第41話

「ジーザス……」


 ダンジョンの五層に到着。


 暗闇エリアを魔法で作った太陽で燃やし尽くすと、マイケルは小さな声で驚いていた。


”おおおお、久々に上層階にきたな!”

”いつみても五層を殲滅するこの爽快感はたまらないぜ!”


 コメントが送られてくるも数は少ない。


「十七夜月さーん! あなたとってもお強いんデスねー! 尊敬デース!」


 両手にバンテージを巻きつけたマイケルが俺の肩をばしばし叩く。


 どうやらマイケルは格闘家のようだ。


「それほどでもないさ」

「いやいや、そんなことないデース! 羨ましい限りデース!」


 子供のように笑うマイケルをみて素直に嬉しいと思った。


 俺が戦うところをみて喜んでくれるなら、彼もまた俺の視聴者の一人だからだ。


 俺たちは六層へと上がった。


 城のような場所で、前と同じくミノタウロスがいる。


「ここはまかせてくだサーイ」


 マイケルが前に出る。


「大丈夫か? 結構強いぞ」

一対一タイマンは得意分野デース」


 背中越しに親指を上げるマイケル。


 ずいぶん自信があるみたいだし、ここは任せるとしよう。


「ブモオオオオオオオオ!」

「シッ!」

「モッ!」


 マイケルは腕を畳んで体をコンパクトにまとめると、ミノタウロスの攻撃を軽やかに躱していく。


 隙あらばジャブを見舞ってミノタウロスの集中力をかき乱す。


「ンモオオオオオオオオ!」

「そこデース!」


 マイケルは自身に身体強化魔法バフをかけ、渾身の一撃をミノタウロスの鳩尾にぶち込んだ。


 ミノタウロスの手から両刃の斧が滑り落ち、撃沈。


 自信があっただけあって、危なげない勝利だった。


「やるじゃないかマイケル!」

「ははは、サンキューデース。でも十七夜月さんほどじゃありまセーン」

「いや、強いよ」


 俺が拳を突き出すと、マイケルは一瞬驚いた様な顔をして、次に照れくさそうに笑って自信の拳をつきだした。


 俺たちは互いの拳をぶつけあって、さらに上層を目指す。


 七層は密林だ。三層の森とは違って、熱帯雨林って感じの場所。


 マイケルが腰に下げていた鉈で草を切り裂きつつ、その後ろをついていく。


「十七夜月さんはいい人デース」

「なんだよ急に」

「わたし、日本にきてこんなに楽しいのは初めてデース」

「マイケル……」

「十七夜月さんは、日本でできた初めてのマイフレンドデース」


 マイフレンド、か。


 たしかに不思議とマイケルとは気が合う。


 気さくな彼の性格はいっしょにいてとても楽だ。


「こんど、君の故郷の料理を食べさせてくれよ」

「まかせてくだサーイ! 絶品デスヨー!」


 こんなに仲良くなれるなら、もっと前から話しかけていればよかった。


 その後、俺たちは八層の海洋でクラーケンを倒し、九層の砂漠で巨大なワームを倒した。


「いよいよ十層デスネ」


 螺旋階段の前でマイケルがいった。


”ついに攻略階層が更新されるのか!?”

”こりゃ見ものだぞ!”

”がんばれ二人とも!”

”すげぇ、今年二度目の更新かよ!”

”こっから先は未知のゾーンだ! なにがまってるかわからないぞ!”


 視聴者もだいぶ集まってきた。


「さ、いくか!」


 ほどよい緊張感のなか、俺たちは十層へと登る。


 どんな過酷な場所なのか身構えていると、そこは予想に反してとてもシンプルな場所で拍子抜けだった。


 壁も床も真っ白で、遠く見える中央になにやら紫色の光りが見える。


「ずいぶん味気ない場所だな」

「うぅ……」

「マイケル!?」


 突然、マイケルが苦しそうに呻いて片膝をついた。


 顔中から汗を流し、呼吸は荒く乱れている。


「体がおしつぶされそうデース」


 どうやらこの空間の魔力濃度が高すぎて体が適応できていないらしい。


”やっぱり十層は普通の人間がいられる環境じゃないんだ”

”大丈夫かマイケル!”

”ジャージ戦士ならまだしも一般人が入っていい場所じゃない!”


「まってろ、いま保護魔法をかけてやるから」


 マイケルに保護魔法をかけると、ようやく彼の呼吸が安定した。


「た、助かりマシタ。十七夜月さんは、さすがデスネー」

「ここまで二人で来たんだ。最後まで付き合ってもらうぜ」

「ははは。オーケーデース」


 俺が手を差し出すと、マイケルは大きな手で握り返した。


 マイケルを助け起こし、俺たちは十層の中心に向かった。


「なんだこれ?」


 目の前には紫色をしたひし形の宝石がちょうど俺の目線の高さくらいに浮いている。


 肌がひりつくほどの凄まじい魔力を感じる。


”絶対に触ったら駄目な奴”

”禍々しさが半端じゃない”

”でも触っちゃうんだろ? そうだろジャージ戦士”


 視聴者のみんなは俺がこの宝石を手に入れることを期待している。


 でも、ダメだと思った。


 これは人間が手にしていい力じゃない。


 これは、この宝石は----神の力だ。


「おいマイケル、この宝石は無視して----」

「ノー、十七夜月さん。これはわたしが求めていたパワーデース」


 俺が話し始めるのと、マイケルの大きな黒い手が宝石を包み込んだのはほぼ同時だった。

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