第17話
動画を送信後、幹也はソファの上で雫に押し倒されていた。
「お、おい雫!? さっきのはあくまで演技だからな!? わかってるよな!?」
そう、雨水さんに送った動画はただの演技。
悪い男に騙されそうになっている娘を見れば焦るだろうという作戦だったのだ。
なのになんで焦っているのが俺なんだよ。
「で、でも、わたし、こんなに胸がドキドキしたことなくて……もしかしたら本当に幹也くんのことが……」
雫は耳まで顔を赤く染めながら荒い呼吸で俺に馬乗りになっている。
なんか、太ももとかお尻の柔らかさがジャージ越しに伝わってきていろいろやばい。
でもたぶん一番やばいのは雫の頭だ。目にハートが浮かんでる。
「いや違う! 絶対違う! そのドキドキは男に慣れてないだけだから! 緊張のドキドキだからそれ!」
彼女は青春の大半を剣に捧げてきた武人だ。
同時にギルマス代理を務められるほど勤勉な人でもある。
そんな彼女が普段から男子と密に関わることがないことくらい、恋愛経験がない俺にだってわかる。
間違いなく彼女が感じているドキドキは俺が好きなんじゃなくて異性に触れたドキドキだ。ていうかそうじゃなきゃ困る。
「わたしは剣も気持ちも一途でありたいの……ねえ幹也くん」
雫は俺の胸に
「は、はい……」
「わたしをこんな気持ちにさせた責任……とって?」
「お、おぉ……」
また責任かよ! なんなの!? 百年後の女子は責任とらせるのが流行ってるのか!?
って、そんなことはいまはどうでもいい。
いまはっきり言えることは、俺みたいないつ社会に殺されるかわからないボウフラ男と良家のお嬢様である雫が結ばれるなんてダメだってこと。
俺はいつか百年前に帰る身だぞ。俺たちが結ばれるのはどう考えたって雫のためにはならない。
ここで性欲……じゃねーや、雫の熱意に負けたら、一番悲しむのは雫自身だ。
そんなの、俺は俺を許せなくなっちまう。
「かぁああああのぉおおおおおお!」
なにをどうすればいいのか考えていると、屋敷が震えるほどの怒声が聞こえた。
直後、どたどたどた、と慌ただしい足音が近づいてきて、居間のふすまが細切れになった。
「ここかぁああああ! かのぉおおおおお!」
入室してきたのは
また面倒なタイミングで!
いや、まてよ。これはむしろ渡りに船ってやつじゃないか。
「雫! いますぐその男から離れろ! その首叩き切ってくれるわ!」
「駄目よ! 幹也くんの体はわたしのものなんだから! 髪の毛一本わたさないわ!」
ぎゅっと抱きしめられてむぎゅっと胸の膨らみが顔に押し付けられる。
ちょ、ちょっとまった、理性が揺らぎそう。俺は俺を許しちゃいそう。
「やめろやめろそんなどこの馬の骨ともわからんジャージ男なんて! どうせ飽きたら捨てられるぞ! その時、一番傷つくのは誰だ? それは
おお、雨水さんだいぶご乱心かと思いきやけっこうまともなこといってる。
なんで英語を挟んだのかはわからないけど。
「幹也くんが望むのなら愛されなくてもいい! 体だけでもいい! たとえ見向きもされなくたって、幹也くんの人生を支えることができるならわたしはそれでかまわないの!」
うおおおい、自分がとんでもないこといってるって自覚あるのか雫は。
「わかる! わかるぞその気持ち! 尽くすのは楽しいよな! 誰かのために身を削るのは快感だよな! だが俺は父親として娘が自分を粗末に扱うことを許さん! お前が尽くすべきなのはお前を一生大事にする男だと俺は決めている!」
この父親にしてこの娘あり、か。
あれ、なんだろ。ちょっと冷めてきたな。
ああそうか、ようはこの二人にとって、相手がどう思っているかはたいして問題じゃないんだ。
とにかく自分が尽くしているっていう充足感が得られればそれでいいっていうか、この人と決めたら全力で尽くしたい。尽くすことに人生を捧げたい。そんな思考回路なんだな。
武士かよ。
「そんなのお父さんが勝手にいってるだけじゃない!」
「俺は葉子さんとお前に尽くすことが幸せだった! それは葉子さんもお前も尽くすにあたいする人だったからだ! だがその男は断じてちがぁう!」
刀の切っ先を俺に向ける雨水さん。目が血走ってる。
「お父さんは幹也くんのことぜんぜん知らないじゃない!」
まて雫。俺のこと知らないのはお前もいっしょだぞ。
俺たち出会って二日だぞ。
「ぐぬぬ……いいだろう。ではお前たちの交際を認めるためにある条件を出そう」
「条件ってなに?」
「決まっているだろう。俺は俺より弱い男に娘が守れるとは思っていない。十七夜月幹也ぁ! 俺と決闘しろおおおおお!」
この流れでそうなるのかよ。
「あ、はい」
なんかよくわからないけど、とにかくこれで決闘する流れにもちこめた。
これでいい。
……よな?
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