第6話
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うす暗い部屋の中。一人の少女が勉強机に置かれたノートパソコンのモニタを食い入るように見つめていた。
そこに映っているのは強力な魔法を惜しげもなく使い、ばったばったと敵をなぎ倒す黒いジャージの青年だ。
「くっくっくっ……よもやお主がここにいるとはな……。会いたかったぞ、勇者」
少女は唇の端を微かに吊り上げた----。
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俺の目標は二つ。
一つ目は生活を安定させること。ようは金だ。こちらは動画配信で何とかなりそうなのでひとまず現状維持でいいだろう。
二つ目は百年前の日本に戻る方法を探すこと。こっちは正直、雲をつかむような話だ。
なぜ百年後の日本にきてしまったのかは、これは単なる憶測だけど、魔王との戦いで時空が歪んだことで百年後に来てしまったのだろう。
つまり俺は完全な浦島太郎状態ってこと。
タイムトラベルなんていくら魔法が存在する世界となった現代日本でも難しいだろう。もしも実在するならネットですぐにでも情報が拾えるはずだが、めぼしいものはない。
それでも方法がないわけじゃないと思う。百年後に来れたってことは、帰る方法もあるはずだ。たぶん。
可能性があるとしたら、きっとダンジョンだろう。ここはベルンドと地球の中間に位置しているせいか、明らかに時空が乱れている。
一層や三層はずっと昼間だし、二層はずっと夜だ。
よく調べれば帰るためのヒントが見つかるかもしれないわけだが、それ以上に大事なのは配信だ。
配信は俺にとって生命線。なんにしたって日銭を稼がなきゃ明日の飯にもありつけない。
今日も俺はドローンを小脇に抱えて、上下ジャージのままダンジョンへとやってきた。
「おい、あいつ……」
「ああ、例のジャージ戦士」
「なんでも超有名ギルドからの誘いがいくつも届いてるって噂だぞ」
「でも断ったんだろ?」
「あー、聞いた聞いたそれ。幸運の刃だろ? やばいよなあそこ」
はやくも俺のことが知れ渡っているようだ。ついでに幸運の刃の悪評も広まってるみたいだが、そっちはどうでもいい。
ただあれだな。もうちょっといいあだ名はなかったのかな。ジャージ戦士ってのはあまりにもかっこがつかない。
生活が安定してきたら装備を整えたほうがよさそうだ。そのときついでにエクスカリバーも買い戻そう。
そんなことを考えながらダンジョンに入り、日の光を浴びながら一度深呼吸をする。
「よし、今日もやるか!」
ドローンを滞空させて配信を開始。
「どーも皆さん、おはこんモルゲーン! ミキヤンでーす!」
”おおー! まってましたジャージ戦士!”
”今日は何層までいくんですか!?”
”つーかあんた何者だよ!”
”ギルドからオファーがあったって本当?”
さっそく視聴者がやってきた。人数も続々と増えてくる。まだまだ新規さんも多いし、今日は改めて自己紹介から始めようかな。
「えー、ギルドからオファーがあったのは本当です。でも、いまのところ俺はフリーでやっていこうと思います」
”フリー? なんで?”
”せっかくオファーがあったなら入ればいいのに!”
”もったいない!”
”幸運の刃は駄目だけどいいギルドはたくさんあるよ!”
やっぱ普通はそうだよな。ギルドに入れば安定して金を稼げるし、この世界で生きていくつもりがあるなら入った方がいいに決まってる。でも、
「俺にはダンジョン攻略とは別でやらなきゃいけないことがあるんだ」
”やらないといけないことって?”
”お、ジャージ戦士のさらなる過去が明らかになるのか”
”なんだなんだ”
”おせーて”
さてどこまで話そうかな。下手に隠すより異世界から帰還した勇者なんですって正直には話しちまうか。
視聴者の知恵を借りたほうが、元の時代に帰る手がかりも早く見つかりそうだしな。
「実は俺----ん?」
不意に顔面に火球がぶつけられた。といっても熱くもなんともない威力だが。
”うおおおおお!? いきなり攻撃されたぞ!?”
”いまのってファイヤーボール!? にしては大きくない!?”
”普通はソフトボールぐらいなのに、いまのボウリング玉くらいあったぞ!”
視線の先。丘の上に太陽を背にして立っている少女がいた。
「だれだ? 悪いけどいまは配信中なんだ。用があるならあとにしてくれ」
”って、なんでジャージ戦士はなにごともないんだよ!”
”顔面に直撃して傷一つないの草なんだ”
”平然としすぎワロタ”
丘の上の少女はゆっくりと降りてくる。
ようやく丘の陰に入って顔が見えると、それはそれは目が覚めるような美少女だった。
腰まで伸びた
けぶるようなまつ毛に囲まれた瞳は吸い込まれそうなほど深い藍色で、猫のような釣り目だ。
体型は小柄でスレンダー。制服を着ているから中学生か高校生かな。
他の探索者たちと同じく、彼女も腰に剣を携えている。手元にガードがついたレイピアだ。
「お主が噂のジャージ戦士か」
「誰だ?」
「ふふん、わらわが誰か知りたいのか? ならば
そういって俺のリストバンドを指差す謎の美少女。
いわれるがまま左手首のモニタに視線を移す。
”あれってマオマオじゃね?”
”そうだよ! ロリ系中二病美少女実況者のマオマオじゃん!”
”うおおおおおまさかこんなところでジャージ戦士とマオマオのコラボとか胸熱すぎるんですけど!”
どうやら彼女も実況者らしい。それもかなり有名みたいだ。
俺は全然知らないけど。
「で、その有名実況者さんが俺になんの用だ?」
「ふふん。わらわは貴様に、責任をとってもらいに来た!」
彼女は偉そうに腕を組んでふんぞり返りながら、そんなことをのたまった。
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2023/06/27 百年後の日本に来た理由の部分を修正しました。
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