第3話 ノシム車内
ノシム車は意外と快適だった。
思ったより街道がきちんと整備されていたらしく、揺れも少なく音も気にならない程度、スピードは早くないが安定した力強い走りをしている。
荷台の隅の方に大きな袋が数個置かれており、中から動物の角のようなものが少しだけ顔を出していた。
ちなみにアオバはリリの脚の間に座らされて後ろからだきしめられている。
「それじゃあ色々聞かせてくれるかな?」
エミルが手綱を握りながら首だけ振り返り話しかけてきた。
「はい」
「先ずはさっき聞きそびれた出身を聞いても良いかな?」
「大丈夫ですよ、『ニホン』という国の『チバ』という村から来ました、すごく山奥にある田舎の村なのでこの国の常識は全然分からないんです…」
という設定にしておけば世間知らずでもあまり不思議がられないはず。
「へー、聞いたことない国だな、ここまではどうやって来たんだ?」
「えっと、、、相乗りのノシム車を乗り継いで来たんですけど、手持ちのお金が尽きてしまって」
そもそも相乗りのノシム車というものがあるのかすら知らないがでまかせで言ってみる。
「そうか、それであんなところに寝ていたのか」
どうやら上手く誤魔化せたみたいだ。
「この国には何しに来たんだ?」
「仕事を探しに来ました」
「へー、魔法の適正は?」
「魔法の適正は調べたことがないので分からないです」
そういえば管理者が魔法があるとか言っていたがどの属性に適性があるのか聞いてなかった。
「一度ギルドで調べてから適正に合った仕事を探すと良いよ」
「なるほど、手持ちがないのでできれば住み込みの仕事が良いんですが、そういう仕事ありますか?」
「だったら仕事が見つかるまで私が借りてる宿に一緒に泊まっても良いよ!」
リリが後ろから提案してくれた。
そろそろ背中が暑くなってきた。
「良いんですか?」
「もちろん!こんなに可愛いアオバちゃんが野宿なんてしてたら危ないもん!」
「でしたら仕事が見つかるまでよろしくおねがいします」
そんな二人のやり取りをエミルは怪しんだ目で見ていた。
それに気づいたリリが少し不機嫌そうな顔をした。
「何よ?」
「いや、なんでもない」
「安心して、アオバちゃんが嫌がることはしないから」
そう言うとリリはニコリと笑った。
何そのやり取り、ちょっと怖いんだけど…
小さくため息をついたエミルが前を向くと遠くに街が見えていた。
「ほら見えたよ、あれが芸術の街『スプレン』だ」
リリの拘束を解いて前方に移動すると、とてもカラフルで不思議な形の街が見えた。
「芸術の街ですか…」
「そう、この国の芸術家は皆この街で有名になることを目指しているんだ、だから街の中には彫刻や絵画が色んな所にあるし、有名になって土地を買った芸術家が奇抜な家を建てているから見て回るだけでも面白いよ」
「へー、面白そうな街ですね」
そんな会話をしていると再びリリに後ろから抱きつかれ拘束された。
「街に着いたら案内してあげる!かわいい小物が置いてあるお店とか、有名な芸術家の自宅とか!」
「その前にハンターギルドに依頼の報告が先だろ」
「えー、エミル一人でも大丈夫でしょー」
「アオバの魔法適性も先にギルドで調べてもらった方が良いだろ、それにリリと二人だと色々危ないし」
「それどういう意味よ」
「別に、ただ変なのに絡まれそうだと思っただけ」
「…まぁそれもそうね、しょうがないから一緒に行くわよ」
こうして三人の行き先は『ハンターギルド』に決まった。
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