第15話 『15日の日曜日』-1

四.デスゲームその4『15日の日曜日』

<まず、ゲームの名称について、由来というかそこに込めた意味を簡単に述べます。たいした意味はなく、ほら、スプラッター映画で超有名な作品がありますでしょう、曜日の付くやつ。あれを洒落たんです。最初はね、一日ずらしただけにしようかと思ったんですが、幼い頃に聞いた話を思い出しまして。『14日の土曜日』という映画があるんだって、聞いた覚えがある。観たことはないんですが、“十三日の金曜日が何事もなく終わって、無事に十四日の土曜日を迎えられて喜んでいたところを、殺人鬼に襲われる”というストーリーらしいんですよ。で、確かめておこうと思ってネット検索したんですが、見付からない。『新・14日の土曜日』なるタイトルの作品は見付かるんですけどね。新があるなら、無印の『14日の土曜日』があってしかるべきだと思うんだけれども、何故か見付けられない。無印のがないのならそれを使いたい未練もありましたが、詳しく調べる時間がなかったもので、こうなりゃ二日ずらせばいいだろってことになり、『15日の日曜日』に決定した次第です。

 以上、どうでもいい話でした。

 さて、ここまでの前振りでお分かりでしょうけれども、用意したデスゲームは、殺人鬼が登場します。正確には、まだ殺人鬼ではありません。これから殺人鬼になるのです。

 とっておきの人物を用意したのは断るまでもないでしょう。それでも倒せる自信があるのなら、反撃してくださって結構です。ただし、二人掛かり、三人掛かりといった複数人が組んでの攻撃及び武器・凶器の類の使用は禁じます。

 競技エリアに関してですが、会場の規模は参加人数にも拠るのでまだ決まっていません。現時点では、他のデスゲームで使わない校舎ひと棟全体を競技エリアにする予定です。その棟内であればどこに隠れても自由です。一歩でもはみ出れば失格とします。外壁に掴まる・張り付くのもおやめください。殺人鬼に狙われるのとは別の意味で危ないし。あと、屋上は含めないので、ドアは封鎖しておきます。

 ゲームは六時間、殺人鬼から逃げ切れば合格。あるいは時間内に、他の参加者二名以上を殺害できれば、特別に合格としましょう。その場合、支給する携帯端末を通じて本部に申告し、こちらで確認が取れたらOKの返事をしますので、校舎の外に出てきてください。

 最後になりましたが、一番大事なことをお伝えします。殺人鬼はいかなる姿形をしているかについて、皆さんに与えられる情報はありません。皆さんと同じような年格好で紛れ込んでいるかもしれませんし、分かり易くアイスホッケーのマスクを装着しているかもしれません。たとえ知り合いであっても、安心できるかどうか分かりませんよ? 私どもがこっそり、あなたの知り合いに殺人鬼役を依頼しているのかも……。

 きついルールに感じた人もいるでしょうけど、逆に言えば、皆さんが団結して信用し合えば、犠牲者は最小限で済むでしょうね。

 裏切って殺す側に回るのも、簡単にはできないんじゃないかな。よっぽど不意を突かない限り、周りからは殺人鬼だと思われてしまう。そうなったら、安全に校舎外に脱出するのが難しくなるのは必至です。

 以上がルールのすべてです。あとは参加者の皆さんに委ねます。いかかがです?>


 田口諒たぐちりょうは『15日の日曜日』のルールを聞いて、これならいけるかもしれないと考えた。生き残れる人数が多くなる可能性がある上に、自分達の数的優位を活かせる、と。

(信頼のおける顔見知り、仲間が十五人いる。自分を入れて十六名で参加すれば、少なくともその十六人は信じ合えるだろう。十六人いれば校舎の一角を占拠することもできるんじゃないか? そうすれば立てこもり状態になり、内部は安全と言える。武器や凶器の使用は禁止と言っていたが、道具にまでは言及がなかった。つまり、机や椅子、ロッカーなどを使ってバリケードを築くのはありと解釈できる。トイレが確保できないだろうが、六時間なら我慢するか、そこらで用足しすればいい。生き残るためには何でもやれる。

 問題があるとするなら、主催者が言っていたように、仲間の中に、依頼を受けた殺人鬼がいる場合だが、可能性は低いだろう。万が一いたとしても、十五対一の状況になるのだから、こちらが有利。複数の攻撃はだめだが、次から次へと攻撃するのは許されるはずだ。

 よし、いける。賭けてみよう)

 意を固め、仲間を誘って参加を決めた田口だったが、ゲーム開始直前になって、誤算が一つ生じた。参加者各人は指定された場所に行き、そこでスタートの合図を待たねばならなかったのだ。

 聞いてない!?と焦った田口らだったが、急いで対策した。ゲームが始まったら速やかに一つの教室に集まるように決めたのである。三階建ての校舎のどの教室にするかは迷ったが、どうせ校舎を出たらアウトなのだから、階数は関係ない。全員が満遍なくばらけたとして、皆が集まりやすいであろう二階の最西端の教室を選んだ。

 田口らを含む三十三名の参加者が順次、競技エリアのどこかへと配され、程なくして、ゲーム開始の合図が鳴った。天気は曇天で、校舎内の灯りは落とされているから薄暗かったが、それでも五分と経たない内に約束した教室に、十六名全員が集合できた。幸い、田口ら以外の参加者は、近くにはいない。計画実行に速やかに移れた。

 机と椅子、ロッカーに教卓と動かせる重量物はすべて動かし、教室の前後にある扉を中心に塞いて行く。廊下に面した窓はほぼガラスだから、そこの補強に段ボールを貼り付け、さらに室内の壁に沿ってバリケードを築く。

 ちょっとした発見があったのは、教師用のデスクを動かそうとしたときだった。田口は少しでも動かしやすいようにと、一人で机上の小物を片付け、次いで抽斗の中身をかき出そうとした。

(ん? これは)

 目に留まったのはカッターナイフ。スライドさせて刃を出す、お馴染みのタイプのあれだ。色はグレーであまり目立たない。

(武器になるかもしれないが、使えないんじゃあな。でも、一応持っておくか。どうせ死ぬなら禁じ手覚悟で反撃したくなるかもしれん)

 死なばもろとも、相手――殺人鬼を道連れに。仮にそれがなれば、他のみんなを救うことにもなるのではないか。ひょっとすると、主催者が認めず、新たな殺人鬼を投入するかもしれないが。

 田口は懐にカッターナイフを仕舞うと、デスクを動かしに掛かった。

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