第25話

 俺はとっさにアゲハの手首を掴む。


 なんだこれ。どうなってるんだ。ついさっきまで剣を振るだけでもやっとだったはずなのに、なんなんだこの力は。


「ユルサナイ……」

「アゲハ!? うお!」


 力任せに剣を振り上げられたので後ろに飛びのいた。


 アゲハの状態は明らかに異常だ。


 どうやらガンガン魔力を消費して俺に匹敵する腕力を実現しているようだ。


 なにより全身に電気を帯びているせいで、彼の白髪が逆立っている。


 その姿はまるで----狂戦士バーサーカー


「しっかりしろアゲハ!」

「だまれ……! はアゲハじゃない!」


 アゲハの姿が消えた。


 目で追うことすらできない神速。


 ぞくりと首筋に悪寒が走ってその場にしゃがみ込む。


 いつの間にか背後に回り込んでいたアゲハの一閃が頭上を通過し、さらに剣を振り下ろしてきた。


 速度が乗る前に柄を抑えて動きを止める。


 頭上から襲い掛かる凄まじい圧力によって、俺たちが立っている地面が陥没した。


 いまこいつ、自分がアゲハじゃないっていったよな。


 まさか。


「お前、エクスカリバーか!?」


 いまのアゲハはエクスカリバーの意志に乗っ取られているんだ。


 エクスカリバーの数あるアビリティの一つに臨界突破というものがある。


 一時的に全ステータスを引き上げるアビリティだ。


 つまりいまのアゲハの肉体は、エクスカリバーによって限界を越えた力を引き出されているってことなのだろう。


「やっと気づいたのかこの裏切り者!」


 エクスカリバーは凄まじい剣幕で怒鳴り返してきた。


「う、裏切り者!? 俺がいつお前を裏切ったっていうんだ!」

「わからないなら死ね! そうでなくても死ね! 信じてたのに! 僕はご主人を信じてたのに!」

「落ち着け! 俺はお前のことを大事にしてた! そうだろ!?」


 毎日磨いていたし、寝るときは抱いて寝ていた。


 雨の日も風の日も、俺たちはいっしょにベルンドを巡ってきたじゃないか。


 俺たち、唯一無二の相棒だろ。


 なのにこんなの、悲しすぎるぜ。


「じゃあなんで僕を質屋に売ったんだ!」

「たしかにそれはごめんね!」


 そりゃ怒るよな。俺なら神に誓って復讐するもん、絶対。


 相棒の風上にもおけなかったわ、俺。


「でも聞いてくれ! お前を売らなかったら俺はいまだに住所不定無職のまま公園の葉っぱを食べる生活をしていたかもしれないんだ!」

「僕といっしょにいられるならそれくらい我慢してよ!」

「そ、それは……」

「どーせ僕なんて魔王を倒したらお払い箱なんだ! もう必要なんてなかったんだ! だからご主人は僕を捨てたんだ!」

「だって久しぶりに米が食いたかったんだからしかたないだろ!」


 あ、やっべ。これは失言だった。


 アゲハのこめかみに青筋が浮かんだ。


「それが本音か貴様ああああああああああああああ!」 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 魔力の放出が止まらない。


 これはやばい。剣を掴んでいる手のひらがじくじくと痛む。


 俺はまだしも、このままじゃアゲハの体が耐えきれない。服はところどころ破れ始めているし、体のあちこちから血が流れ出ている。


 急いで対処しないと、と考えていると、ふっと魔力の放出が止まりアゲハがもたれかかってきた。


「止まった……?」

「ぐっ……この体の熟練度ではこれが限界か……。だがいまにみていろ……僕はかならず貴様を葬ってやるからな……」

 

 そんな悪役みたいな捨て台詞を吐いてがくっと気を失うアゲハ。というかエクスカリバー。


「やれやれ、とんでもないことになっちまったな……って、あー!」


 アゲハの肩越しに地面の上で黒い煙を吐き出しているドローンが見えた。


 仕返しなら十分達成しているぞエクスカリバーよ。


================================

2023/07/04 誤字を修正しました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る