第38話

「すいませんアニキ……」

「……………気にするな」


 帰り道。背中のアゲハがぼそりと呟いた。


 まだ全身がぴりぴりする。常に電気風呂に入ってるみたいだ。


「アニキがこんなに体を張ってくれたのです。いつかボクは、かならずやバーちゃんを制御してみせます」

「ああ、応援してる」


 茜色に染まった住宅街を歩きながら、俺は心からそうなって欲しいと願った。


「しっかし、いったいなにがトリガーなんだろうな」

「それは……恐らくなのですが……ボクが限界以上の力を欲しがったときなのかもしれません……」

「え? でも、腕立て伏せやマラソンの時は暴走しなかったじゃないか」

「あれは、自分の限界でいいやって思ってしまっていたのです。いつもは、その……アニキががんばれっていってくれるので……」


 俺の期待に応えようとして暴走してたってことか。


「そうだったのか……」

「はい……」

「俺は幸せ者だな」

「え? それは……どういう……」

「こんなに俺のことを慕ってくれる舎弟がいるってことがさ」 

「ア、アニキ……!」


 アゲハは背中に顔を押し付けてきた。


 恥ずかしがっているのかな。


「それにしてもお前も大変だよな。まさかエクスカリバーに憑りつかれるなんて」

「……実はボク、そんなに不幸だとは思っていません」

「そうなのか?」

「はい……だって……」


 アゲハは、急に黙り込んでしまった。


「だって、どうしたんだ?」

「……内緒です」


 アゲハは俺の首に回した腕を、ぎゅっ、と抱き寄せたのだった。

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