魔造人間スライムマン 〜どうやら異世界侵略の尖兵を造る実験体にされたらしいけど、余りにも弱すぎて魔王軍にポイ捨てされました〜
仮面ライター
第1話 誕生、魔造人間スライムマン!!
「うぃ〜、ひっく!」
三十代半ばの会社員である
「あ〜、久しぶりに飲み過ぎたなぁ。
終電逃すし……大人しく満喫か、ホテル泊まるかぁ?
うっ、気持ち悪ッ──オェェッ」
千鳥足で進んでいた来夢だったが、突然の吐き気に、人通りの絶えた道のど真ん中で、しゃがみ込んでしまった。
そして、何の変哲もないマンホールの上で、胃の中身をぶち撒けた。
「ゲェッ、ゴホッ、あー、スッキリした……。
あっ、ヤベェ!? こんな道の真ん中でやっちまった……え〜と、そうだ!! 水、水を──ッ!? なんだ!?」
酔いが少し覚めた来夢が、鞄からミネラルウォーターを出そうと慌てた瞬間、
ブォン!
という音と共に、複雑な形状の魔法陣がマンホールを中心に現れて輝き始める。
「眩しッ!? え? うわぁッ!?」
そして、来夢の身体が吐瀉物ごと魔法陣の中に落ちていった。
スゥ……。
来夢が落ちてから、数秒で消えた魔法陣の跡には何も残っておらず、人通りが途絶えた道の真ん中には、綺麗なマンホールがあるだけだった。
いつの間にか、来夢は吐瀉物塗れで、大きな部屋に並べられた簡素な寝台の一つに寝かせられていた。
寝台が置かれた広い部屋の中には様々な設備が置かれており、周囲には異形の生物達がガラス筒に浮かんでいる。
『おお!! 新しい人界のサンプルが罠にかかったようだね?』
そこにフードを深く被っている黒いローブを着た謎の集団が近づいてくる。
その先頭には、かなり若い男らしき豪華なローブを着た人物がいた。
奇妙なことに、そのローブの集団から覗く肌の色は、全員が真っ青である。
『どれどれ──ゲロ臭ッ!? なんだいコレ、汚なすぎるッ!?
まさか、人界の奴隷身分を拾ってきたのかい? 確か、シャチクとか呼ぶんだったね。
はぁ、仕方ないか。〈クリーン〉──あれ? 奴隷の服まで消えちゃったね?
……やはり人界の物質にも魔法は有効だけど、対象指定が甘くなるなぁ。要改善、と。
……じゃあ、サンプルの素体適性値はどうだろう?』
豪華なローブの男が手を振ると、近くにいた黒ローブの一人が動き、裸になった来夢を不可思議な設備に接続した。
『ん? もう結果が出たの?
測定が早いサンプルは、あんまり期待できないなぁ。
──って、えぇ!? 適性Lv0ッ!?
なんだいコレ、適性皆無じゃないかッ!?
……ふむ? やっぱりオカシイよね。
人界の下等種族とはいえ、いくらなんでも、適性がなさすぎる』
豪華なローブの男が少し考え込んでから下した指示によって、来夢は様々な設備に繋がれて検査されることになった。
『むう? ……再検査でも変わらないか。
他のサンプルと何が違うんだろ?
お、やっと詳しい解析結果が出たな。
──ふむふむ、ほう……なるほどね。
僕達の世界では不治にして絶死の病である魔素機関不全症に、このサンプルが生まれつきかかっていたのか。
人界のニンゲンなら魔素機関がなくても生きれるワケだね。
かなり珍しい症例だから、面白いサンプルではある……だけど、素体としては使いモノにならないな』
冷たい目となった豪華なローブの男が、来夢への興味を失おうとした時、ふと、そのフードに隠された視線が、周囲に並んでいるガラス筒の一つへと向いた。
『適性Lv0か……そういえば、Lv0なら我らの世界にもいたね。
貴重なコレクションではあるけど──原初の魔物とも呼ばれる最弱の《ピュアスライム》なら、コレにも適合するかな……?
ふむ。どうせ適合Lvが揃わなければ使えないし、実験するには丁度いいか。
……失敗しても、未知のデータが集まるだけで、損はないからね』
そう呟いてから、豪華なローブの男が来夢を再び見つめる目には、冷たさの代わりにマッドサイエンティスト特有の奇妙な熱が籠っていた。
『さあ、新たな実験の始まりだ。
惰弱なるニンゲンよ、精々、魔族一の天才であるこの僕を楽しませてくれよ?』
そして、その危険な視線は、来夢とガラス容器に浮かぶ半透明の球体へと、交互に注がれていた。
(あ、頭が痛え……二日酔いか?
あれ? 全く身体が動かねぇぞ?)
来夢が意識を取り戻した時、その身体からは自由が奪われていた。
暗闇の中で混乱する来夢に、未知の言語が聴こえてくる。
『ふむ、安定したみたいだね。〔起きろ〕』
その未知なる言語の命令によって、来夢の意思とは無関係に、その身体が目覚める。
(な、なんだ? 誰だよ? つか、水の中にいるのか?)
混乱し続けながらも、来夢は辛うじて己が液体に満たされた筒のようなガラスの中に入れられていることを理解した。
『よし、脳に直接刻んだ命令系統の術式も上手く発動しているな。
魔力強度が低すぎて、霊体に術式を刻めないと分かった時は、どうしようかと思ったよ……まぁ、人界の存在を操作するための手段が一つ実証できたからいいけどね』
ガラスの外側にいる豪華なローブを着た男は、来夢の様子を少しの間確認すると、
『〔眠れ〕』
と、告げて去っていった。
(なん、なんだよ……? ね、眠い……)
そして、その命令に逆らえなかった来夢の身体も、意識を失った。
『〔起きろ〕』
来夢は再び目覚めさせられると、自分が真っ白な部屋の真ん中で、直立していることに気づいた。
(コレは、夢なのか? 明晰夢?
意味分からねぇな……身体はやっぱり動かねぇし、裸のままだし……)
すると、来夢の視線が向いている場所の壁が動いて、白い部屋にナニカが入って来た。
そのナニカは、人間ではなかった。
醜悪な小人といった姿であり、緑色の肌で棍棒を持ち、腰蓑を着けている。
『ギィ、ギィ?』
(ゴ、ゴブリン? 何? 何で、ゴブリン?
もしかして、俺は異世界転生しちまったのかよ!?)
『〔戦え〕』
その命令で、ゴブリンと来夢の身体が動きだす。
そして、戦闘状態になった己の全身に溢れている力に、来夢は驚愕した。
(なんだ? 身体が勝手に動いてやがる!?
それに全身から凄いパワーを感じるぞ?
……俺は一体、どうなってるんだ?
もしかして、このパワーがあればゴブリンと戦えるってことなのか? ──いや、この湧き上がってくるパワーならイケる筈だ。
完全に意味不明だけど、頑張れ、俺!!)
『ギィ!!』
ボコォ!
「ガッ!?」
(速ッ!? ちょっと待って、ゴブリンの動き速すぎッ!?
パワー、全然意味ねぇじゃん!?
ってか、棍棒狡すぎるから、腰蓑も狡いからね!?)
『ギャッ! ギャッ!』
来夢の弱さを知ったゴブリンが嗜虐的な笑みを浮かべると、回り込みながら棍棒を叩き込み始めた。
ボコォ! ボコ、ボコォ!! メキッ!
(やめて!? 今、骨から変な音したでしょ!?
……あれ? 痛くねぇな? やっぱり夢なのか? ……ゴブリンに延々と痛ぶられるなんて、嫌すぎる夢だぜ)
裸の来夢はボゴボコにされながらも、ゴブリンへと愚直に攻撃しようとする。
その様子を観察しながら、豪華なローブの男は淡々と記録をつけていく。
『スライムマンTYPE-pure、戦闘評価G』
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