第14話 『さんかく関係』-2

 二人――志村と徳生が連携して、有馬を集中攻撃しているように思えた。

 もちろん、勝負の最中に相談をして同盟を組んだ訳ではない。よいカードに恵まれなかった有馬の隙を突き、二人がいわゆる阿吽の呼吸で手を組んだと見なすのが妥当に感じられた。

「……どうした? 早く配ってくれよ」

 徳生が促す声に、有馬は我に返った。“親”役が回ってきていたのを忘れていたが、素知らぬふりでカードを配り始める。ただし、これまでに比べてゆっくりと。

「……二人に聞きたいことができた」

「何だ」

「徳生と志村さん、二人が組んだ理由は?」

「……逆に聞くが、俺と彼女が手を組んだと判断した根拠は、何かあるのか」

「ないな。状況証拠のみだ。その前に、勘違いしないでくれ。君らを非難するつもりはない。このデスゲームにも、UNOのルールにも、プレイヤーが組んではならないとは定められてないだろうさ。暗黙の了解と言われたら、どうしようもない。ただ、どうして僕が仲間外れにされたのかなと思ってな」

「仲間外れ?」

「組むのなら徳生と僕という組み合わせもあるし、もちろん僕と志村さんという組み合わせもある。僕が外された理由があるのなら、聞いておきたい。たまたま、負け始めていたからか?」

「いや。最初の段階で、二人のどちらがいい手が来ているのか、分かりようがない。通しのサインでも決めていない限り」

「そうか。だったら、分かった」

「何?」

「説明しなくても分かるっていうの?」

 徳生に続いて、志村も驚きを露わにする。有馬はカードを配り終えてから、己の推測を確信を持って口にした。

「恐らく、当たっているだろうさ。僕なら殺せる、と考えたんだろ?」

「「――」」

 緊張感の走った表情で、徳生と志村が顔を見合わせる。二人とも同じ考えだったのがよく分かる反応だ。と言っても、徳生と志村達も互いにいかなる思惑でいたのか、具体的には分からなかったはず。以心伝心なんてこともなく、せいぜい、直感したというレベルだろう。

「このデスゲームだと、三人の中の二人が組み、一人を陥れてもあまりメリットがない。何故なら、無条件で勝ち残れるのは一人だけだからだ。二人の内のどちらか片方は二位になり、三位をその手で殺さなければならなくなる。見ず知らずの他人や恨んでいる相手ならまだしも、知り合いを殺害するのは精神的な負担が相当でかいと思った。だったらせめて、少しでも殺しやすい、殺すのに躊躇いが少ない奴を三位に落とせば、ましになる」

「……」

「この考え方に倣うと、とりあえず、僕と徳生が組むのはあり得なくなる。志村さんをこの手で殺すなんて、僕も君もできっこない。となれば、だ。志村さんと僕ら男のどちらかが組むしか、選択肢はない。そして志村さんは自分が殺す立場に立たされた場合を考え、徳生よりも僕が三位になる方が精神的な障壁が低いと判断した」

「そこまで分かっていて、なおかつそれを敢えて言うということは」

 志村が口を開いた。手にはカードを持って、扇形に開いているが、まだ見ていないようだ。

「何らかの打開策を思い付いたとでも?」

「いいや」

 有馬は俯きがちになり、首を左右に振った。

「課せられたルール下で、二人に組まれたら、残された一人が圧倒的に不利。これは動かせない。百パーセント負けるとは限らないが、勝てる可能性が極めて低いのは計算するまでもないだろ」

 これがもし、ローカルルールのUNOであれば、もう少し勝ち目が出て来るかもしれないなと、有馬は思った。

 世間に広く行き渡っているであろう、ドロー2を食らってもドロー2(ドロー4系を含む場合もあり)を出せるのならペナルティを回避できる、あるいはドロー4系を食らってもドロー4系を出せればペナルティ回避が可能とする、いわゆる“ドロー返し”とか“ドロー重ね”等と呼ぶルールは、公式ルールにはない。もしドロー系のカードによるペナルティを回避できるルールなら、組んだ二人による同士討ちが起こり得るのだが。

「もう少し、マジックの練習をしておけばよかったとも思ってるところだ」

「マジック? 何で」

「マジックと言ってもカードマジックな。あの手さばきを究めていたら、今みたいに配るときに、イカサマができるかもしれないだろう?」

 有馬の台詞に、今度は二人ともぎょっとして、各自の手札をじっと見つめた。

「冗談だ。何もしてない」

「しかし……」

 徳生がふと、気弱な調子でを口走った。どうやら本当に悪い手が来ているようだ。偶然なのは言うまでもない。有馬はカードマジックもイカサマの手口もほとんど知らないし、知っていても実際に手を動かすとなると話は別だった。

 しかし。

(手札が悪くて、動揺しているのなら、こっちももう少しあがいてみるか)

 有馬は絶望の淵で踏みとどまり、決意を固めた。



 ~ ~ ~


<三人中、二人が助かると言えばかなり大勢集まると思っていたから、まあ人数の点では、狙い通りだったかな。その反面、デスゲームとしては比較的安全で、つまらないものになりかねない。だから、人間ドラマってやつを利用しようと考えた。つまり、三人ができる限り知り合いや顔馴染みになるよう、故意に組み合わせてみた。こちらとしては、葛藤する参加者がもっと大勢出ると予想していたのだけれど、案外だったなぁ。全然躊躇わずに殺せる奴が何名かいたし、謝りながら殺すなんて質の悪い連中もいた。逆に、相手の悪いところをいちいち挙げながら、という輩は、そうでもしないと殺人に踏み切れないのかな。何にしても、皆たいていは一見、人畜無害な顔をしてるのに、怖いなあ。>

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