカビカと輝きを主張する存在が残っていた。
ビリビリと帯電しながら、かつてないほどに
周りで鳴り響く雷をBGMとして、躍動するスライム内部から、ズニュルと腕が生え、ブリュリと脚が生え、プルプルとボディが生身に変わっていく。
「…………?」
そして、そこでスライムの輝きは失われ、変化も終わった。
首なしの死体として、来夢は復活したのである。
「ッ!? ッ!? …………」
己の欠損した頭部を両手で確かめたことで、驚き、嘆き、落ち込んだ来夢の頭上に光が差す。
バリバリバリッ!! ズシャァァン!!
再びの落雷であった。
その雷によって再び帯電した来夢の首筋が泡立ち、ニュルリと頭部が生えてくる。
「うおおおおおっ!! サンダーーー!!」
興奮の余りに、意味不明な叫びを上げながら、須藤来夢ことスライムマンは、完全復活を果たした。
その復活は奇跡の産物であった。
須藤来夢とピュアスライムの相性は、豪華なローブの男が評価したように、決して高くなかった。
人界のニンゲンに、魔界のモンスターをチカラとして付与する魔造人間としては、失敗作であったのだ。
謎の施設内で最終的に発現できたスライムマンの能力は、僅かな再生能力と、擬態能力という二つだけしかなかった。
擬態能力は、ピュアスライムからすれば大幅に劣化した能力であるが、己の生命活動を擬態することができる。
この能力によって、スライムマンは首を撥ねられた時点で、来夢の死体に擬態していたのだ。
そして、転移後の外敵がいなくなった状況で、もう一つの能力である僅かな再生能力を発動した。
しかし、頭部のない来夢には、思考能力が皆無だったので、本能のままピュアスライムとして身体を材料に再生し続けてしまう。
その結果、来夢は全身がスライムの本能に任せたプルプル、ポヨポヨの存在と化してしまったのだ。
偶然、落雷の直撃を受けたピュアスライムとしてのチカラが、電気エネルギーによって活動する人間の細胞を、来夢の意識ごと反射的に再現しなければ、スライムマンとして復活を果たすことはできなかっただろう。
更に、ピュアスライムの潜在能力であるチカラが発動したことで起きた復活は、スライムマンという存在を反転させてしまった。
スライムのチカラを持ったニンゲンである魔造人間から、ニンゲンのチカラを持ったスライムである魔造人間へと本質が入れ替わったのだ。
その奇跡的な現象は、あるいは復活ではなく、再誕と呼ぶべきなのかもしれない。
なぜなら、その"在り方"は、豪華なローブの男が目指している、魔造人間の完成系そのものであり、モンスターのチカラを理論上全て引き出すことが可能な、人型魔造決戦形態とでも呼ぶべき境地でもあったのだ。
「うおおおおッ!! ありがとう!! サンダーーー!!」
己がどういう存在となってしまったのかを一切知らずに、来夢は大雨が止む明け方まで、時折、雷に撃たれながら、天に向かって叫び続けていた。
謎の施設にある不気味な研究室で、豪華なローブの男が、獅子のようなモンスターを解剖していた手を休めて、黒ローブによる定期報告が書かれた羊皮紙を読んでいく。
『あれ? 定期計測で魔素濃度が低下?
もしかして、精霊界のヤツらが引っかかったのかな……いや、違うか?
……ふむ。原因はこの日の大雨だね。
あの失敗作ごと魔素が流れちゃったかな?
もう一ヶ月ほど、定期計測をしてみて、濃度が上昇しなかったら、スライムマンTYPE-pureに関する実験記録は終了だね。
……あのゲロ塗れの奴隷ニンゲン、最後まで期待はずれのサンプルだったなぁ』
豪華なローブの男は、一瞬だけ思い出した来夢の顔をすぐに忘れて、再びモンスターの解剖を再開するのだった。
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