第43話

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 同時刻。


 都内某所のロイヤル・ホステスにて。


 三人娘たちはテーブルに置かれたタブレットピーシーを覗き込んでいた。


「なんっじゃそりゃああああああああ!」


 だぁん、と両手をテーブルに叩きつける陽詩。


 その顔は怒りで真っ赤に染まっている。


「まさかそうくるとは……」


 雫は頬杖をついて、呆れた様子で窓の外に視線を向けていた。


「流石ですアニキ。ボクとは比べ物にならない視野の広さです」


 アゲハはそういってはにかんで、ココアの入ったカップを口に運ぶ。


「わらわは認めぬぞ! 認めぬからなああああああああ!」


 陽詩の絶叫が店を揺らすも、客も店員も誰もが自分のもつ端末の画面に釘付けだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


「かの……さん……」


 俺の腕は完全にマイケルの胸を貫いている。


 心臓の部分になにやら固い感触があった。


 あの宝石だ。


 俺は迷わず握りしめる。


「こいつは渡してもらうぞ」

「イエース……十七夜月さんにお渡しシマース……がはっ!」


 マイケルは口の端から血を流しながら口元をつりあげた。

 

「まさか、このまま死ねるとでも思っているんじゃないだろうな」

「ハハッ、死なないはずがアリマセーン……」

「確立は……五分ってところさ!」


 強引に腕を引き抜く。


 マイケルの胸から血が吹きだし、彼は両膝を地面につけて倒れた。


 力の源である宝石を抜き取られたせいか、マイケルの体から蒸気が噴き出して元の姿に戻った。


 俺はすぐに治癒魔法を唱える。


「死なせねぇぞ馬鹿野郎おおおおおおお!」


 死者の蘇生。


 それは神に等しき行為だ。


 いくら俺が強くても、世界の常識を覆すことはできない。できないことがあるからこそ、俺は人間でいられるんだ。


「それでもやるしかない! やってやるしかない! そうだろみんなああああああ!」


”その通りだジャージ戦士!”

”あんたならできる!”

”マイケルを救え!”

”だれも死ぬところなんか見たくない!”

”俺たちに奇跡を見せてくれえええええええ!”


「おおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺の魔力に宝石が反応した。


 黒く淀んでいた宝石の表面がぱらぱらと剥がれ、下から純白の輝きが顔を覗かせる。


 やがて宝石が完全な白に染まると、俺の胸の中に溶け込むように入ってきた。


 直後、俺の治癒魔法によって発生していた緑色の光が強く瞬いた。


”なんだこりゃああああああ!”

”眩しくてほとんど何も見えねええええええ!”

”ちょっとまて、ジャージ戦士の後ろになにか見えるぞ!”

”あれは……時計?”

”ドデカイ時計が猛烈な勢いで逆回転してる!”


 俺の後ろに時計だと。いったいなんのことだかわからないが、いまならマイケルを直せる気がする。


 これが俺の新たな力だっていうなら、喜んで使ってやるだけさ。


「いっけええええええええええええええ!」


 俺自身ですら目の前が見えなくなるほどの光。


 やがて視力が回復してくると、そこには発達した大胸筋を上下させて横たわるマイケルがいた。


「よかった……」


 蘇生できた。


”やったあああああああ!”

”すごすぎる! すごすぎるぜジャージ戦士!”

”やべぇ、涙で画面が見えねぇよ……!”

”怪我を治したっていうより、肉体の時間を戻したのか?”

”すげぇ、すごすぎる”


 視聴者のみんなも喜んでくれてるみたいだ。


「はー、疲れた」


 こんなに魔力を使ったのは久しぶりだ。もう火の玉ひとつだせやしない。


 俺は大の字になって寝転がる。少し休んで、それからマイケルを背負って帰ろう。


 これにて、一件落着だ。

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