第57話 エミルの家族

 エミルが家のドアを開けると一人の少年が机に向かって座っていた。

 その見た目は男装しているエミルをそのまま幼くした様な外見で非常に可愛らしい少年だ、年齢は恐らく中学生ぐらいだろうか。


 「『エラン』ただいま」

 「エ、エミル姉ちゃん!?それにリリ姉ちゃんも!?それと…」

 「この子はアオバだよ、今一緒にパーティーを組んでるんだ」

 「よろしくねエランくん」

 「は、はい…」


 エランは立ち上がり歩いてこちらに近づいてくる。


 「帰って来たの!?もう帰らないって…」

 「うん、久しぶりだね、元気にしてたかい?父さんと母さんは?」

 「魔物小屋近くの研究所にいるはず!呼んでくるよ!」

 「一人で大丈夫かい?」

 「うん!ちょっと待ってて!」


 エランは走って出ていってしまった。


 「弟さんがいたんですね」

 「最後に会ったのはこの国を出ると言いに来た時だからもう3年前になるね」


 そんな会話をしているとポテポテと家の奥から明るい茶色の毛玉が歩いてきた、先程見たピルヤという魔物だ。

 ピルヤはまっすぐエミルの足元へと駆け寄って来た。


 「お、『ピルット』元気にしてたかい?」

 「可愛いいい!ピルットちゃんっていうんですね!」

 「触ってみるかい?」


 アオバは恐る恐るピルットの背中を撫でようと手をのばす、ピルットはアオバの手に興味津々のようだ。

 細長い顔の先端に付いている小さな鼻でアオバの匂いを嗅いでいる、アオバがピルットの背中に触れるとそのふわふわした感触に自然と頬が緩む。


 「ふわぁぁ、気持ちいい!」

 「ピルヤと戯れるアオバちゃんの緩みきった顔が可愛いね」

 「確かにね」


 アオバが二人の会話も耳に入らないくらいピルットにメロメロになっていると勢いよくドアが開かれた。


 「エミル!本当に帰ってきたんだな」

 「夢じゃないのね…」

 「二人共大袈裟だね、ただいま」

 「それにリリちゃんも久しぶりだね、それと…ん?」

 「黒い髪…」

 「アオバと申します、始めまして」

 「アオバは一緒にパーティーを組んでいる仲間だよ」

 「そ、そうか、よろしくね僕は『ラース・ポルネク』だ」

 「私は『ミーシャ・ポルネク』です、よろしくねアオバちゃん!」

 「はい、よろしくお願いします」


 ラースは流石エミルの父と言うべきか、とても整った容姿をしている、眼鏡の内側の目は少し鋭くてかっこいいイケおじって感じだ。

 ミーシャもエミルの母親というより姉という方がしっくりくる感じの綺麗で優しい雰囲気の人だ、目元以外はエミルによく似ている。


 軽い挨拶が終わると、ラースとミーシャはエミルに近づきギュッと力強く抱きしめた。


 「よく帰ってきてくれた、元気にしていたかい?」

 「また会えて嬉しいわ、おかえりなさい」

 「うん、ただいま…」


 しばらく抱き合っていた三人がゆっくり離れる、ミーシャは泣いてしまっているようだ。


 「もうこの国に戻ってくるのかい?」

 「いや、今回は王女様の護衛としてついてきただけだからまたアムセ王国に戻るよ」

 「そう…いつまでいられるの?」

 「2日後の朝にはアムセ王国に戻る予定だよ」

 「そうか…でもあの件はもう大丈夫なんだな?」

 「うん、心配かけたね…」


 しばらくエミルが近況報告などを話ているとエランがアオバをチラチラと見てきた、緊張しているのだろうか。

 アオバは緊張を解そうとエランに話しかけてみることにした。


 「エランくん、どうかした?」

 「いえ、えっと…何でもないです…」


 エランは顔を赤くしてうつむく、とてもシャイなようだ。

 エランの膝にはピルットが丸くなってリラックスしている、羨ましい。


 「エランくん、ピルットちゃん撫でて良い?」

 「う、うん…」


 エランの近くに移動して膝の上のピルットを撫でる、ピルットも気持ちよさそうにしている。


 「可愛いね!ピルットちゃんは何を食べるの?」

 「き、木の実とか果物、です…」

 「へぇー草食なんだね、ホノムとか食べるかな?」


 エランの顔が真っ赤になっているがアオバはピルットを撫でるのに夢中で気づいていない、そんな光景を見ていたリリはもやもやした感情を抱いていた。

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