第5話 日常1

(あ〜今日も仕事が減るどころか溜まっていく一方だ、、。)


キーボードに貼り付けた小さな付箋紙は10枚では収まらなくなった。


部長決裁印を代理押印する担当者他、直属の係長や課長、決裁する当の部長含め10人近くをC.C.に名前を連ねたメールの本文を打ち、添付した見積書のPDFをもう一度確認すると、送信ボタンを押下した。

一つ片付けたから付箋紙を丸めた。次に席を立つ時にゴミ箱へ捨てよう。

事後発注だの有効期限だの不備を指摘されて2回目に送信したものだった。何度言っても見積書などすぐに送ってくれる外注先は少ない。この見積書は、1ヶ月前に発注した時に送ってほしいと伝え、二週間経ってもまだ貰えず、請求の締切になってようやく取得できたものだ。それが不備があるからと再度訂正して作成し直してもらった。料金協定を結んでいない費用であるがしかし、見積がいるほどの金額でもないと正直思う。こんなやり取りしている時間と労力があったらもっと売上伸ばせるのに、、。


私は会計システムへ、消費税の誤差に気を配りながら細かな数字の入力作業に取り掛かった。早くしなければ経理の締切に間に合わない。しかし、一つ一つきちんとこなしていかなければ後になって数字が合わない方が時間を取られる。


「鴨田さ〜ん。川上主任からお電話です」

「あ、はい」


「お電話代わりました。鴨田です」

「あ、鴨田さんお疲れ様です。川上です」

「お疲れ様です」

「あの〜先ほどメールも入れたんですけど、田中工業のお盆の間の対応費用、、」

メールを見ると、まだ着任して職務経験の浅い川上主任から夏季休業中の対応について相談が来ていた。

「あ〜。それ、今から別件でちょうど田中工業に見積貰おうと思ってたんでついでに話ししときましょうかね?」

「あ〜そうですか」

「田中工業の社長は、後でブツブツ文句言ってくるんで先に話をある程度しておかないと面倒なんで」

「鴨田さんから言っておいてもらえるならその方がいいですかね」

「わかりました。金額の話し、詰めておきますね」

「すみません。よろしくお願いします」

「いえ、はい」

「あと、この費用を銘打っちゃうとまずいでくれぐれも、、」

「ああ、はい。大丈夫ですよ」

「はい、じゃあよろしくお願いします」


「お世話になっております。鈴木電気の鴨田です」

「ああ、鴨田さんお世話になります」

「あの〜お盆の間対応していただく件なんですけれども〜金額の方ってどうですかね?」

「え〜それはですね。まあ何もなければ基本料金の3万円でいいんですけどねぇ」

「まあそうですよね。当日何があるかわからないですもんね〜でもすみません。うちの会社最近うるさくなってしまって、先に金額をご提示していただかないと上への説明が難しくなってしまうので、、」

「いや〜基本はやりたくないんですけどね、うちも。でも御社もそういうわけにもいかないんですもんね〜?」

「そうなんですよ〜お客さんから対応できないのか?って言われてしまって、、費用の方は休日作業費ということで諸々含めていただいていいので当日時間がかかってしまうようでしたら、追加費用として設定させてもらって、といった感じで見積書を先にお願いしてもいいですか?」

「え〜まあこればっかりはやってみないと分からないですからねぇ。」

「そうなんですけど、そうすると私が部長にそれを説明してってなってまたうるさいんですよ〜なかなか決裁もらえないので〜」

「鴨田さんが説明するんじゃなくて川上さんがしたらいいんじゃないんですか?決めてるのは川上さんでしょう?」

「まあそうなんですけど、川上も色々策を講じてくれた結果これしかできないってことでこんな感じになったんですよ〜私がクッション材になってやってるんですよ〜笑。それで、、う〜ん、、?1時間の単価を決めて、何かイレギュラーな事があったらそれで費用を請求してもらうってことでもいいですか?」

「まあ〜それならこちらも大体労務費とか分かりますから、それで単価設定しましょうか。うちもね、これで儲けようとかは思ってないですからね。」

「はい。ありがとうございます。ではそれでお願いします」


「お疲れ様です。鴨田です」

「お疲れ様です」

「田中工業の社長、基本3万円であとは1時間4000円でいいそうです」

「そうですか。ありがとうございます」

「見積もらうようにするので、またお願いします」

「わかりました、ありがとうございます」

「いえ、それでは失礼します」


今から見積書作成依頼のメールを田中工業へ送るか。あ、その前に会計処理がまだ途中だったからやらないと。


入力作業をしていると、法務部の課長からのメール通知が画面の下に表示された。契約書の製本指示のメールだったが無視して入力作業を続けた。


入力作業の途中でメールの受信トレイを開いてみると今度は別の顧客から、昨日からやり取りしている続きのメールが来ていた。

ため息を吐かずにはいられない。


再び入力作業をしていると、また川上主任から電話が来た。

一つ嬉しいのは新人さんが二人入って電話を取ってもらえることだ。

今までは私がかなりの数の電話に出ていた。その都度、作業は止めなければいけない。


「変わりました鴨田です」

「川上です。お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「あの〜さっきデータの切り取る分を間違えて入れてしまったものがあるんですけど、、メニューに戻ってもデータが入ってないんですよね、これどうやってやるか知ってますか?」

「いや〜それ私見た事ないんでちょっとわからないですね〜そのシステム作ったの、システム部の加藤さんなんで加藤さんに問い合わせてもらっていいですか?」

「そうですか、わかりました。ありがとうございます」

「いえ〜じゃあ失礼します」


(え〜と、私何やってたっけなぁ)



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