第63話 エミルの全力
その場にいる全員が何もせず静かにエミルとシュロカの戦闘を見守っている、正確には誰も何もできなかった。
一人と一匹の戦闘は目で追うことができず、目の前には青白い光の線と緑色の残像が何度も交差しながら休みなく動き回っている、時折響く金属音によってその光景が辛うじて戦闘だということを物語っていた。
しばらくの間全員が瞬きを忘れて見入っていると突然アオバが後方に張った水の壁に向かって猛スピードで細長い物体が飛んできた。
強い衝撃音をあげて地面に落ちたそれはシュロカの足だった。
足を一本失いバランスを崩したシュロカは転倒し建物の壁に衝突した。
「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「エミルさん!?」
大きく肩で息をしながら中央に立っているエミルの手足は血だらけで皮膚が裂け、千切れた筋肉が少し見えている。
転倒したシュロカは残った五本の足で立ち上がろうとしている、それを見ていたエミルの手足が青白く光ると一瞬で距離を詰め残りの足も関節から切り落とした。
関節から先の足を失ったシュロカは地面に落ちて短くなった足を必死に動かしている、エミルは振り返り、アオバ達の方へと歩き出そうとしたがその場に倒れ込んでしまった。
「エミル!」
「エミルさん!」
アオバとリリが倒れたエミルに駆け寄りリリがエミルを抱きかかえた。
「ごめん、魔力切れみたいだ…二人は怪我はない?」
「どう見てもアンタが一番ボロボロじゃない!アオバちゃん、急いで治療院につれて行こう、私が案内するから!」
「分かりました!」
ボロボロのエミルを運ぶためアオバ号を作り出そうとしたその時、動けなくなったはずのシュロカが突然お腹を地面に擦りながら突進してきた、先程までのように目で追えない程の速度ではないが距離が近過ぎて回避や防御が間に合わない、大きく開いたシュロカの鋭い顎が迫ってくる様子に三人は死を覚悟したが、シュロカは三人のギリギリ手前で停止した。
屈強な男達がシュロカを止めてくれたのだ、少し遅れて来た男がシュロカの首を切り落とす、シュロカの頭は切り落とされたにもかかわらず顎をカチカチと動かしていたが数秒後には動かなくなった。
「ありがとうございます!助かりました!」
「良いから早くそいつを治療院につれていってやれ、後処理はやってやる」
「お願いします!」
三人はアオバ号に乗って治療院へと向かう、エミルの顔色は悪い、その原因が魔力の使い過ぎなのか血の流し過ぎなのかは分からないが意識ははっきりとしているのですぐにどうこうなる状態ではないだろう。
治療院に到着してすぐに受け付けの職員にここまでの経緯を話すと個室のベッドに案内された。
個室の中には観葉植物が壁に沿って沢山置かれており、部屋の片隅には水の入ったバケツが置かれている。
「すぐに聖魔法を使える職員を呼んでくるのでこちらでお待ち下さい」
職員が出て行くのを見送ってリリに質問してみる。
「聖魔法って見たことないんですけどどんな魔法なんですか?」
「聖魔法は全ての魔法の中で唯一相手の体内に干渉できる魔法だよ、傷を癒す力があって適正がある人がほとんどいないのが特徴かな」
「それはすごいですね!」
「聖魔法の適正があるだけで治療院が優遇して雇ってくれるから適正を持っている人は基本的には治療院に就職する人が多いらしいよ」
そんな会話をしていると個室のドアが開き、職員が女性を連れてきた。
入ってきた女性はすぐにエミルの傷口に手をかざす、白い光が傷口に入っていくとゆっくりとだが目に見える速度で傷が治っていく。
「聖魔法は対象者の自己治癒力を強化する魔法ですのであなた自身の体力が削られます、しばらくはこの部屋で安静にしていて下さいね」
エミルの傷が全て癒えたのを確認して職員達は出ていった。
アオバ達はエミルの体力と魔力回復のためしばらくの間治療院の個室で休憩することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます