第15話
「えー、いまちょっと緊急でカメラまわしてるんですけどー」
俺は今、雫の家の和室で配信を始めたところだ。
この問題はなかなか難しい。そこで俺は視聴者たちの知恵を借りようと思った次第である。
”会員限定配信?”
”珍しいね”
”これはなんの配信なんだ?”
ちなみに今回はいつもの一般公開ではなく、会員のみが入室できる限定配信だ。
一般公開だとこの間の陽詩の時のように妙に説得力のある変態が紛れ込む可能性があるからな。
(本当にこれでいい案がでるのかしら?)
(まかせとけって)
雫は画面に映らないようにしてもらっている。
会員の人たちはみんな俺の境遇に共感してくれてる人たちだし、ネットリテラシー的には信頼してるけど万が一ってこともあるからな。
大手ギルマスの代理である雫は顔出ししないほうがいいと判断した。
「あー、いま配信しているのはみんなに相談したいことがあるからなんだ」
”相談って?”
”なんでも話せよブラザー”
”力になるぜ”
さすが会員限定配信。好き勝手に感想を置いていく一般と違って民度が高い。心強いぜ。
「実は友達の父親が推し活に夢中になって引きこもりになっちゃっててさ。どうにか社会復帰させたいんだけど、なにかいい方法とかないかな?」
もちろん、この質問をすることは雫に許可をとってある。
”父親が引きこもりたぁきついな”
”俺だったらぶん殴ってるね”
”その人はどうやって生活してるの?”
どうやって生活してるのか、か。これを正直に話すと雫のお父さんがかなり叩かれそうだな。
さてどこまで話そうかと思っていると、雫は声を出さずに口を開いた。
(いって)
(いいのか?)
覚悟しているのか、雫の目は無言で頷いた。
「いまは貯金を切り崩してる。それと、俺の友達……自分の娘を働かせて生活してる」
”なんだって!? 育児放棄っつーか児童虐待じゃん!”
”それは警察にいったほうがいいんじゃないか!?”
”思ってたよりスーパーハードな内容だったんだが!”
”なんでジャージ戦士の話題はヘビーなものばかりなんだ! 心配でたまらん!”
いかん、視聴者がヒートアップし始めた。
てっきりもっと他人事っぽい返事がくると思っていただけにちょっと焦る。
それどころか、俺も含めて本気で心配してくれてる人もいるみたいだ。
「心配かけてごめん、みんな。いろいろコメントくれて嬉しいけど、警察はまだはやいと思ってる。っていうか、できれば家庭内で解決したいんだ」
”なんで?”
”理由を聞かせてくれ”
”情けは人の為ならずだぞ”
「警察のお世話になったら社会復帰したときに親父さんが苦しむだろ? 結果引きこもりに逆戻りとか、そういうのは避けたいんだ。友達もそれを望んでるし、俺としてもそうしたい」
”なるほど理解理解”
”たしかに平和的解決が最善だな”
”力づくで部屋からだしても、また引きこもる可能性があるってことか”
”本人を納得させるのがベストっていいたんだな”
さすが選ばれし会員たち。理解力が高くて助かる。
「そうそう! そういうことなんだよ! 親父さんも友達のことを大事に思ってはいるみたいなんだけど、なんせそいつがあまりにも優秀すぎるからもう自分が教えることはないとかいっててさ。その真面目さっていうか、面倒見の良さみたいなところが暴走しちゃってるみたいなんだ!」
”つまりジャージ戦士の友達のお父さんは娘の面倒を見れなくなったから推し活にハマったってこと?”
”なんじゃそりゃ”
”呆れた”
”まてまて、てことはだぞ、その娘さんがやっぱりまだ面倒をみなきゃいけないと思わせれば、その子のお父さんは推し活をやめるんじゃないか?”
「面倒を見なきゃいけないと思わせる? ちょっとまて、それ名案じゃないか!?」
雫を見ると、彼女はきょとんとした目で俺を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます