第17話 『積極的受け身』

五.デスゲームその5『積極的受け身』

<はい、皆さんよく聞いてください。ゲーム名を聞いても、何のことやら想像が付かないと思いますが、至極単純な内容になっています。

 皆さんにはプロレスの技を受けてもらいます。一つじゃありません。制限時間内にいくつか受けてもらって、ポイントを獲得し、一定以上になれば合格です。技にはそれぞれポイントが定めてあって、当然のことですが、高難度の技ほどポイントが大きい、つまり高得点が与えられます。

 技とポイントの対照表は、参加を決めた方に本番前にお目にかけることになっていますが、一部を例として紹介しましょう。

 ええっと、皆さん知っているかな? ドロップキック、いわゆる跳び蹴りは3ポイント。ボディスラムは2ポイントになっています。高めを言うと……4の字固めは5ポイント。結構痛いですからね。逆に低いのは、アームロックやヘッドロックといった相手の動きを制御するような技で、一律1ポイント。

 高ポイントを設定しているのが、命に関わるような技で、たとえばダブルインパクトという二人掛かり以上でやる合体連携技がありますが、これ、練習中に実際に死亡者が出ているんですよ。掛けられた選手が未熟でまだ受けられるレベルに達していないのに、掛けてしまったが故とされています。ともかく、様々な要素を考慮に入れ、食らって無事でいられたら30ポイントが与えられものとしています。

 同じく死者の出ているパイルドライバーやバックドロップは、15ポイントとなっています。これらの死亡例は、試合中の事故で、命を落とした選手側の体調不良が大きな要因と見なされています。なのでダブルインパクトよりは低めに見積もっています。

 ああ、何ポイント獲得すれば合格なのかを言っていませんでした。123ポイントです。アントニオ猪木さんのアレに掛けました。

 それで、一つの技を受けられるのは一度きりとします。二度目以降は、受けても無効ですからご注意ください。

 さて……今の時代の方ならご承知のことと思いますが、プロレスは信頼関係の上に成り立つ、リング上で魅せる命懸けの演劇です。どんなに派手で強烈そうな技でも安全に掛けることが可能になっています。無論、100パーセント絶対確実ではありませんが、ある技術を身に付ければ高い確度で安全だと言えます。

 その技術とは、受け身。柔道の授業などで習った方もいると思いますが、あれを多少複雑にしたプロレスならではの受け身があります。参加者各位には、ゲーム開始前に受け身の講習会を開きますので、必ず受けてください。みっちりと仕込んでもらって、受け身の技術を身に付けたところで、本番スタートになります。

 皆さんに受け身を教え、さらには皆さんにプロレスの技を掛けるのは、一級のテクニックを持ったベテランのプロレスラーを一人、招待しています。彼の技術・手腕は保証しますので、安心して習い、技を食らってみてください。>


 『積極的受け身』ゲームに参加を希望する者は、ゼロ。

 誰も集まらなかった。


 ~ ~ ~


<ちくしょー、しくじった! でもおかしいなあ。仮にプロレスについて詳しいことを知らなくて、危険な技を相手を潰すつもりで掛けているんだと思っていた人がいたとしても、そういった面々にもプロレスの仕組みが分かるように、ゆっくりと説いたつもりだったんだけど、伝わらなかったか?

 いやいや、それにしたってゼロはないでしょう、ゼロは。あんなに大勢の生徒がいるのだから、その中には、とっくの昔にプロレスのからくりを知っていて、技を受けるぐらい楽勝だぜってのが絶対にいるに違いないのに。んで、そいつが知り合いを誘えば、最低でも十人や二十人はほいほいと集まって、参加してくれると睨んでたんだけどなあ。

 どこで計算を間違えたんだろ、俺? やっぱ、痛くて怖いのはだめなのか? 負けたら死ぬゲームで、死ぬかもしれない前にわざわざ痛い目に遭いたくないってか? けど、聞いたところでは、他の格闘技系のゲームには、それなりに参加者が集まったというじゃねえの。まさか、パイの奪い合いになり、プロレスよりも他の格闘技だってことで、人気で負けたのか?

 いやいやいや、それでもやっぱり変だろ! 誰も来ない、ゼロって! ああ~、もうおしまいだ!>

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