第18話 デスゲームそのX.あるいは輪倉大河の選択

六.デスゲームそのXあるいは輪倉大河の選択

 輪倉大河は自分の特性や性格をよく考慮し、時間いっぱい充分に検討した果てに、ぎりぎりで決断を下した。

 それは『くじちゃぐりあ』と名付けられたデスゲームだった。名称は何を表しているのか分からないし、その説明もなかった。ルールが自分に合っていると思ったから選んだまでのこと。


<ゲームは一対一の勝負を基本とする。まず、こちらで抽選をしてランダムに相手を決める。対戦者は一つのテーブルを挟んで、向き合って座る。

 テーブルにはそれぞれ十三枚のカードが裏向きに置いてある。うち十二枚には、ギャンブルの名称が記してある。すべて五分前後でけりが付くギャンブルだ。残りの一枚には何も書かれていないので、各自が希望するギャンブルを新たに書き入れることができる。ただし、どのようなギャンブルでもかまわない訳ではなく、五分前後で勝負がつくものに限る。

 各人はカードを一枚選び、裏向きのままテーブルに残す。対戦者二人は同時に開き、もしも同じギャンブルを選んでいた場合は、そのギャンブルで一度きりの勝負を行う。勝った方は合格、負けた方は死――毒杯を呷る。

 カードが一致しなかった場合は、それぞれのギャンブルで対決し、勝ち越した者は合格、負け越した者は死。一勝一敗など五分の成績になったときは引き分けとし、各人、次の対戦相手が選ばれる。これを繰り返し、死者が全参加者の半数に達した時点で、終了条件を満たすとする。

 対決は同時進行で行われ、それぞれの勝負は途中で切り上げられることは決してない。

 なお、カードに記されたギャンブルについて読めば分かることであるが、一つの試合で両者とも命を落とす場合が発生しないとは言えないルールになっている。故に、最終的な死者数が参加者の五割を超えることも充分にあり得る。

 以上だ。>


(他人に決められたゲームに命を賭けるくらいなら、まだこれの方がましだ)

 自分で決めることができる点が、輪倉は気に入った。

 同じような考えの者は多いと見える。最終的な参加者数は、百八名に達したとアナウンスがあった。つまり、一回戦として五十四試合が組まれることになる。

(五十四試合か……。そのすべてで勝敗がはっきりすれば、五十四人の死者が出て、ゲームは終わり。危険なゲームに身をさらすのは一回で済み、犠牲者の人数も最少で収まるが、そう甘くはないだろうな)

 全体のことを気にしても意味はない。

 差し当たって大事なのは、自分が勝つこと。いや、悪くても負けないこと。それだけだ。


 初戦の相手は、西村徳雄にしむらとくおという知らない男だった。どのようなギャンブルをするかにもよるが、知らない者同士だと表情を読んだり、性格や癖から推測したりと言った手が使えない。真っ新な状態でやり合うしかないの怖さがある。反面、仮に勝てたら、相手が毒を飲むのも比較的冷静に見ていられるだろう……か?

 それぞれのテーブルには一人ずつ、審判役の人物が付いていた。見える範囲では、全員が男性らしい。年齢は様々だが、みな表情をなくすよう努めているようだった。そんな審判役が、「どのゲームを選ぶか、五分を目安に決めるように。白紙のカードを使う者は書き込むように」と端的に指示してきた。

 輪倉は言われた通り、自分の望むギャンブルをどれにするかを決めるべく、十二枚のカードの確認に掛かる。

(ふむ。何だこりゃと、そう来るかって感じだな)

 ギャンブルと聞いていたが、そのイメージに沿うものと、ややイメージがずれているレクリエーション的なものの二種類がある、という第一印象を抱く。さらに言えば、半数近くはまず選ばないだろうなと思える種目が並んでいた。


・ポーカー一回勝負。制限時間内なら何度でもカード交換可能。ポーカーの役の強さが同じであっても、数やマークによって必ず強弱を付ける。


・潜水。水を張った洗面器に顔を付けていられる時間を競う。制限時間内であれば何度でもチャレンジ可能。一分以上付けていた場合のみ加算し、その合計時間が多い方の勝ち。同時間の場合はサドンデスに突入する。


・サイコロ振り。サイコロを六回振って1~6の目をダブることなく出した方が勝ち。目の出る順番は問わない。制限時間内に両者達成できなかった場合は、最後に出た目の大きい方の勝ち。それも同じ場合はさらに遡り、差が付くまで見ていく。万が一、すべて同じ場合は引き分け。


・ライター着火。一つのライターを交互に持ち、一発での着火を試みる。一回の試技につき許される時間は最大で一分とする。着火に失敗した者は負けにリーチが掛かり、次に相手が着火に成功すれば負け。相手も着火に失敗した場合はライターを新たな物に交換して続行。五分以内に決着しないときは引き分け。


・にぎり拳。マッチ棒十本をそれぞれ用意し、自らの手に好きな本数を握って、相手から見えないようにする。合図で同時に手を開き、本数の多い方にポイントが入る。握らなかった自らのマッチ棒の数がポイントになる。先にポイント数が百に達した方が勝ち。制限時間内にどちらも達成できなかったときは、引き分けとする。


・指関節鳴らし。交互に、自らの指の関節を使って、十秒以内に音を出す。先に出せなくなった方の負け。計測は機械を用いて厳密に行う。五分で勝負が付かない場合は、相手の指を指定し、サドンデスで続行。


・千枚通し渡り。自らの利き腕でない方の手のひらを机の平面に広げて置き、四つある指と指との間を、千枚通しで突いていく。制限時間内により多く突いた者の勝ち。自らの手を突いた分は減点する。同数の場合は、突いた穴の位置総てを機械で読み取り、より指に近い位置を突いていた者の勝ちとする。


・爪剥ぎ。交互に、己の爪を剥いでいく。先にギブアップした方が負け。同点で終わった場合は引き分け。※二回戦以降、爪が足りずこのギャンブルができない者は、不戦敗と見なす。


・耳取り。お互いに相手の片耳を掴んだ状態で、もう片方の腕で殴り合う。戦意喪失するか、耳をちぎり取られるかした者の負け。※二回戦以降、耳が足りずこのギャンブルができない者は、不戦敗と見なす。


・歯抜け。互いの歯を一本ずつ抜いていく。先に歯が抜けなくなった者、ギブアップした者の負け。なお、差し歯や入れ歯の類はカウントしない。念のため。※二回戦以降、歯が足りずこのギャンブルができない者は、不戦敗と見なす。


・早食い。食用昆虫百匹、丸ごと椰子の実、世界一臭いとされる缶詰の魚と世界一辛いと香辛料を用いたカレー、以上を先に完食した方の勝ち。両者とも時間内に完食できなかった場合は、双方負けとする。


・刃ジャグリング。包丁、果物ナイフ、カッターナイフ等、一般家庭にある様々な刃物を、刃を出した状態でお手玉する。なるべく多くの数のアイテムでジャグリングをやりきった者の勝ち。アイテム数が同じ場合は、ジャグリングできた回数を比べる。それも同数の場合、自己記録達成までに要した時間の短い方を勝ちとする。

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