第8話 食

 荷物が多くなったので一度宿に戻り荷物を置いてからもう一度街に出る。

 今度の目的は観光だ。


 「それじゃあ色々案内するよ」


 芸術家が建てた奇抜なデザインの家、リリのお気に入りのかわいい小物のお店、街の中央にある幻想的なデザインの噴水、至るところにある彫刻や絵画、ガラス細工等街中を見て回り、とても楽しく過ごせたのだが一つだけ気になることがあった。

 食べ物のお店が一軒も無かったのだ。

 アオバは流石に気になって遠回しに聞いてみる事にする。


 「この街の名産の食べ物ってあります?」

 「ん?名産って言ったら芸術品だけど…食べ物?」

 「えっと、二人は普段何を食べてるんですか?」

 「?何を言ってるんだ?アオバは普段から何か食べているのか?」

 「もしかして…魔族!?」


 話の流れがマズい気がする。


 「い、いえ、人間ですよ」

 「でも食べるって…」


 二人は食べるという行為自体に疑問を抱いている、この星の人間は何も食べずに生きているってことなのか?そんなことがあり得るのか?


 「えっと、正直に言いますと私がいた国では毎日食事を摂っていました、この国では食事をする習慣がないという事ですか?」

 「そうだな、この国どころか人間が食事を摂るってのは聞いたことがない」

 「そ、そうですか…」


 この星に来てから約一日程経ったが一度も空腹を感じていないのは食事が必要無いからだったのか。

 では何を糧にしてこの体は動いているのだろうか。


 「アオバちゃん、本当に魔族じゃないんだよね…?」

 「はい、魔族を見たことが無いんですが何か特徴とかあるんですか?」

 「魔族の特徴は、高い魔法の適性と魔獣のような角や羽根、尻尾なんかが生えていて動物や植物を食べるんだ」

 「そうですか、角とかは生えてないのでやっぱり魔族ではないです、私の故郷は変わった習慣のある国だったって事ですかね」


 二人はあまり納得している雰囲気ではないがこれ以上深く追求するのをやめてくれた。

 しかしこちらも納得のいかない部分があるので少し踏み込んだ質問をする。


 「人が生きていくには体を作る栄養が必要ですよね、人は何処からその栄養を摂っているんですか?」

 「…昔学校で習ったのは空気中の魔素を肺から取り込んで魔核の働きで魔素から体を作る栄養を生成しているらしい」


 管理者が魔法を使うのに必要と言っていた魔素と呼ばれる物資、火や雷等にも変換できるその物質はすごいエネルギーを内に秘めているのだろう。

 この星の人間に備わっている『魔核』という機関はそのエネルギーを体を作る栄養素に変換できるようだ。

 魔族は食事を必要とする事から栄養素に変換できるのは人間だけということだろうか。


 「変なこと言ってすみません、気にしないでください」

 「あぁ、分かった…」


 少し気まずさを感じながら観光を終え宿に戻ると、エミルとリリは二人で話があると言ってエミルの部屋に入って行った。

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