第2話 廃棄、スライムマン死す!!
その後も、来夢は命令による覚醒と睡眠を繰り返しながら、豪華なローブの男によって実験を繰り返された。
ある日は、裸のまま延々とベルトコンベアの上を走らされたり、
(え、走るのかよ? 俺、全然運動とかしてねぇよ?
……お、案外走れるもんだな。
やっぱりパワーが湧いてくる感じがあるし、幾らでも走れそうな……あれ?
パワーが萎んでいくんですけど? 十分も経ってないんですけど? 身体が痙攣し始めたんですけど?
おいおい、誰か止めてくれ!! 俺の身体が転がってるから!!)
『スライムマンTYPE-pure、持久力評価G』
ある日は、毒物を摂取させられて、来夢の意識はあるのに身体が昏倒したり、
(え? この紫色したキノコ食わせるの?
味は……分かんねえけど、ちょっとピリピリした気もするな。
……うお!? 勝手に身体が倒れる?
おいおい、これ絶対やばいだろ!? 口から泡吹いてるぞ!!)
『スライムマンTYPE-pure、毒耐性評価G』
ある日は、ガスバーナーのような炎で炙られて、片腕が蒸発したり、
(いや、いきなり難易度上がり過ぎだろ?
え? 腕が勝手に!? ──おいおい、ヤバいって、燃えずに手が溶けてるよ!?
……うわ、なんだよ、この変な感じは?
全身が溶けた傷口に引っ張られてる?)
『スライムマンTYPE-pure、炎耐性評価G』
ある日は、その欠損に様々な薬品を投与されたり、
(治療してくれてるのか?
あんまり効果ない感じだな……ファンタジーなら、エリクサーさん奢ってくれよ……)
『スライムマンTYPE-pure、魔法薬回復評価G』
ある日は、全く欠損が治らないため、ガラス筒に入れられて放置されたり、
(結局なんなんだこの施設は?
周りのガラスに入ってるのはモンスターだよな?
やっぱり異世界なのか……。
俺は異世界転移だか転生をしたけど、現地人に捕まったってこと?
うーん、黒ローブ着てる奴らの言葉が分からねえのが不便すぎるわ。肌青いし。
神様、異世界言語のスキルくれよ!!
あと、ステータスも表示してくれ!!
……駄目かぁ。……あれ?
俺の腕が、ちょっと治って伸びてない? え? 欠損治る世界観なの?
何でだろ……薬が効いてきたのか?)
『スライムマンTYPE-pure、自己回復評価E』
そうして、全く状況を把握できない来夢を置き去りに、人界のニンゲンと魔界のモンスターを融合させた魔造人間は、あらゆる項目を評価され続けていった。
『ふむ。こんなトコロかな?
総合評価Gね……まぁ、予想通りだけど、適合率がイマイチ低いのが気に入らないなぁ。
折角、貴重なコレクションを消費したのに、潜在能力が引き出せていないのは……いや、こんな失敗作にいつまでも関わっている時間はないか……。
魔王様のためにも、魔造人間を量産する体制を整えないとね。
ふむ。量産計画の資料という意味では、最低評価も役に立ったかな?
それじゃあ、潜在能力を確かめるためにも、あの失敗作へ最期の機会を与えてみようか……』
(また、この白い部屋か……。
お〜い、棍棒ゴブリンは強えからやめてくれよ〜。
出来れば、スライム……も、そういえば強かったわ。あんまり俺が溶けなかったから泥試合になったんだっけ?
ガラス筒の中にいると結構回復するみたいだし、腕も手首まで戻ってるから、完治まで遠くねぇ……ここは最低でも素手ゴブリンでお願いします!!)
白い部屋の中心で裸のまま祈り続けた来夢の望みが、叶うことはなかった。
部屋の壁が動いて現れた相手は、余りにも理不尽な存在だったのだ。
「アアァァッ!! ウァァッ!!」
その姿を一言で表せば、妖艶な女の狂戦士であった。
牛のような角を側頭部から生やした大柄で豊満な身体を持つ女性が目を血走らせながら、口から唸り声を上げている。
その身体は簡素な革鎧で守られており、両手持ちの大斧を持っていた。
「…………」
(は? はぁっ!? 死ぬだろ、コレ?
てか、この女の人、顔の感じもそうだけど、茶髪の根本が黒い?
日本人……なのか?
え? なんだ? 俺は何に巻き込まれているんだ?)
無言の中で混乱が加速し続ける来夢だったが、状況はそれを許さなかった。
『〔戦え〕』
一言、もう聴き慣れてしまった単語で命令された瞬間に、来夢の運命は決したのだ。
(あ、これ、死、女、泣いてる?)
ブチンッ!! ブシャー!!
戦闘開始と共に振られた大斧が、狙い違わず来夢の首を盛大に引きちぎった。
身体が大量の血液を噴き出しながら、仰向けに倒れ、遅れてポトリと頭が落ちる。
「ウォアアァァアア!!!!」
ズドン!! ボウ!
その落ちた場所に叩きつけられた大斧が炎を纏い、来夢の頭部は跡形もなく焼失した。
『〔戦闘停止〕』
ピタリと、身体へ燃える大斧を叩き込もうとしていた女の身体が停止する。
そして、白い部屋内に黒ローブの集団が入ってきた。
豪華なローブの男が狂戦士の女を見て、満足気に頷く。
『ふむ。ミノタウロスウーマンの出来は、悪くないね。
魔炎斧もそれなりに使えてるかな?
それで、いいトコロなしのスライムマンは、死んでるの?
あ、そう。ピュアスライムなら、再生能力で頭部欠損くらい耐えられるかと思ったんだけどな……やっぱり適合率が低いとモンスターの能力は使えないか。
コレどうしよう? 素材としてもいらないから、モンスターの餌にしちゃおうかな?
……あ、いや、待てよ?
確か、ピュアスライムはマナを生み出した世界樹と似た能力で、魔素を放出するんだったね……よし、人界の山奥に捨てよう。
廃棄地点周辺を定期的に計測すれば、計画とは違う、面白い魔素の濃度変化が期待できるかもしれない。
ニンゲンが来ない場所なら問題ないし、人界に隠れている精霊界のヤツらが釣れれば儲けモノだ。
それじゃあ、そういうことでよろしくね』
大量の血が流れ蒼白となった首なしの死体が、一方通行の転移魔法陣に乗せられる。
魔法陣が輝き、首なしの死体──来夢は人界へと送られていった。
豪華なローブの男が指示した作業を終えた黒ローブが、手元の羊皮紙に確認事項を追加で書き込んでいく。
『スライムマンTYPE-P、最終戦闘評価G 死亡につき廃棄済み』
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