007●第一章⑤Hはおあずけ〈20240916再修正〉
007●第一章⑤Hはおあずけ〈20240916再修正〉
我輩の
中世風異世界なんて、現実はだいたいそんなところだ。我輩の
我輩は、目の前にずらりと並ぶ美乳の女性たちに片手をかざして、今一度シェイラに問うた。
「こういうことは、エリシウム公国の一般的な社会的儀礼なのかい? つまり、
「いいえ」と、シェイラはさきほどからの微笑を一リミメルトも変えることなく、機械的に答える。「先代の
「げっ、一人で毎晩!?」
「はい、基本的にそうですね」
我輩はさすがに驚いた。先代のドスケベ
「いくら精力絶倫でも、毎夜の如くにこんなことに手を出して、自分だけヤリまくりとは……しかも暴行傷害、法律的にはきっと犯罪行為だろうよ。よく世間にバレて摘発されなかったものだ」
「あ、先代の
シェイラの言葉の末尾の「ので」は意味深だ。公国の行政トップであるウーゾ宰相以下、政府の重鎮から、官憲を束ねる
……この国、ひょっとすると芯から腐りかけているんじゃないの?
僕はそう思わざるを得なかった。
とはいっても、
そこで納得できた。そうか、だからリーチャー・プッチャリンの“
しかし上演を続けるためには、“じつはウーゾ宰相も大臣たちもベジャール長官もスケベフレンドでした”……と暴露するわけにはいかない。おそらく、ウーゾ宰相やベジャール長官に睨まれたら上演は即刻中止で、リーチャーは獄中で続演するしかなくなるだろう。独房内の一人芝居で。
だから劇場の芝居では、あくまでも
それでは今宵、俺が下半身の欲望の赴くままに
きっと数日後には、リーチャーの芝居の
シェイラはこの本丸ビル、すなわち
やれやれ、転生早々に、そんな連中と一緒にされてたまるものか。
こうなると、俺の情欲は後ろへ引っ込んだ。
ここで欲望に身を任せたら、早晩にして身の破滅を招く。
ちょっと悲しいが、お楽しみは当分おあずけだ。
「わかった」と我輩はシェイラに確認した。「このお遊びが先代の
「もちろんです、猊下。いかようにも御意のままに」
我輩は全員に聞こえるように、声を張り上げた。
「ならシェイラ、命ずる。
「
バシッ! と、神経に障る衝撃音が響いた。
どこから出したのか、シェイラは長い皮の鞭で床面を叩いていた。その態度で誰からも一切の反論も質問も許さないことを示して、動揺する
「みなの者、耳にした通りである。ただちに控室へ退出し、平服に戻りなさい! 契約は月末まで有効のままとし、基本報酬は支払う。のちのことは追って沙汰する」
「おおせのままに、補佐官さま!」
「猊下、ただ、ひとつ課題が残ります」
「なんだね?」と我輩。
「あの
俺はようやく思い当たった。そうだ、この異世界では、クビになった
「結局、春をひさぐことに変わりはないのか?」
陰鬱な言葉を漏らした我輩に、シェイラは頷きつつもほほ笑んだ。
「できることはいたします。善後策は城内の事務管理チームで立案し、早急にプランABCを上程させていただきます」
そう答えるシェイラを見て、あ、この笑顔は……と、僕は悟った。
蔑みでなく、リスペクトの笑顔だ。
シェイラ自身も、先代の
今は露骨に口に出すことはしなかったが、目元と口元が十分に語っていた。
ありがとうございます、猊下、と。
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