第11話 ホーサノ

 アオバは街を出てから自分で作った水の板に乗って浮遊しながら移動していた。


 「アオバ、そんな魔力の使い方して帰りまで大丈夫なのか?」

 「たぶん大丈夫だと思います、二人も乗ります?」

 「いや、遠慮しとくよ、アオバが帰りに魔力切れになってたら困るし」

 「その時は私がおんぶしてあげるね!」


 サポーターの仕事内容を考えると素材を運ぶ帰りの方が重要と言える、そのためにもできるだけ魔力は温存しておくべきだ。

 そこを注意せず二人共もしものときはカバーしてくれるつもりのようだ。

 本当に二人はアオバに甘い。


 しかし実際、魔力の消費をほとんど感じない、水の操作と形状固定は消費魔力が少ないようだ。

 逆に水を生成するときは大きく魔力を消費する感覚がある。


 「今回は近場だから少しぐらい魔力を使っても大丈夫かな」

 「気になってたんですけどお二人はどんな魔法が使えるんですか?」

 「僕の適性は雷と風でリリは火、風、土の3種類の適性があるんだ」

 「えへへ、すごいでしょ!」


 リリは自慢げに胸を張る。

 管理者が3種類の適性がある人は極稀と言っていたのを思い出した。

 二人がどんな戦い方をするのか楽しみだ。

 そんな話をしているうちに森の前まで到着した。


 「さて、それじゃあ装備の確認をしてから森に入ろうか」


 二人は身につけた装備を点検する。

 エミルの装備は一本の剣と軽装の防具に金属の小手で機動力を重視した前衛装備。

 リリの装備は数本の投げナイフと同じく軽装の防具でそこに小さな盾が一つ、主体となりそうな武器を持っていないので恐らく魔法主体の後衛だろうか。


 「危険な場所に入る前に装備の点検を怠ると、もしものときに致命的な事態に陥ることもある、覚えておいてね」


 いよいよ森に入る、この森は人の手が入っていないらしく森の中は鬱蒼としていて薄暗くなっている、足場も悪く視界も悪い、迷子になったら大変だ。

 エミルがナイフで木に傷を付けながら歩いている、帰りの目印だろう。


 「ホーサノはとても耳が良い、姿が見えた時点で奴らはこちらに気づいている筈だ」

 「逃げられたりしないんですか?」

 「群れが小さければこちらが気づく前に逃げられるが大きな群れは返り討ちにしようと警戒しながら待ち構えているよ」


 しばらく森を進んでいると奇声が聞こえてきた。


 『ギィヤ、ギィヤ、ギィヤ、ギィヤ』

 「ホーサノの声だ、こちらに気づいたようだね」


 声のした方へと進むと20数匹程のホーサノの群れが見えた。

 ホーサノは全体的にチンパンジーの様な姿だが耳が大きく、喉が丸く膨らんでいる。

 短いが鋭い爪と叫ぶときに見える牙でこちらを威嚇している。


 「リリ、突っ込むから支援よろしく」

 「了解!」


 剣を構えたエミルの足が一瞬青白く光ると、目にも留まらぬ速さで一番手前にいたホーサノの後ろに移動する。

 通り過ぎたホーサノの首が飛び血が吹き出す、エミルは混乱して動けなくなった次のホーサノの頭を突き刺した。


 『ギャー、ギャー、ギャー』


 耳が痛くなるほどのホーサノの鳴き声が響くとホーサノ達はエミルを囲もうと動き出す。


 「させない!」


 リリがナイフを取り出すとリリの周りに風が舞う、ホーサノに向かって投擲したナイフは風のちからを受けて弾丸のような速度で飛んでいく。

 回り込もうとしていたホーサノの体に穴が開く、立て続けに3本投擲されたナイフは1本につき1体のホーサノを仕留めた。


 『ギィギィギィギィギィギィ』


 ホーサノの群れは大きな奇声をあげながら一斉に撤退を始めた。

 ほとんど一瞬で力の差を分からせたようだ。


 ガサッとアオバの後ろで音がした、振り返ると一匹のホーサノがアオバを睨みつけている。

 エミルとリリは他のホーサノ達の奇声で気づいてないようだ。


 『ギィーヤアアアア』

 「ひっ」


 アオバは後ずさるが何かに躓き尻餅をつく、ホーサノは牙を剥き出しにしてアオバに向かってくる。


 「キャァァァア」


 アオバはとっさに水で尖ったつららのような形状を作り向かってくるホーサノに放った。

 胸元あたりに命中した水のつららは予想に反して刺さることはなく命中した瞬間ただの水に戻ってしまった。

 ダメージは無かったが動きは止まった、次の瞬間青白い光が目の前に現れホーサノの上半身と下半身が別れた。

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