第7話
責任をとるもなにも俺たちはいまであったばかり。少なくとも俺はこんな美少女に心当たりはない。
なにも言い返せずにいるとコメントが荒れ始めた。
”おいおい二人の間になにがあったんだ!?”
”マオマオたんが責任を取らせたがってるってことはジャージ戦士がなにかしたってこと?”
”嘘だろジャージ戦士見損なったぞ”
”これってなんかの企画?”
企画なんかじゃない。完全に事故配信だ。
「悪いけど、身に覚えのない責任はとれないな。だいたい俺たちは今初めてであったばかりだろ?」
「いいや違う。わらわたちにはそれはそれは深い因縁がある。お主がわからなくとも、わらわにはわかる。のう----勇者よ!」
「……は?」
こいつ、なんで俺が勇者だと知ってるんだ。
俺の動揺を察したのか、謎の美少女は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべた。
「我が名はマオマオ! 真の名はディストリビュータ・アッシュタロト・シュバルツヘザー! ベルンドの魔を統べる
嘘だろ。
こいつがあの魔王だと。
あのボンキュッボンでナイスバディだったお姉さんが、こんなつるつるぺったんこな美少女だと。
いったいなにがあったらこんなことに。
「いったい----」
普通に返事をしそうになってはっとした。
”きたあああああ! マオマオたんの中二病炸裂うううう!”
”ジャージ戦士はこの強引な世界観の押し売りにどう対応するんだ!?”
”マオマオたんをみてるとなんかこうムズムズするんだわ”
”わかる、的確に恥ずかしいところをつついてくるというか”
”でもそれが癖になるのだよ”
”マオマオたんの上級者、やばすぎワロタw”
これは不味い。このまま奴の世界観に引っ張られると、俺まで中二病キャラとして扱われそうだ。ここは知らぬ存ぜぬでいこう。
「……君はなにをいってるんだ?」
「なにぃ?」
「悪いけど、俺は他の実況者のこととか詳しくないからいきなりそんなノリで話しかけられても困るっていうか」
「なっ! 貴様! しらばっくれるつもりか!?」
「あー、いや、たぶん人違いなんじゃないかな。君の知り合いってこんなジャージ男なのか?」
魔王がなんでこんなロリっ娘になっているのかはわからないがかかわりたくない。なんとかがんばって人違いだと思わせよう。
「たしかにあ奴はジャージではなかったが……だ、だが! 貴様が聖剣エクスカリバーを持つ勇者だということは……む?」
「剣なんてもってないぞ」
売っちまったからな。
「むむ? おいお主、ちょっと面をかせぃ!」
魔王はつかつかと歩み寄ってきて俺の顔を両手で挟むと、じっくり観察し始めた。
うわ、近くで見るとほんとに人形みたいに整った顔だな。
「うむむ、十六年も前じゃから顔が思い出せぬ……果たしてこんな間抜け面じゃったろうか……」
「余計なお世話だ!」
手を振りほどいて背を向ける。あんまり顔を見られて思い出されちゃ面倒だしな。
”マオマオとあんなに接近するなんて!”
”う、羨ましすぎるうううううううう!”
”そこかわれジャージ戦士! あとは俺に任せて先に行け!”
”ジャージ戦士も間抜け面っていうほどでもないけどな”
”かといってもイケメンでもない微妙なラインw”
”まぁ、マオマオとはつりあわんわな”
なんか好き勝手言われてるけどひとまず視聴者たちは無視だ。視聴率は確実に上がってるから配信は続けるけど。
「うーむ、やはりわらわの勘違いだったんじゃろうか。わらわの知る勇者はもっとケダモノみたいな感じで人の胸とか足とか舐めるようにみてくる奴じゃったし」
「おまっ! それはお前が----」
「む? なんじゃ。わらわがどうかしたのか?」
しまった。いまのは失言だった。
「お前が、その、お子様体型だからだ。もっとセクシーなお姉さんなら俺の見る目も変わるかもな」
「な、なんじゃとー! これでもわらわは配信者業界じゃ一位、二位をあらそう美少女配信者として有名なんじゃぞ!」
「悪いが俺はおこちゃまには興味ないんでね」
異世界で戦ったときのこいつは、それはもう絶世の美女といっても過言じゃなかった。少なくともいまの平坦な体型とは大違い。そりゃ視線も誘導されるってもんだ。
たしかにいまのこいつも髪は綺麗だし、なんか薔薇っぽいいい香りがするし、以前のような大人の魅力はないけどもっとあどけない感じの可愛らしさがあるといえばあるのだが……って、なにを考えてるんだ俺は。
「なんじゃ、ちらちら見てきおって」
「な、なんでもねーよ!」
「怪しいのう……」
「怪しくない!」
「いいや、怪しい。よし、決めた。今日は一日お主を監視させてもらうぞ!」
「はぁ!?」
「駄目とはいわせぬぞ。お主が勇者ではないというのなら、わらわに監視されてもなにも問題はないはずじゃ。違うか?」
なんでそうなるんだよ。
”緊急告知! ジャージ戦士とマオマオのコラボ!”
”拡散しろ拡散!”
”予想外の展開きたぞー!”
”マオマオは単品ならいいけどコラボ向きじゃないからな!”
”超有名実況者と期待の新人、夢のコラボ”
視聴者たちはなんか盛り上がってるな。正体がバレるのはなんとしてでも避けなきゃならないけど、ここで断るのは配信者として不自然だ。
「わかった。好きにしろよ」
「ふふん、それでよい」
というわけで、なぜか今日一日魔王に付きまとわれることになった。
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