第24話

 ダンジョン一層にて。


「どーもみなさんおはこんモルゲーン! ミキヤンでーす! 今日は俺の弟分を紹介します!」

「こんにちは! 舎弟のアゲ丸です!」


 ドローンに向かってびしりと敬礼するアゲハ。配信ネームはついさっき即興で作った。


 動画配信は初めてだと聞いていたから心配だったが、カメラを前にしても平気そうだな。


”アゲ丸くんかっこいい!”

”ジャージさんが攻めにみせかけた受けでアゲ丸くんが受けにみせかけた攻めではかどります!”

”よき”

”いやああああ! アゲ丸くんいい! すっごくいい!”

”やおってやおってよきですな~”


 アゲハの登場によってぐんぐん視聴率が伸びていく。


 文面からして女性視聴者が増えているようだ。


 イケメンってのはそれだけで強い個性ってことの証明だな。


 見掛け倒しなんて言葉があるが、見た目ってのは人柄を見抜く上でわりと重要な要素だと思う。


 アゲハなんてまさに王子様って感じだし、とりあえずイケメンがいるから見てみようって層もいるのだろう。


”ついに男にまで手を出したかジャージ戦士”

”女性視聴者狙いなのがバレバレ”

”けっきょく雫ちゃんとはどうなったの? マオマオたんは?”

”俺は配信もプライベートも応援してるぜー”

”複数の女性に手を出すと刺されるから注意。これマメな。”

”爆炎スキャンダルまってるぜ!”


 既存の視聴者もちゃんといるが、こっちはいつも通り皮肉たっぷりだ。

 

「それじゃ今日はこの新人アゲ丸の戦闘訓練を実況したいと思いまーす! 準備はいいか? アゲ丸!」

「はいアニキ!」


 初見さんによって一時的に視聴率が増えているものの、固定視聴者になってくれるかは今日の配信次第。


 気合を入れていこう。 


「じゃあまずはスライムからいってみよう! ちょうどあそこにいるから切ってこい! アゲ丸!」

「はい! やあああああ!」


 振り下ろされた剣は盛大に空振りして地面にめり込んだ。


 え、空振り?


 動いてないスライム相手に?


「ははは、ちょっと緊張してるみたいだな。落ち着いてやればいいぞ?」

「は、はい!」


 けれどその後も空振り連発。


「うわぁ!」


 それどころか振り上げた剣の重さに耐えきれず後ろに倒れかかってきた。


 危ないと思いとっさに背中を支える。


「おいおい、大丈夫か?」

「は、はいアニキ! ありがとうございます!」


 腕の中でアゲハが見上げてくる。


”尊い”

”普段は別にかっこよくないのにアゲ丸くんの相乗効果でジャージさんがイケメンに見える不思議!”

”孫子曰く、童顔とスポーツマンはよきかな”


 コメントが一気に沸いた。


 今日の視聴者は濃いな。


「あー、スライムはちょっと背が低くてやりづらいか? あっちにブレイクホーン・ウールがいるし、そっちを倒そうか」

「わかりました!」

「無理に振り下ろそうとするなよ? 切っ先は地面に向けて切り上げか横振りで倒すんだ。遠心力を上手に使え」


 アゲハは筋力が足りてない。力のなさを補うには全身を使って振るのが一番だ。


「は、はい! がんばります!」


 続いてブレイクホーン・ウール戦。


 アゲハは俺の指示通り切っ先を下げて向かっていく。


「はああああああ! あっ!」


 ところがいざ切り上げようとしたその時、切っ先が地面に刺さってとまった。


 ブレイクホーン・ウールの目がぎらりと光り、「ヴェエエ!」と雄たけびをあげながらアゲハに突進をかます。


「うわああ!」

「おい! 大丈夫か!?」


 慌ててアゲハに駆け寄ると、彼は目を回して地面に倒れていた。


「ふぁ、ふぁい……らいじょうぶれす……」


 幸い、角によるダメージもなさそうだ。


 それもそのはずブレイクホーン・ウールの角は茹でたタケノコくらいの強度しかない。


 怪我が軽いのは良いんだけど、まさか反撃されるとはな。


 ブレイクホーン・ウールにとって角は異性に対する大事なアピールポイント。可能な限り戦闘を避けて一生涯かけて成長を続ける角を大事に守り通した雄がモテる。


 つまりブレイクホーン・ウールは基本的に攻撃してこない。大きな角を得るためには戦闘を避けることが重要になるからだ。だからこの魔物は、ベルンドで平和の象徴として親しまれている。


 そんな魔物が反撃するなんてよっぽど雑魚だと思われてるってことだぞ。 


 もちろん、そんなこと本人にはいわないけどな。


「立てるか?」


 アゲハに手を差し出して助け起こす。


「あ、ありがとうございます」 


 その後は素振りからやらせてみたがどうも筋力がたりなくて思うように振れないようだ。不器用なのか、体の使い方もなってない。


 配信映えしないし、このさい普通に振るのは諦めて魔法の特訓をすることにしようかな。


「いいか、あの木に向かって最下級魔法を撃つんだ。ファイヤーボールでもアイスショットでもサンダーブレットでもなんでもいい。できるな?」

「は、はい!」

「カメラは気にするな。自分のタイミングで、いけると思ったらやれ」


 アゲハはエクスカリバーを両手で握りしめて深呼吸した。


 刃が青白く発光し、電気を帯びる。


 へぇ、魔力はなかなかのもんだ。


 などと感心していられたのも束の間だった。


 エクスカリバーの帯電量はどんどん増していく。


 ちょっとまて、いくらなんでも魔力を溜めすぎじゃないかこれ。


”なんか画面にノイズが走ってるぞ!”

”動画が止まりまくってるけど大丈夫!?”


 大気中の電荷が増えすぎてドローンの飛行も不安定になってきた。いくらなんでも初級魔法に魔力を使いすぎだ。


 水鉄砲に消防車をつなげるようなもので、このままじゃ暴発しかねない。


「おいアゲハ! もっと抑えろ!」

「できません!」

「は?」

「せ、制御できませんアニキ!」


 まさか今朝の爆発も魔力の暴走が原因で----。


 次の瞬間、目の前が白く染まった。


 光、衝撃、音の順で莫大なエネルギーが全身に叩きつけられる。


「うおおおおお!? アーマードプロテス!」


 全身に魔力で生成した鎧を纏う。


 腕を交差して踏ん張るも飛ばされないようにするだけでやっとだ。


 数秒が経過し、ようやく爆風がおさまった。


「アゲハ!」


 砂塵が舞うなか叫ぶと、視界の端にぎらりと光るものが見えた。


「くっ!?」


 とっさに首を反らして回避。


 刃が前髪を数ミリほど切り取り通り過ぎていった。


 同時に剣の風圧で砂塵が晴れる。


 開かれた視界の向こうにいたのは、バチバチと全身に帯電したアゲハだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る