第13話 『さんかく関係』-1

三.デスゲームその3.『さんかく関係』

 有馬寛満ありまひろみつは、『さんかく関係』というゲームに出場を決めた。すべてのゲームについて説明を聞いた上で、参加者数に対する想定死者数がなるべく少なく、かつ、自分の得意なジャンルに思えたからだ。

 『さんかく関係』は参加者が三人一組に分けられ、その三人で勝敗を決する。死ぬのは三人中の少なくとも一人、多くて二人。ではいかにして死ぬべき敗者を決めるのか。

 三人であるゲームを行い、トップを取った者は無条件で合格、生き残りが決まる。残る二人の内、三位の者は死亡確定。二位になった者は三位の者を殺すことができれば合格。できなければ、他の組みで二位となり、かつ三位の者を殺せなかった者とで争う。

 ルール説明の際、有馬の頭にはいくつかの疑問が浮かんだ。まず、二位が三位を殺すことが勝ち抜けの条件としているのが不思議だった。というのも、殺すと言っても二位と三位でやり合えというわけではなく、拘束された三位の者を、二位の者が用意された道具を使って刺殺するか絞殺するか、あるいは焼き殺すかを選び、十分以内に実行するシステムになっていたからだ。

(自分の命が懸かっているんだ。追い詰められたら、どんなに気の弱い人間であろうと、最終的には相手を殺す。決まっている。そりゃあまあ、中にはいざその立場になって、躊躇を覚える場合もないとは言えないが、時間を区切られたなら絶対にやる。それに、このルールの存在を知った上で参加を決めた者ばかり集まるんだ。躊躇なんて、しない輩の方が圧倒的に多いだろうよ)

 疑問ではあったが、この点については有馬は楽観的だった。腹を括っている。

 もう一つの疑問は、何故、わざわざ二位の者に三位の者を殺させようとするのか。死者を多くしたいのなら、一位の者だけを助け、二位と三位は問答無用で処分すればいいのではないか? こちらの疑問に関しては、うまい仮説が見付からなかった。せいぜい、このデスゲームを考えた奴が嗜虐趣味の持ち主で、素人が素人を殺さねばならない状況に追い込まれる様を見て、楽しみたいという狙いがあるんじゃないか……と想像した程度にとどまった。

 今の状況下で、納得の行く答を得るまで考えるなんて悠長なことは、許されない。じきに、『さんかく関係』が始まる。

 スタートは当然、組分けから。総参加者数は、運よく、三で割りきれる数になったらしい。余りが出た場合、抽選によってあぶれた者が二人なら直接命の取り合いをし、あぶれた者が一人なら無条件で敗北扱いになると定められていたから、その危険を回避できたのは幸先がよいと言っていいのではないか。

 しかし、組分け自体は、有馬にとって決して幸先いいものではなかった。競争相手として手強いとかどうとかではなくて、知り合いと同じ組になってしまったのだ。仲の悪い喧嘩相手なら、たとえ知り合いだろうと気にならないんだが、抽選の結果組まされたのは、昔なじみの二人だった。

 志村しむらさやかと徳生稔とくしょうみのる

 本当に古くからの知り合いで、小学校や中学校時に同じクラスになったことすら何度かある。それ以降は同じクラスにはならなかったが、会えば話し込む程度の付き合いは続けていた。

「意図的なものを感じずにはいられないな」

 勝負が始まる前、三人で顔を見合わせる中、徳生がぽつりと言った。

「意図的……主催者がわざと俺達三人をひとまとめにしたってことか」

「決まってるだろ。他にも幼馴染みだらけならまだ分かるが、実際にはこの三人だけだ。それが一つの組にかたまるなんて、全参加者数を考えれば、まずあり得ないだろ」

 参加総数は六十名と発表されていた。どうやら、今回用意されたデスゲームの中でも、参加者の多さはトップクラスらしい。

「確率、計算してみるか」

「ばかばかしい。確率が低かろうが、偶然そうなったと言われりゃそれまで。他の三人組に、知り合い同士がどれくらいいるかを聞いて回ったら、多少はましな証拠になるかもしれないが、それでも変更は利かないだろうな」

「そうか」

 計算の得意な有馬は、意気消沈した。でも、徳生の言っていることが正しいんだろうなとも思う。

「誰か一人は確実に死ぬのだから、イカサマも合意のしようがないわねえ」

 時間を気にする様子を見せつつ、志村さやかが言った。

 イカサマという表現に、有馬だけでなく徳生までもぎょっとした顔つきになる。

「どうかした? あっ」

 当の志村は自分の表現が場に与えた影響を一拍遅れで気付いた様子で、口を右手のひらで覆った。

「別におかしな意味で言ったんじゃあないよ。普通、賭け事ではイカサマを心配して、知り合い同士を組ませるなんてこと、胴元が嫌がるに決まってるのに、このデスゲームだと通用しない。そういうつもりで言ったの」

「ああ、分かってる」

 そのときは有馬も徳生も納得した。

 ところが。

 三人の順位を決めるゲームが始めると、進むに従って疑念が湧いてくることになる。

 ゲームは最早古典的なカードゲームと言えるUNOだった。公式ルール(付属の説明書にあるルール)に則り、UNOを十三回戦行い、集計点の高い順に1~3位になる。

 序盤の三戦まではそれぞれ一人一回ずつ一抜けし、得点も大差がなかったが、第四戦以降、段々と差が付いてきた。

(まずい)

 八戦目が終了した時点で、最下位になったのは有馬だった。依然として一勝止まりの上、負けのポイントもどんどん膨らんでいる。

(運が悪いだけでは済まされないレベル……これは二人が組んだか?)

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