第29話 ラストワン-6
「さっき失敗したのは、猿真似をしたせいさ。俺はそう思うことに決めた。次は、自分の頭で考えて切り抜けてやる。勢多もそうすべきだな、うん」
勢多が感心した風な目線を愛甲に送ったのと同時に、別のところから声が上がった。
「そんなこと言って、愛甲は勢多を取り込む気なんだよねえ? 端で聞いてると、あまりにも見え透いていて、笑ってしまいそうだ」
「さあね。どう受け取ろうと自由だ。勢多が自分で考えて判断すればいい」
愛甲は慎重を期しつつも、用意していた答を口にした。
「確かにね」
陸野は勢多には答えさせず、素早く言葉を継いだ。
「では、そのくじ引きとやらをやってみるがいいよ。一位になると決まった者は、必死になって逆転の策略を考え、実行するだろうね。たちまちにして、金戸の提案は崩壊する。絶対に」
「くじを行うとなったら、取り決めには従ってもらう」
金戸が不愉快そうに反駁した。だが陸野は鼻で笑った。
「仮定の話をするよ。くじで一位を宛がわれた奴が、外に途方もないお宝を隠し持っているとしよう。必要な人数に、『私を助けてくれたら分け前をたっぷりやる』と声を掛け、投票する名前を変更させたらどうなる?」
「そ、そんな餌を示されてもだな。自分自身が解放されるかどうかが確実じゃないんだ。餌に食いつくかどうかは微妙だろう」
戸惑い混じりの金戸の再反論に、陸野は「果たしてそうかな」と受けた。
「くじ任せでも五分五分なんだよね。仮に生き残れたとしても、外に出て無一文じゃあお寒い限り。だったら、分け前にありつける可能性に懸けてみる男が、この中には大勢いると思うのだが」
「く……」
やりこめられた金戸は、片手で頭を抱えた。全員によるくじ引きをあきらめたのは明白だった。
「愛甲、勢多。君らはどうするね」
陸野が聞いた。
愛甲は大きく肩をすくめた。その仕種で、くじ引きには拘らないという意思表示になっている。
勢多の方は渋っている。策略合戦に巻き込まれると、自分の身が危ないことだけはよく承知しているからだろう。
「どうしたどうした? 自分の頭で考えたら、熱が出て来たか?」
煽る声の主は
「いいかい、勢多」
陸野が諭すような口調に転じた。
「金戸がくじ引きを提案したのはどうしてだと思う? 考えてみなよ」
「それは、さっき金戸が言った通りだろ。なるべく大勢が解放になるように」
「いやいや。それだけじゃあないさ。この陸野が思うに――」
と、彼は立ち上がり、金戸の前まで来ると、見下ろしながら指差した。
「――この男は正直に話すだの、なるべく大勢を助けるだのと調子のいいことを言いながら、自分が確実に助かる道を取ろうとしていたのだと思うよ」
「な、何を馬鹿な」
金戸も立ち上がったが、その決して立派でない胸板に陸野から拳を添えられ、気圧されていた。台詞も封じられたようだった。
「ごまかそうとしてもだめだよ、金戸。この陸野はお見通しさ。すりが得意な君にとって、くじ引きで二位の当たりくじを自由に引くぐらい、簡単なことだろう、とね」
「はあ? そんな考えは全く――」
金戸の否定する声は、一斉に沸き起こった非難の嵐に飲み込まれた。「裏切りを許すな!」と松井が必死に煽り立てる。
……そして投票が行われた。
四度目の投票にして、初めて二位が二人となり、解放の権利が一つ、失われた。金戸の奸計(?)を看破した陸野を二位で解放してやろうという小集団と、このあとの展開も視野に入れて主導権を取らせまいと、針谷を二位にしようとする小集団が牽制し合った結果、ともに十一票で終わったのである。
一位? 一位は言うまでもなく金戸。十三票が入った。
これにより、次の投票に臨むのは三十四名になった。
「まったく、金戸の奴も使えない」
「陸野憎しの感情だけで陸野に投票したんでしょうが、間違っている。状況を読み、針谷に投票してくれれば、陸野にほぞを噛ませてやれたのに」
「ありゃあ仕方がないさ。完全に我を失って、説得どころじゃあなかった」
「ですね。まあ過ぎ去ったことをぐちぐち言うのは、もうよします。それよりも、生き残る算段をしないと」
内藤は広場の反対側を見やった。陸野と松井が中心になって、集まりができている。しかも徐々にではあるが膨らみつつある。
「陸野達の計略も心配だ」
「うむ。俺達も今から動くか、それとも奴らの出方を見た上で動くか……」
「すでにだいぶ時間が経過しているので、出方を見るしかないでしょう。残念ながら組織作りという点では、陸野達の方が上ですし」
「……おまえさんは落ち着いているな。俺より若いのに。感心させられる」
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