第9話 思うところと水魔法
エミルとリリはソファーに座って話を始める。
「どう思う?」
「少なくとも魔族には見えないし悪意があって騙してる感じもしないかな…」
「そこには同意見だけどアオバが言ってた『ニホン』や『チバ』という地名は今まで聞いたことがない、あの黒い髪もそうだ、あの子はどこから来たんだろう」
「何か言えない事情でもあるのかな…」
「どうだろう、元々気になるところはあったんだ、ノシムを初めて見たような反応をしたと思ったら遠くから相乗りのノシム車で来たって言うし、あの服もデザインは古いけど生地は新しかった」
「それは関係ないんじゃない?」
「違和感の話さ、普通の女の子ではないって事」
「うん、普通じゃなくて凄くかわいいからね!」
「いや、それこそ関係ないでしょ」
リリがパンッと一つ手を叩く。
「暗い話はおしまい!エミルもアオバちゃんが変な子だからって追い出したりしないでしょ?」
「まぁ、そうだね」
「だったら深く考えて疑ったってしょうがないよ!もう少し付き合っていけば何か見えてくるかもしれないし、今まで通り普通にしよう!」
こういう切り替えの速さと明るい性格はリリの長所だ、エミルが今まで何度も助けられてきた部分でもある。
「リリのそういうところ好きだよ」
「…口説いてるの?」
「そんなわけ無いでしょ、僕の好みはアオバみたいな落ち着いたタイプだからね」
「!?アオバちゃんは渡さないわよ!」
「冗談だよ、それじゃあアオバのところに戻ろうか」
ソファーから立ち上がるエミルをリリは訝しげな目で見つめる。
(本当に冗談なのかな、朝の雰囲気は完全に意識していたと思うんだけど…)
二人はアオバが待つリリの部屋のドアをノックしてから開ける。
ドアの向こう側にいたアオバは宙に浮いていた。
―――――
二人が話をする間一人取り残されたアオバはリリの部屋で悩んでいた。
先程からの二人の態度を見るに恐らく変に思われてるだろう、実際魔族ではないがスパイみたいなものと思われていてもおかしくはない、リリの反応を見ると魔族と人間は敵対している様だし。
「悩んでいても仕方ないか、結論を出すのは二人の方だし、出て行けと言うなら素直に出ていこう」
出ていくとなると今後お金が必要になる、幸い食事に関しては考える必要はないが問題は宿だ。
二人と一緒には行けなくてもサポーターの仕事は受けられるだろうからそれでお金を稼がなければ、そのためにも魔法の練習が必要だ。
魔法を使っているのを見たこともないがとりあえずアニメや漫画で見たようなイメージでやってみる。
「手の中に水を生み出すイメージ…」
何かが体中から手のひらに集まるような感覚とそれが大量に放出される感覚を感じると同時に手の中に水が生成された。
「おぉ、出た、今の感覚が魔力的な感じかな?」
水の生成に成功したので次の段階に進むことにする。
「確かギルドのお姉さんが水の板を作るとか言ってたな…」
生成した水を四角い板状に変化させるイメージをすると少しずつ魔力が放出される感覚を感じながらイメージ通りの形へと水が変化した。
触れてみるとガラスのように硬い、これなら荷物を置いても強度的には大丈夫そうだ。
実験的に何か乗せてみる事にする、目についたリリの部屋に置かれた小さな植木鉢を乗せてみるが特に変化はない。
「もっと重い物だとどうなるんだろう」
植木鉢を元の位置に戻し、目についたソファーを持ち上げようとしたがビクともしなかったため、水の板を操作してソファーの下の隙間に入れるとそのまま上に持ち上げる。
少しだけ放出される魔力の量が多くなった気がするが微々たるものだ。
「これに乗って移動したら歩かなくて良いのでは?」
ソファーを元の位置に下ろしてから宙に浮いている水の板に座る。
そのまま板を操作してみると自由に動かすことができた。
「おぉ、固くて座り心地は悪いけど良いね」
だんだん楽しくなってきたところでノックの音が響く、どうやら話が終わったようだ。
気持ちを切り替えて入ってきた二人に向き合う。
「お話は終わりましたか…お二人が出ていってほしいと言うならすぐにでも出ていきますよ…」
「あ、いや、そのことはもう大丈夫なんだけど…とりあえず地面に降りてくれるかな?」
「あ、すみません」
少し恥ずかしい気分になりながら水の板から降り、残った水をどうするか悩んだ挙げ句シャワールームの排水溝に流した。
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