第21話
「ふぅ、まったくまいったな」
玄関を出て一息つく。
背中の扉越しに陽詩と雫が言い争う声が聞こえてくる。
帰ってくる頃には二人とも落ち着いてるだろう。
さて今日も配信配信、っと。
気持ちを切り替えていると、左隣の扉が開いた。
「あ、どうも」
「……こんにちは」
でてきたのは右目に眼帯をつけ、袖なしの黒いロングコートを着た男だった。男……だよな?
髪は白髪のショートヘア。金色の大きな瞳をしており、ずいぶん可愛らしい顔立ちなのでいっしゅん女に見えた。
この人、ダンジョンの近くで見たことがある。遠目でしかみたことがなかったけどこんな顔してたんだな。
「あの、目、怪我してるんですか?」
「……ファッションです……」
「あ、そうですか……」
ジーワジーワジーワ、とセミの声が妙に大きく聞こえた。
気まず。ぜったい話題を間違えた。
「それじゃ……ボクはこれで……」
「あ、はい……」
歳は近そうだけど仲良くなれそうにはないな。
そう思ってお隣さんを見送ると、彼が背負っているものを見てぎょっとした。
「嘘だろ」
あれ、エクスカリバーじゃん。
※ ※ ※
「ありあとやんしたー」
質屋の店主に見送られて店を出る。
お隣さんが背負っていた剣がなにかの見間違いなんじゃないかと思って、エクスカリバーを売った店を見に来たがすでに買い取られていた。
てことはやっぱりあの剣は、本物のエクスカリバー。俺の剣だ。元、だけど。
売る時に身分証が必要ないくらいいかがわしい店だったし、買われることはないと思ってたんだけどな。
いつか買い戻すつもりでいただけにちょっとがっかりした。
「ま、買われちまったもんはしょうがないか」
あの剣にはそこそこ思い出が詰まってる。
それでも新しい持ち主のもとで大事にされるならそれでいいさ。
これも思い出と生活費を天秤にかけた結果だ。悔いがないといえば嘘になるが、仕方がない。
気を取り直してダンジョンへ向かう。
今日は解説実況に挑戦だ。
先日のコカトリスの解説の反応からして、俺の視聴者層は戦闘関連の情報に興味があるのは把握済み。
ただ戦うだけではいずれ飽きられるのは目に見えてるし、ここいらで新しい配信方式を開拓しておこうって魂胆だ。
そんなわけで今日のところは一層の魔物について解説していこうと思う。
「どーも皆さんおはこんモルゲーン! ミキヤンでーす! 今日は一層の魔物について解説していきたいと----どわぁ!?」
いつも通り最初の挨拶をしていたところ、突如丘の向こうが爆発した。
とっさに振り返ると、空には黒いキノコ雲が立ち昇っている。
”なんだなんだ!?”
”え、なにこれ? 演出?”
”いや違うだろ!”
”一層で謎の爆発発生! ジャージ戦士よ! 急行しろ!”
「いや、でも、今日は解説を……」
”なにいってんだジャージ戦士! 目の前の解説より背後の大爆発だろ!”
”急げジャージ戦士! 一番乗りできれば再生数が伸びるぞ!”
”君なら汚染された環境でもいける!”
”とりあえず人間が活動できる状況なのか調べてきてくれ!”
俺は実験動物かよ。
「ああもうわかったよ! 今日は解説実況から謎の爆発調査実況に変更しまーす!」
”やったあああ!”
”さすがジャージ戦士! 俺なら絶対いかないけどな!”
”俺たちが行けない場所に入っていける! それがジャージ戦士のいいところ!”
「その代わり、SNSで拡散よろしく!」
ドローンにむかってそう告げた後、俺は爆心地に向かって走り出した。
丘の頂上に登ると、その先は地面がむき出しになっていた。
丸焦げになったブレイクホーン・ウールやでろでろに溶けたスライムたちが荒れた大地に転がっている。
幸い人間は巻き込まれていないようだ。平日の朝だったことが幸いしたのだろう。
放射状に広がる爆発の跡。その中央に、人が倒れているのが見えた。
「あれは!」
いまだ大気中にバチバチと放電している中、俺は中央で倒れている人物に駆け寄った。
爆心地に倒れていたのは、お隣さんだった。
「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
彼の手にはエクスカリバーが握られている。
まさか魔力が暴走したのか?
ひとまずエクスカリバーを取り上げないと。このままじゃいつまた大爆発が起きるかわからない。
青白く発光しているエクスカリバーに手を伸ばすと、バチン、と弾かれた。
「え?」
触れない。というよりも、触ることを拒絶された?
妙な感覚に戸惑っていると、徐々にエクスカリバーの光がおさまってきた。
魔力の放出が完全にとまり、周囲に静けさが戻ってくる。
目の前にはぐったりと横たわったまま気を失っている美少年。
”だれだその人”
”たまにダンジョンで見かける黒衣の剣士だ”
”俺も見たことある。かっこいいよね。”
”どうするんだジャージ戦士”
”怪我人だぞ”
「どうするっていわれても……」
放っておくわけにはいかないよな。
エクスカリバーを売った俺のせいでもあるわけだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます