第19話 どれにしようかな?

(後半はほぼ、選択肢にないな。どれもこれも痛い思いをするのが確実か、そうでなくとも可能性が高い。後のダメージを引きずるものもある。ぎりぎり、千枚通しぐらいか。それとて、指に近いところを突くほどいいなんてことが頭にあると、無茶をしてしまいそうだ。

 あとは、早食いがちょっと可能性ありか? でも、椰子の実丸ごとというのが気になる。文面通りに解釈するなら、素手で穴をあけて中を飲むなり食うなりしろってことか? だとすれば五分で完食は恐らく不可能。自分だけじゃなく、ほとんど全員が不可能じゃないかな。それで引き分け扱いにしてくれるのならまだましなんだが、両方とも負け扱いというのはひどい。もう一つのゲームで引き分けに終わった場合、両者とも負け越したことになる。負け越しイコール毒を飲む、だからな。やはり、なしだ。

 残りの六つから選ぶとすれば……ポーカーやサイコロは偶然の要素が強い。指の関節を鳴らすのも、体調によって大きく変わってきそうで、安定していない。潜水は個人の能力差が出るだろうけど、あいにく、自分はあんまり得意じゃないんだよな。一分耐えて、一息ついてまた息止めて、なんてことをやった経験がないからどこまで行けるか分からないが。

 となると、まだ残っているのはライターかマッチ棒。さて、どちらがいいか。

 マッチ棒を握る方は、ある程度頭の使い甲斐がありそうだけれども、どのような作戦が有効なのか、まだはっきりとは見えてこないんだよな。加えて、時間切れになる可能性も高そうだし。

 ライター着火は、ちょっと面白い。運の要素が強めであるのは確かだが、一つのライターを用いる辺りに、勝負の妙味がありそうな気がする。それでも、デスゲームの最初に選ぶには、怖さがなくもない。最悪のパターンとして考えられるのは、自分が先攻でいきなり失敗し、次に相手が成功するケースだ。この場合だと、相手は一度成功しただけで終わり。他の負けパターンなら、相手が成功し、次にこっちが失敗、そして相手が再び成功という段階を踏む。言い換えるなら、着火に二度続けて成功する必要がある。後攻を確実に取れるのなら、試してもいいと決心がつくんだが)

 短い時間で集中的に検討した輪倉は、最後に白紙のカードに視線をやった。

(やっぱり、これに頼るべきか。自分の得意な、勝つ自信のあるゲームを書いて出せば、一つの保険になる)

 輪倉は十三枚目のカードとペンを手に取った。ふと前を見ると、対戦相手の西村も、同様に書き始めようとしている。

(考えは同じか……。いよいよ何を書くか、重要になってきたな。五分で済む勝負で、できれば絶対確実に勝てるもの……うん、ずるいと言われようが、初戦は安全性を優先したい。イカサマにならない程度で、こちらが圧倒的に有利な立場に立てるのは、あれしかない)

 決めた。白いカードに黒い文字で素早く書き入れる。

 そして裏返して、そのまま選択カードとしてずいと前に押し出した。

 三十秒ほど遅れて、西村も持っていたカードをそのまま出す。

「両者とも、そのカードに相違ないな? では、開いて」

 審判の指図で、カードが表向きになる。

 輪倉のカードには、「『荒城の月』を尺八で演奏する。同時に開始し、ミスをした時点で負け。ともに最後まで吹ききったときは、次の曲を指定しサドンデス」と書き込んである。

 そう、輪倉は尺八を趣味にしているのだ。この学内には尺八が保管されていることも知っている。西村が尺八を吹けないとしたら、必勝である。ずるいかもしれないが、インチキではない。この程度なら、審判も認めてくれるはず。輪倉には確信があった。

 そんなことより今気になるのは、相手の出したカードの中身である。

 目をやると、字が読みやすいよう、カードは輪倉に対して正しい上下位置を保ってある。輪倉は自分の至らなさを少し反省し、自らのカードの向きをくるりと変えた。

 と、西村と目が合う。にやりと笑ったのは見下しているのか? そう思ったが、次の台詞を聞いて、勘違いだと分かる。

「どうやら、考えることは同じだったようで」

「えっ?」

 彼と自分、各々が提案したゲームが似通っているのかと察しを付け、カードに注目する。ちゃんと読み取れたが、意外さのあまり、つい声に出して読んでしまった。

「『五分で親子丼を作れ。味は最低限の味付けができていれば問わない。早い方が勝ち。材料は基本的に生で用意されるが、米飯のみ調理済み。調理器具は校内にある物に限る』……?」

 読んでから西村を見ると、「それとも、まさか、作ることができるとか?」とやや不安げに聞いてきた。輪倉は深く考えずに、首を左右に振った。

「なんだ、よかった」

 オーバーアクションで胸をなで下ろす西村。

「この分なら、勝負するだけ無駄のようだ」

「というからには、そちらも……尺八を吹くことは?」

「できません。ハーモニカみたいに吹いたり吸ったりするものかと思っていたくらいで」

 そういうことなら、確かに勝負するだけ時間の無駄だ。

(我々の試合だけ早く切り上げて、全体に資することになるのかな? 少しでも次の試合が早く消化できるのであれば、意味があるかもしれない)

 輪倉は西村と顔を見合わせ、互いにうなずいた。代表する形で輪倉が審判に話し掛ける。

「どちらもギブアップということで、一勝一敗の扱いにしてくれませんかね。時間の節約っていうか……」

「だめだ」

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